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第五十七話:「あなたに触れられた唇が、こんなにも生きていると感じたのは、久しぶりだった」
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唇が、熱を持っていた。
触れたのは、ほんの数秒。
それなのに――
私の身体はまるで、
心臓のすぐ隣に“記憶”が埋め込まれたように、ざわめいていた。
(あなたに触れられた唇が、
こんなにも生きていると感じたのは、久しぶりだった)
そして今もまだ、
少しだけ震えている。
**
部屋の空気が、変わっていた。
ふたりきりの会議室。
誰もいない。
けれど、たしかにそこには“何か”があった。
静寂という名の、感情の余韻。
重ねた唇の温もりは、
まだ私の唇に、きちんと残っていた。
**
キスをしたあと、彼は何も言わなかった。
ただ、そっと隣にいてくれた。
“もっと触れていいですか”とも言わなかったし、
“好きです”とも言わなかった。
言葉よりも、そばにいてくれることで、
彼は今の私を肯定してくれた。
(それが、何よりも――愛しかった)
**
オフィスを出たあとの夜風が、心地よかった。
肌寒いはずなのに、
私はなぜか、コートの前を閉じようと思えなかった。
(まだ、残ってるからかしら……)
唇の感触。
あの一瞬の体温。
彼のまっすぐな想い。
ふいに手が、唇に触れた。
まるで確かめるように、そっとなぞる。
私は今――
まちがいなく、恋をしている。
そして、それを“生きている”と実感している。
**
帰宅後、ダイニングに腰を下ろして、
グラスに注いだ赤ワインが、
今夜はやけに甘く感じた。
「……何やってるのよ、私」
ぽつりと声が漏れる。
49歳。
会社の社長。
未亡人。
年下の男の子にキスされて、
顔を赤らめてる。
そんな自分が、
可笑しくて、そして――愛おしかった。
**
もう、抗うのをやめてもいいのかもしれない。
“年齢差”なんて、もうどうでもいい。
彼は私を見ている。
“49歳の女”としてじゃない。
“私”という人間そのものとして。
(こんなふうに想われることが、
こんなにも幸せだなんて……)
涙が出そうになった。
だけど泣かなかった。
それは悲しみじゃない。
どこまでもあたたかくて、
胸の奥が、じんわりと満たされていく感情。
これはたぶん――
再生。
**
私は、もう一度恋をしている。
そして、その恋はもう
“理性で抑える”べきものじゃなくなっている。
心が求めている。
身体が、そっと目覚めていく。
あのキスは、ただ唇を重ねただけじゃない。
“過去”に閉じ込めていた女の私を、
彼が“今”に連れ戻してくれた。
それだけで、どれほどの奇跡だろう。
**
スマホが震えた。
画面には、彼からのメッセージ。
『今日、ありがとうございました。
あの時間が、僕にとって一生ものの記憶になりました。
理奈さんに触れられて、ようやく“今”を生きてる気がしました。』
私も、そっと返信を打つ。
『私も……同じです。
あなたがくれたあのキスは、
私の人生に、新しい始まりをくれました』
**
送信ボタンを押したあと、
私はそっと目を閉じる。
明日、また彼と会う。
いつものように、仕事をする。
でももう、“いつも通り”には戻れない。
そう思ったら、
ふっと、笑みがこぼれた。
(それでいいのよ、きっと)
私たちはもう、ただの作家と編集じゃない。
ただの社長と社員でもない。
“ふたりで歩いていく関係”に、
足を踏み入れたのだから。
触れたのは、ほんの数秒。
それなのに――
私の身体はまるで、
心臓のすぐ隣に“記憶”が埋め込まれたように、ざわめいていた。
(あなたに触れられた唇が、
こんなにも生きていると感じたのは、久しぶりだった)
そして今もまだ、
少しだけ震えている。
**
部屋の空気が、変わっていた。
ふたりきりの会議室。
誰もいない。
けれど、たしかにそこには“何か”があった。
静寂という名の、感情の余韻。
重ねた唇の温もりは、
まだ私の唇に、きちんと残っていた。
**
キスをしたあと、彼は何も言わなかった。
ただ、そっと隣にいてくれた。
“もっと触れていいですか”とも言わなかったし、
“好きです”とも言わなかった。
言葉よりも、そばにいてくれることで、
彼は今の私を肯定してくれた。
(それが、何よりも――愛しかった)
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オフィスを出たあとの夜風が、心地よかった。
肌寒いはずなのに、
私はなぜか、コートの前を閉じようと思えなかった。
(まだ、残ってるからかしら……)
唇の感触。
あの一瞬の体温。
彼のまっすぐな想い。
ふいに手が、唇に触れた。
まるで確かめるように、そっとなぞる。
私は今――
まちがいなく、恋をしている。
そして、それを“生きている”と実感している。
**
帰宅後、ダイニングに腰を下ろして、
グラスに注いだ赤ワインが、
今夜はやけに甘く感じた。
「……何やってるのよ、私」
ぽつりと声が漏れる。
49歳。
会社の社長。
未亡人。
年下の男の子にキスされて、
顔を赤らめてる。
そんな自分が、
可笑しくて、そして――愛おしかった。
**
もう、抗うのをやめてもいいのかもしれない。
“年齢差”なんて、もうどうでもいい。
彼は私を見ている。
“49歳の女”としてじゃない。
“私”という人間そのものとして。
(こんなふうに想われることが、
こんなにも幸せだなんて……)
涙が出そうになった。
だけど泣かなかった。
それは悲しみじゃない。
どこまでもあたたかくて、
胸の奥が、じんわりと満たされていく感情。
これはたぶん――
再生。
**
私は、もう一度恋をしている。
そして、その恋はもう
“理性で抑える”べきものじゃなくなっている。
心が求めている。
身体が、そっと目覚めていく。
あのキスは、ただ唇を重ねただけじゃない。
“過去”に閉じ込めていた女の私を、
彼が“今”に連れ戻してくれた。
それだけで、どれほどの奇跡だろう。
**
スマホが震えた。
画面には、彼からのメッセージ。
『今日、ありがとうございました。
あの時間が、僕にとって一生ものの記憶になりました。
理奈さんに触れられて、ようやく“今”を生きてる気がしました。』
私も、そっと返信を打つ。
『私も……同じです。
あなたがくれたあのキスは、
私の人生に、新しい始まりをくれました』
**
送信ボタンを押したあと、
私はそっと目を閉じる。
明日、また彼と会う。
いつものように、仕事をする。
でももう、“いつも通り”には戻れない。
そう思ったら、
ふっと、笑みがこぼれた。
(それでいいのよ、きっと)
私たちはもう、ただの作家と編集じゃない。
ただの社長と社員でもない。
“ふたりで歩いていく関係”に、
足を踏み入れたのだから。
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