25歳差の恋愛指南、それは人生最大の不覚でした

naomikoryo

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第六十四話:「“触れたい”と“抱きしめたい”は違うのだと、この人に教えてもらった」

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彼のメッセージを読み終えたとき、
私はなぜか、涙をこらえられなかった。

スマホの画面の文字が、じわりと滲んでいく。

『理奈さん。
僕は今、あなたに“触れること”が怖いです。
でもそれは、嫌とかじゃなくて、
ちゃんと“あなたを大事にしたい”と思ってる証拠です。』

『だから、焦らずに、ちゃんと触れていきます。
理奈さんの“心”にも、“身体”にも、
一歩ずつ、ちゃんと。』

(……なんて、ひどい人)

優しすぎる。
丁寧すぎて、まっすぐで、
そのすべてが、
今の私には、あまりにも温かすぎる。

**

欲しいと思っていたわけじゃなかった。
むしろ、できる限り“避けて”きた感情だった。

誰かに、触れられること。
抱かれること。
“女”として見られること。

私はそれを、“過去”に置いてきたはずだった。

けれど、今。
彼がくれたその言葉のひとつひとつが、
まるで心の深い場所に、静かに火を灯すように、
私をあたためてくれる。

(触れたい、じゃない)

私は今――
(抱きしめられたい)
そう、はっきりと思った。

**

こんな感情、
最後に味わったのは、いつだっただろう。

亡くなった夫が、
寝る前にそっと背中に腕を回してくれた夜。
寒い日に黙ってマフラーを巻いてくれた朝。

あのぬくもりを、
私はずっと“記憶”として保存してきた。
誰にも侵させない、“大事な思い出”として。

でも今、
それとは違うあたたかさが、
確かに私の身体の奥に芽生えている。

“今”の私が、
“今”の誰かに、
抱きしめられたいと思っている。

それは後ろめたさじゃない。
罪悪感でもない。

それが“再生”であり、
“恋をしている証”なのだと、
ようやく受け入れられた気がした。

**

ベッドに入ったあとも、
彼の言葉がずっと胸に残っていた。

“焦らずに、ちゃんと触れていきます”

そんなふうに言われたのは、初めてだった。

これまで私は、
“求められる”ことが愛だと思っていた。

わかりやすい情熱や、
執着のような感情こそが、
女としての証明だと思っていた。

けれど、違った。

この人の愛は、
“静かに隣にいること”で、
すべてを伝えてくれる。

私の身体を、すぐに欲しがらないその姿勢が、
逆に、私を女に戻していく。

(だから、悔しいのよ)

触れられていないのに。
抱かれていないのに。

この胸の奥が、
こんなにも熱く、満たされていくなんて。

**

私の中で、確かな輪郭を持って浮かんでくる願い。

(あなたに、抱かれたい)

ただの“触れ合い”じゃない。
私の心を丸ごと受け止めてくれる、
あなたの腕の中で――
安心して、息をしたい。

そう思ってしまうことが、
こわいくらいに嬉しかった。

**

スマホを握りしめながら、
結局、返事は送らなかった。

何を言っても、
きっとあの子は、急がない。
追い詰めない。
私の呼吸のままに、寄り添ってくれる。

そんな人だから、
私は惹かれてしまった。

(……もう、抗えないわね)

今夜、私はようやく認めた。
“抱かれたい”と思える人がいることを。

そして、
“抱かれたい”と思える自分になれたことを。

それが、何よりの救いだった。
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