25歳差の恋愛指南、それは人生最大の不覚でした

naomikoryo

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第六十三話:「今の関係を壊さないように触れることが、どれほど怖くて、どれほど愛しいか」

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キスをされた瞬間――
世界が、音を失った。

理奈さんの声が、
そのとき確かに震えていたのに。
それでも、彼女は自分から、
僕に唇を重ねてくれた。

(……夢みたいだった)

でも、夢じゃない。
だって、まだ唇が覚えている。
彼女の、あのあたたかさを。

**

今まで僕は、
“触れること”を怖れていた。

年齢差。
立場。
彼女の過去。
自分の未熟さ。

何もかもが、
彼女に触れてはいけないと――
そう言っているような気がして。

でも。
彼女のほうから、触れてくれた。

それはただの好意じゃない。
“許し”でもない。

彼女が、
女として、
僕に心を差し出してくれたことの証明だった。

**

夜。
帰宅して、机に向かっても、
言葉が出てこなかった。

原稿用紙の上で、ペンが止まる。
頭の中は、ずっと彼女のキスのことばかり。

何度も反芻してしまう。

彼女の表情。
唇の温度。
触れる瞬間の、ほんのわずかな息づかい。

(壊したくない)

この関係を。
この距離感を。

進みすぎて、
彼女のペースを乱したくない。

でも、
この想いを、何もなかったふりもできない。

(だから、どうすればいい?)

**

スマホに、メッセージが届いた。

――理奈さんからだった。

『今日、ありがとう。
私からキスしたのに、あなたはただ優しく受け止めてくれて。
“愛される”って、こういうことなのかもしれないと思いました。』

読みながら、
胸の奥がじんわりと熱くなっていく。

この人は、
どこまで真剣で、どこまで素直なんだろう。

そんなふうに思わせてくれる人を、
僕は他に知らない。

**

ふいに、手が勝手に動いていた。

返信を打つ。

『理奈さん。
僕は今、あなたに“触れること”が怖いです。
でもそれは、嫌とかじゃなくて、
ちゃんと“あなたを大事にしたい”と思ってる証拠です。』

『だから、焦らずに、ちゃんと触れていきます。
理奈さんの“心”にも、“身体”にも、
一歩ずつ、ちゃんと。』

送信してから、
ほんの少しだけ、涙が出そうになった。

言葉を選ぶって、
こんなに真剣になるものなんだ。

**

深夜、部屋の電気を落としたあと、
ふと天井を見上げる。

“触れたい”
“抱きしめたい”

その違いが、
ようやく自分の中で、はっきりした気がした。

ただ腕を回すことじゃない。
欲望をぶつけることでもない。

相手の存在そのものを、
確かめるように、
守るように、
包みこむように。

それがきっと、
“抱きしめる”ってことなんだ。

(……その日が来るまで、
俺はこの手を、大事にしておこう)

彼女のために。
彼女の未来に、ちゃんと触れられる人間になるために。

**

愛している。
それはまだ、言葉にできない。

でも、
彼女の目を、肌を、心を、
すべて大切にできたとき。

そのとき、
初めて“好き”を越える何かが言える気がした。
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