25歳差の恋愛指南、それは人生最大の不覚でした

naomikoryo

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第五十一話:「“あなたを守る人間でありたい”――その言葉を、人生で初めて誰かからもらった気がした」

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朝、スマホの通知を開いた瞬間。
まるで心の奥に、そっと光を差し込まれたような気がした。

“理奈さん。
あなたが“味方になります”と言ってくれたとき、
心の中に、小さな永遠が灯った気がしました。”

“僕は、あなたに恋をしています。
でも今はそれ以上に、あなたの味方でいたいと思っています。
これから何があっても、あなたのそばにいたい。”

“仕事としてじゃなく、
恋としてでもなく、
一人の人生として、
あなたを守る人間でありたいです。”

読み終えたあと、しばらくスマホを握ったまま、動けなかった。
胸が、ゆっくりと熱を持っていく。
呼吸が浅くなるのを、自分でもどうにもできなかった。

(……あなたを守る人間でありたい)

そんなふうに、誰かに言われる日が来るなんて。
しかも、こんなにも真っすぐに。
こんなにも……やさしく、強く。

私はもう大人だ。
経験も、苦しみも、誇りも、背負ってきたつもりだった。

だけど、
こんなにも心が震える言葉を、
私はいったい、いつぶりに聞いたのだろう。

いや――
もしかしたら、人生で初めてかもしれない。

**

ベランダに出て、朝の冷たい空気を肺に吸い込む。

秋の気配が静かに忍び寄っていて、
空の青さに、少しだけ滲むような切なさがあった。

(……優しい子ね、本当に)

彼は、たぶんまだ何も知らない。
人を愛することで失うものもあると、
信じることで裏切られる苦しみもあると、
恋が続いていくことの難しさも。

でも、それでも。
“あなたを守る人間でありたい”と、彼は言ってくれた。

その気持ちに、嘘はなかった。
迷いも、恐れもない。
ただ、まっすぐに私の心へ届いてきた。

(私も、変わらなきゃいけない)

いつまでも、立場に甘えて、
過去に縋って、
恋を“封じる”ことで自分を守っているだけでは、もういけない。

彼の想いに、応えるために。
そして何より、自分自身の人生に、責任を持つために。

**

会社に出勤すると、すぐに清美が近寄ってくる。

「理奈さん、純先生の件で出版社から追加の打診が来てます!
初版部数増やしたいって、営業も乗り気でした」

「……そう。いい流れね」

「ですね~。ていうか理奈さん、最近ちょっと雰囲気違いません?」

「雰囲気?」

「なんかこう……やわらかくなったっていうか。
えーと……母性? いや、“恋してる女”って感じ……?」

その言葉に、思わず吹き出しそうになる。

「清美、失礼よ。社長に向かって」

「うわ、ごめんなさい、悪気はないんです! でも、
ほんとに理奈さん、最近いい顔してると思いますよ。
なんか……肩の力抜けたっていうか」

私はごまかすように笑って、デスクへ戻った。
清美の言葉が、妙に胸に残る。

(……私、そんな顔してた?)

自分では何も変わっていないつもりだった。
でも、確かに――
何かが、変わり始めているのかもしれない。

**

その日の午後、営業の凜華が資料を持ってやって来た。

「ねえ理奈さん、この帯コメント案どう思う?」

「“物語の中に、大人の恋のやさしさがある”……?」

「うん。ちょっと甘すぎ? でもターゲット意識すると、これくらいがちょうどいいかもって」

私は少し考えて、うなずいた。

「……悪くないと思うわ。むしろ、彼の作品に似合ってる」

凜華は意外そうな顔をした。

「理奈さんって、いつももっとクールに切るじゃん。
“ここは情に流されないで冷静に”とか。
……最近、なんか、柔らかいよね。やっぱ恋?」

私は目を伏せ、微笑んだ。

(違うわ、凜華。
これはたぶん、“愛”に近いの)

**

帰宅後、リビングの灯りだけを点けて、
ソファに深く身体を預ける。

そのまま、ゆっくりと目を閉じると、
彼の声が胸の奥で、また小さく響いた。

“あなたを守る人間でありたいです”

守られる、なんて。
そんなこと、考えたこともなかった。

私はずっと、誰かの盾でいようとした。
部下を守る。会社を守る。家族を守る。
そして、夫の思い出を、ずっと――

でも。

今は、違う。
“守られること”を、怖がらなくなっている自分がいる。

その事実に、自分で少し驚いていた。

(……私は、あの人の隣を歩いてみたい)

手を繋げなくてもいい。
恋人だと言えなくてもいい。
ただ隣にいて、一緒に未来を見ていけたら――
それだけで、どれほどの幸福だろう。

**

寝室に移動する前、私はふとスマホを手に取った。

送るべきか迷ったけれど、
でも、この想いはちゃんと形にしなければと思った。

私は、画面に短い一文を打ち込む。

『“守る”って言葉に、
こんなにも心があたたかくなるなんて思っていませんでした。
ありがとう。』

そのまま送信ボタンを押し、
スマホを伏せる。

胸の奥に、静かに小さな火がともっていた。

これは、彼がくれたもの。
でも、もうそれだけじゃない。

私の中に芽生えた、“誰かと生きる”という新しい選択。

ようやく私は、
この恋を抱えるのではなく、
歩き出そうとしている。
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