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第五十二話:「“この人と生きる”という選択肢を、はじめて現実として考えた日」
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返信が届いたのは、夜の0時を少し過ぎた頃だった。
『“守る”って言葉に、
こんなにも心があたたかくなるなんて思っていませんでした。
ありがとう。』
短いメッセージだった。
でも、僕の胸の中には、柔らかな衝撃が広がった。
彼女の言葉が、“届いた”のだ。
それだけで、息が詰まりそうだった。
そして気づく。
(――これは、恋じゃない)
ただときめいているとか、
ただ一緒にいたいとか、
そんな次元の感情じゃない。
彼女の未来に自分が存在することを、
はじめて“現実”として考えた夜だった。
**
眠れなかった。
ベッドに入っても、脳が冴えてしまっていた。
(この人と一緒に、生きる――?)
思ってみる。
ゆっくりと、確かめるように、その言葉を心に置いてみる。
一緒に朝を迎えて、
一緒にコーヒーを飲んで、
彼女が読む原稿を、黙って隣で見守って――
そんな未来が、ぼんやりとでも浮かぶようになったことに、
自分でも驚いていた。
たった半年前まで、
僕は人と手をつなぐことすら想像できなかったのに。
**
朝。
コーヒーを淹れて、原稿用紙の山を眺める。
少し前までの僕は、“書くこと”が人生のすべてだった。
でも今は違う。
彼女が読んでくれるから、書きたいと思える。
彼女が喜んでくれるなら、もっと上手くなりたいと思える。
それは依存じゃない。
たぶん、“共有”だ。
(この人生を、誰かと分け合うという感覚)
そんなものを、自分が得られる日が来るなんて思っていなかった。
**
昼過ぎ、担当の吉田さんとリモート打ち合わせがあった。
「先生、前に比べて恋愛描写、格段に自然になってますよね。
キャラのセリフとか、リアルっていうか……経験から来てる感じがします」
「……経験、ですか」
思わず、笑ってしまった。
そんなにわかりやすいものだろうか。
でも、確かに。
今なら、書ける気がする。
誰かを思い、
誰かの未来を願い、
そのために自分ができることを探す――
そんな“生きた感情”を。
「先生、次回作、ヒューマン寄りで企画通しましたよ。
編集長、すごく期待してます」
「ありがとうございます」
未来が、ちゃんと形になろうとしている。
その真ん中に、彼女の存在がある。
(もっと強くなりたい)
(彼女に“支えてほしい”なんて、もう言いたくない)
(僕が彼女の背中を支えられるように、なりたい)
**
夕方、軽く散歩に出た。
秋の風が、シャツの裾を静かに揺らす。
近くの公園のベンチに腰を下ろして、
ふと思う。
(彼女と、こうして歩いたこと、あったっけ……?)
ふたりきりで外に出たことは、まだ一度もなかった。
外出どころか、食事ですら“仕事”としてしかしていない。
(でも、きっともうすぐ)
今なら誘える気がした。
いや、誘いたいと思えた。
この風の中を、並んで歩いてみたい。
ただの散歩でもいい。
映画でも、美術館でも。
彼女が行きたいと思ってくれる場所に、僕も一緒にいたい。
そうやって、少しずつ。
ふたりで時間を重ねていけたら――
(それが“人生を共にする”ってことなんじゃないか)
**
夜、ノートを開いた。
新作プロットのアイデアを、箇条書きで書き出す。
主人公は年上の編集者
ヒロインは言葉を信じるのが怖くなっている
彼は彼女に「味方になる」と言う
恋ではなく、“生き方”を重ねていく物語
あの人に、まだ読ませるわけじゃない。
でも、
この物語が生まれた瞬間の気持ちは、きっと嘘じゃない。
誰かのために物語を書くこと。
その“誰か”が、たった一人の人であるということ。
それは、作家としての自分にも
一人の男としての自分にも、
本物の“軸”を与えてくれる。
(あなたと生きていきたい)
(その未来を、自分の手で作っていきたい)
今夜、ようやくその言葉を、
心の中で口にすることができた。
**
スマホを手に取り、しばらく迷った末に、
結局メッセージは送らなかった。
今は、言葉じゃなくていい。
この想いは、行動で伝える。
少しずつ、丁寧に。
時間をかけて。
そして、
いつか確かに伝わる瞬間が来たら――
そのときにはもう、
“彼女の人生に並ぶ覚悟”を、何の迷いもなく持っていたい。
それが僕の選んだ、“恋”のかたち。
『“守る”って言葉に、
こんなにも心があたたかくなるなんて思っていませんでした。
ありがとう。』
短いメッセージだった。
でも、僕の胸の中には、柔らかな衝撃が広がった。
彼女の言葉が、“届いた”のだ。
それだけで、息が詰まりそうだった。
そして気づく。
(――これは、恋じゃない)
ただときめいているとか、
ただ一緒にいたいとか、
そんな次元の感情じゃない。
彼女の未来に自分が存在することを、
はじめて“現実”として考えた夜だった。
**
眠れなかった。
ベッドに入っても、脳が冴えてしまっていた。
(この人と一緒に、生きる――?)
