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第六十話:「誰よりも早く気づいて、誰よりも遅く触れて、それでも愛を手に入れる――そんな恋を、彼女としたい」
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誰よりも早く、彼女に惹かれた。
誰よりも早く、彼女の心の奥に“触れたい”と願った。
けれど、
誰よりも遅く、彼女に触れた。
誰よりも遠く、彼女の過去を見つめていた。
それでも――
この恋を“愛”にしたいと願うのは、
自分のすべてで、彼女と向き合いたいと思っているからだ。
(焦らない。
でも、立ち止まりもしない)
**
60話目。
物語の、ちょうど真ん中。
もし、この恋が物語なら、
このあたりで“決定的な転換”が必要なんだろう。
でも僕たちは、
そんな劇的なことをしなくても、
ゆっくりと、確かに変わってきた。
彼女が、僕の隣に“いてくれる”ようになった。
目を逸らさなくなった。
沈黙に、微笑みで応えてくれるようになった。
それが、何よりもうれしい。
**
今日は、打ち合わせなし。
資料の確認だけのために、月灯社に寄った。
エントランスで社員たちと軽く挨拶を交わし、
理奈さんのデスクに向かうと、
彼女はすでにそこにいた。
「おはようございます」
「……おはよう。来てくれて、ありがとう」
その言葉だけで、
一日分の呼吸が軽くなるようだった。
「すぐ済むから、ちょっと待ってて」
彼女がデスクから立ち上がり、書類を取りに席を外す。
戻ってきたとき、
彼女の指先が、僕の手の甲にふれた。
ほんの、一瞬。
偶然かもしれない。
でも――
(あえて避けなかった)
それだけで十分だった。
**
資料を受け取り、社を出ようとしたとき。
ふいに、彼女が言った。
「ねえ、今日……少しだけ、歩かない?」
僕は一瞬、聞き返しそうになった。
でも、彼女は照れたように続ける。
「たいした用事はないの。
ただ……歩いてみたくなったのよ、あなたと」
それはきっと、
彼女なりの“踏み出し”だった。
僕は、静かに頷いた。
**
午後の陽射しが穏やかで、
街路樹の影が、アスファルトに揺れていた。
並んで歩く。
ただそれだけのことが、
とても特別だった。
「……この辺、学生の頃よく歩いたのよ」
「そうなんですね」
「何もないけど……落ち着く場所。
たぶん、今も変わってない」
そんな何気ない会話すら、
僕には宝物だった。
途中、信号待ちのタイミングで、
僕の手に、ふいに柔らかい感触が重なった。
理奈さんの指が、
そっと、僕の指に触れていた。
手を握るでもない。
絡めるでもない。
ただ、“近づいてきた”だけの距離。
けれど――
(これ以上の愛の証は、ない)
言葉はいらなかった。
どんなセリフよりも、
彼女の“今、私も一緒にいる”という選択が、
僕のすべてを満たしてくれた。
**
歩いた先の公園で、ふたり並んでベンチに腰かけた。
風がやさしかった。
秋の終わりの匂いがした。
「……寒くないですか?」
「平気よ。
あなたがそばにいるから」
その一言が、
この世界に存在するすべての言葉の中で、
いちばんやさしかった。
**
(誰よりも早く気づいて、
誰よりも遅く触れて、
それでも、愛を手に入れる)
僕は、彼女とそんな恋がしたい。
派手じゃなくていい。
急がなくていい。
でも、
確かな温度で、
確かな時間で、
彼女の心に寄り添っていきたい。
ずっと、
その隣に、いたい。
誰よりも早く、彼女の心の奥に“触れたい”と願った。
けれど、
誰よりも遅く、彼女に触れた。
誰よりも遠く、彼女の過去を見つめていた。
それでも――
この恋を“愛”にしたいと願うのは、
自分のすべてで、彼女と向き合いたいと思っているからだ。
(焦らない。
でも、立ち止まりもしない)
**
60話目。
物語の、ちょうど真ん中。
もし、この恋が物語なら、
このあたりで“決定的な転換”が必要なんだろう。
でも僕たちは、
そんな劇的なことをしなくても、
ゆっくりと、確かに変わってきた。
彼女が、僕の隣に“いてくれる”ようになった。
目を逸らさなくなった。
沈黙に、微笑みで応えてくれるようになった。
それが、何よりもうれしい。
**
今日は、打ち合わせなし。
資料の確認だけのために、月灯社に寄った。
エントランスで社員たちと軽く挨拶を交わし、
理奈さんのデスクに向かうと、
彼女はすでにそこにいた。
「おはようございます」
「……おはよう。来てくれて、ありがとう」
その言葉だけで、
一日分の呼吸が軽くなるようだった。
「すぐ済むから、ちょっと待ってて」
彼女がデスクから立ち上がり、書類を取りに席を外す。
戻ってきたとき、
彼女の指先が、僕の手の甲にふれた。
ほんの、一瞬。
偶然かもしれない。
でも――
(あえて避けなかった)
それだけで十分だった。
**
資料を受け取り、社を出ようとしたとき。
ふいに、彼女が言った。
「ねえ、今日……少しだけ、歩かない?」
僕は一瞬、聞き返しそうになった。
でも、彼女は照れたように続ける。
「たいした用事はないの。
ただ……歩いてみたくなったのよ、あなたと」
それはきっと、
彼女なりの“踏み出し”だった。
僕は、静かに頷いた。
**
午後の陽射しが穏やかで、
街路樹の影が、アスファルトに揺れていた。
並んで歩く。
ただそれだけのことが、
とても特別だった。
「……この辺、学生の頃よく歩いたのよ」
「そうなんですね」
「何もないけど……落ち着く場所。
たぶん、今も変わってない」
そんな何気ない会話すら、
僕には宝物だった。
途中、信号待ちのタイミングで、
僕の手に、ふいに柔らかい感触が重なった。
理奈さんの指が、
そっと、僕の指に触れていた。
手を握るでもない。
絡めるでもない。
ただ、“近づいてきた”だけの距離。
けれど――
(これ以上の愛の証は、ない)
言葉はいらなかった。
どんなセリフよりも、
彼女の“今、私も一緒にいる”という選択が、
僕のすべてを満たしてくれた。
**
歩いた先の公園で、ふたり並んでベンチに腰かけた。
風がやさしかった。
秋の終わりの匂いがした。
「……寒くないですか?」
「平気よ。
あなたがそばにいるから」
その一言が、
この世界に存在するすべての言葉の中で、
いちばんやさしかった。
**
(誰よりも早く気づいて、
誰よりも遅く触れて、
それでも、愛を手に入れる)
僕は、彼女とそんな恋がしたい。
派手じゃなくていい。
急がなくていい。
でも、
確かな温度で、
確かな時間で、
彼女の心に寄り添っていきたい。
ずっと、
その隣に、いたい。
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