25歳差の恋愛指南、それは人生最大の不覚でした

naomikoryo

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第六十六話:「SNSでバズったあなたの写真に、“私の好きなあなた”が写っていた」

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週明けの朝、
出社してすぐ、清美が小走りでやってきた。

「理奈さん、見ました? 純くん、SNSでめっちゃバズってますよ!」

その声に、一瞬心臓が跳ねた。

「……バズってる?」

「昨日アップされた読者イベントの告知ツイート、
イメージカットが“かっこよすぎる”ってリポストされまくってて。
もうフォロワー3万人超えてるらしいです!」

スマホを手渡され、画面を見た。

そこには、見慣れた彼の横顔――
でも、私が知っている“純”とは少し違っていた。

整えられた髪。
レンズ越しに鋭さを帯びた眼差し。
ライティングに照らされた頬のライン。

(これは……“新人作家・新田純”)

あの夜、私の胸に顔を埋めて「ありがとう」と囁いた青年は、
ここにはいなかった。

代わりに――
“誰かに見つかる”準備を整えた男が、そこに立っていた。

**

その日の午前中は、ずっと落ち着かなかった。

社内でもすぐ話題になり、
凜華がニヤニヤしながら近づいてくる。

「理奈さん、見ました? あのビジュアル、破壊力すごすぎじゃないっすか?」

「ええ、少し……驚いたわ」

「でもなんか、理奈さんってこういう人好きそうですよね。
真面目で黙ってて、たまに爆発するタイプ」

思わず口元がほころびる。

(……あなたたちには言えないわね)

私は、彼がベッドの中で“理奈さんのことが全部好きです”と囁いたことも。
何度も何度も、名前を呼びながら抱きしめてくれたことも、
ぜんぶ知っている。

でも、
そういう“優越感”じゃない。

これはただ、
私の“知っている彼”が、世界に知られていくことへの――
さみしさと、誇らしさが混じったような、不思議な感情だった。

**

(私だけが見ていたはずの彼が、
これからきっと、いろんな人の目に触れていく)

(彼の言葉も、作品も、魅力も。
たくさんの人が“好きになる”ようになる)

嬉しい。
とても嬉しい。

でも、正直、少しだけ怖かった。

彼の隣にいた私が、
いつか“似合わない”と思われる日が来たらどうしよう。

そんな風に思ってしまう自分が、
どこか情けなくて、でも仕方がなかった。

**

昼休み。
私は自席のパソコンで、純の特設ページを開いていた。

告知画像の下には、
彼の紹介文とともに、こんなコピーが載っていた。

“彼の物語には、静かに灯る恋がある”

(……そうね。
あの子自身が、まさにそんな人だもの)

ページの最下部、コメント欄。
見知らぬユーザーたちが書いている。

「ビジュ爆発してる」「新作めちゃくちゃよかった」
「インタビュー読んだら泣いた」「恋愛描写の解像度高すぎる」

私は無意識に微笑んでいた。
あの子が、愛されている。
それがただ嬉しかった。

**

その夜。
家に帰ってから、
いつものように彼と短くメッセージを交わした。

『イベント、すごく話題になってるわね。あなた、ちょっとした有名人よ』

『……バズったの、人生で初めてです(笑)
でも、あの写真はちょっと恥ずかしいです』

『かっこよかったわよ』

数秒間の既読がつかず、
やがて彼から、ぽつりと返信が来た。

『……理奈さんにそう言ってもらえるなら、
どんな写真でも“好き”になれる気がします』

画面を見つめたまま、私は小さく息を吐いた。

(ああ……こんな風に、この子はちゃんと“私の味方”でいてくれる)

思い出す。

彼の肩越しに見た風景。
抱かれた夜の静けさ。
名前を何度も呼ぶ声。

あの夜の“純”は、きっと誰にも見せない顔だった。

それだけは、私だけの記憶として――
ずっと、大切にしていきたいと思った。

**

翌朝、凜華が言った。

「でも理奈さん、そろそろ“関係バレる”の覚悟しといた方がいいかもですよ」

私は少しだけ笑って、こう答えた。

「そうね……そのときは、そのときだわ」

“私が選んだ人よ”って、
胸を張って言えるように――
これからも、ちゃんと隣に立っていられるように。

彼が“世界に見つかっていく”この道を、
私は静かに、そして確かに、歩いていこうと思った。
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