思ってみる。
ゆっくりと、確かめるように、その言葉を心に置いてみる。
一緒に朝を迎えて、
一緒にコーヒーを飲んで、
彼女が読む原稿を、黙って隣で見守って――
そんな未来が、ぼんやりとでも浮かぶようになったことに、
自分でも驚いていた。
たった半年前まで、
僕は人と手をつなぐことすら想像できなかったのに。
**
朝。
コーヒーを淹れて、原稿用紙の山を眺める。
少し前までの僕は、“書くこと”が人生のすべてだった。
でも今は違う。
彼女が読んでくれるから、書きたいと思える。
彼女が喜んでくれるなら、もっと上手くなりたいと思える。
それは依存じゃない。
たぶん、“共有”だ。
(この人生を、誰かと分け合うという感覚)
そんなものを、自分が得られる日が来るなんて思っていなかった。
**
昼過ぎ、担当の吉田さんとリモート打ち合わせがあった。
「先生、前に比べて恋愛描写、格段に自然になってますよね。
キャラのセリフとか、リアルっていうか……経験から来てる感じがします」
「……経験、ですか」
思わず、笑ってしまった。
そんなにわかりやすいものだろうか。
でも、確かに。
今なら、書ける気がする。
誰かを思い、
誰かの未来を願い、
そのために自分ができることを探す――
そんな“生きた感情”を。
「先生、次回作、ヒューマン寄りで企画通しましたよ。
編集長、すごく期待してます」
「ありがとうございます」
未来が、ちゃんと形になろうとしている。
その真ん中に、彼女の存在がある。
(もっと強くなりたい)
(彼女に“支えてほしい”なんて、もう言いたくない)
(僕が彼女の背中を支えられるように、なりたい)
**
夕方、軽く散歩に出た。
秋の風が、シャツの裾を静かに揺らす。
近くの公園のベンチに腰を下ろして、
ふと思う。
(彼女と、こうして歩いたこと、あったっけ……?)
ふたりきりで外に出たことは、まだ一度もなかった。
外出どころか、食事ですら“仕事”としてしかしていない。
(でも、きっともうすぐ)
今なら誘える気がした。
いや、誘いたいと思えた。
この風の中を、並んで歩いてみたい。
ただの散歩でもいい。
映画でも、美術館でも。
彼女が行きたいと思ってくれる場所に、僕も一緒にいたい。
そうやって、少しずつ。
ふたりで時間を重ねていけたら――
(それが“人生を共にする”ってことなんじゃないか)
**
夜、ノートを開いた。
新作プロットのアイデアを、箇条書きで書き出す。
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ヒロインは言葉を信じるのが怖くなっている
彼は彼女に「味方になる」と言う
恋ではなく、“生き方”を重ねていく物語
あの人に、まだ読ませるわけじゃない。
でも、
この物語が生まれた瞬間の気持ちは、きっと嘘じゃない。
誰かのために物語を書くこと。
その“誰か”が、たった一人の人であるということ。
それは、作家としての自分にも
一人の男としての自分にも、
本物の“軸”を与えてくれる。
(あなたと生きていきたい)
(その未来を、自分の手で作っていきたい)
今夜、ようやくその言葉を、
心の中で口にすることができた。
**
スマホを手に取り、しばらく迷った末に、
結局メッセージは送らなかった。
今は、言葉じゃなくていい。
この想いは、行動で伝える。
少しずつ、丁寧に。
時間をかけて。
そして、
いつか確かに伝わる瞬間が来たら――
そのときにはもう、
“彼女の人生に並ぶ覚悟”を、何の迷いもなく持っていたい。
それが僕の選んだ、“恋”のかたち。
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