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第六十二話:「“キスしてもいい?”って聞いたら、彼がまるで、世界で一番幸せな顔をした」
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手のぬくもりが、まだ残っていた。
指先が、ふわりと熱を宿したまま。
ほんの短い時間だったはずなのに、
私は今日一日で、
自分の中の“何か”が確かに変わったと感じていた。
恋が、“意識”から“意志”へ。
想うだけではなく、
“選ぶ”という方向に。
**
夜、自宅のソファ。
照明は落として、間接灯だけ。
静かな部屋の中に響くのは、
グラスの氷が溶ける音と、
自分の心臓の鼓動だけだった。
スマホが手の中にある。
何かを送ろうとしては消し、
また書いては削除して――
10分以上、画面を見つめていた。
(……もう、止める理由なんてない)
あの子は、私の手を握り返した。
言葉にせずとも、
あの行為に、彼のすべてが込められていた。
だから今度は、
私のほうから“伝える”番だと思った。
**
メッセージアプリを開き、
一行だけ。
たった一行。
『今度は私から……キス、してもいい?』
送信ボタンを押した瞬間、
心臓が一瞬、止まったような気がした。
そのあと、
喉の奥が、ひゅっと小さく鳴った。
怖かった。
でも、それ以上に――
正直でいたかった。
私は今、
あの子に、触れたいと思っている。
**
返信はすぐに届いた。
『そんなこと聞かれたら、僕、
一生この瞬間だけで生きていけます』
画面を見た瞬間、
おかしくて、うれしくて、泣きそうになった。
まったく、この子は――
どこまで、誠実で、まっすぐなんだろう。
**
翌日、彼に会う日だった。
わざと、朝は何も言わず、
普通にオフィスに出勤して、
普通に仕事を進めて、
何もなかったかのように資料を手渡した。
でも、
午後の打ち合わせが終わって、社員たちが解散したあと。
ふたりきりになった会議室の空気が、
昨日までと明らかに違っていた。
私は彼に目を向ける。
彼は、何も言わず、待っていた。
**
ゆっくりと、歩み寄る。
声も、音も、すべてを飲み込んだような静寂。
彼の前に立ち、
顔を見上げた。
「……キスしてもいい?」
そう尋ねた自分の声が、
あまりにも静かで、あまりにも震えていて――
それでも、確かに“私の声”だった。
**
彼は、言葉を返さなかった。
ただ、深く息を吸い込んで、
それから――頷いた。
まるで世界のすべてが、
その“うなずき”を待っていたかのように。
**
キスは、
とてもゆっくりだった。
初めて私から、唇を重ねた。
彼の身体が、ぴくりと震えるのがわかる。
でも、抵抗しない。
拒まない。
ただ、そっと受け入れてくれる。
唇と唇がふれ合う、そのわずかな接点に、
まるでお互いの命が流れ込むようだった。
**
離れると、
彼は照れたように笑った。
「……すごく、幸せです」
それだけの言葉が、
私のすべてを包んだ。
彼に“与える”つもりだったのに、
気づけば、私のほうが、
もらってばかりだった。
**
(私は今、
この子に恋をしている)
もう、誰にも止められない。
誰の目も、言葉も、恐れない。
それでもなお、
この人に触れたいと思ったのだから――
指先が、ふわりと熱を宿したまま。
ほんの短い時間だったはずなのに、
私は今日一日で、
自分の中の“何か”が確かに変わったと感じていた。
恋が、“意識”から“意志”へ。
想うだけではなく、
“選ぶ”という方向に。
**
夜、自宅のソファ。
照明は落として、間接灯だけ。
静かな部屋の中に響くのは、
グラスの氷が溶ける音と、
自分の心臓の鼓動だけだった。
スマホが手の中にある。
何かを送ろうとしては消し、
また書いては削除して――
10分以上、画面を見つめていた。
(……もう、止める理由なんてない)
あの子は、私の手を握り返した。
言葉にせずとも、
あの行為に、彼のすべてが込められていた。
だから今度は、
私のほうから“伝える”番だと思った。
**
メッセージアプリを開き、
一行だけ。
たった一行。
『今度は私から……キス、してもいい?』
送信ボタンを押した瞬間、
心臓が一瞬、止まったような気がした。
そのあと、
喉の奥が、ひゅっと小さく鳴った。
怖かった。
でも、それ以上に――
正直でいたかった。
私は今、
あの子に、触れたいと思っている。
**
返信はすぐに届いた。
『そんなこと聞かれたら、僕、
一生この瞬間だけで生きていけます』
画面を見た瞬間、
おかしくて、うれしくて、泣きそうになった。
まったく、この子は――
どこまで、誠実で、まっすぐなんだろう。
**
翌日、彼に会う日だった。
わざと、朝は何も言わず、
普通にオフィスに出勤して、
普通に仕事を進めて、
何もなかったかのように資料を手渡した。
でも、
午後の打ち合わせが終わって、社員たちが解散したあと。
ふたりきりになった会議室の空気が、
昨日までと明らかに違っていた。
私は彼に目を向ける。
彼は、何も言わず、待っていた。
**
ゆっくりと、歩み寄る。
声も、音も、すべてを飲み込んだような静寂。
彼の前に立ち、
顔を見上げた。
「……キスしてもいい?」
そう尋ねた自分の声が、
あまりにも静かで、あまりにも震えていて――
それでも、確かに“私の声”だった。
**
彼は、言葉を返さなかった。
ただ、深く息を吸い込んで、
それから――頷いた。
まるで世界のすべてが、
その“うなずき”を待っていたかのように。
**
キスは、
とてもゆっくりだった。
初めて私から、唇を重ねた。
彼の身体が、ぴくりと震えるのがわかる。
でも、抵抗しない。
拒まない。
ただ、そっと受け入れてくれる。
唇と唇がふれ合う、そのわずかな接点に、
まるでお互いの命が流れ込むようだった。
**
離れると、
彼は照れたように笑った。
「……すごく、幸せです」
それだけの言葉が、
私のすべてを包んだ。
彼に“与える”つもりだったのに、
気づけば、私のほうが、
もらってばかりだった。
**
(私は今、
この子に恋をしている)
もう、誰にも止められない。
誰の目も、言葉も、恐れない。
それでもなお、
この人に触れたいと思ったのだから――
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