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第六十七話:「“誰の許可がいるわけでもない”と、彼が言ったとき、私はもう何も怖くなくなった」
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インタビューの依頼が来たのは、バズった翌週のことだった。
中堅のカルチャー誌で、作家特集の一枠。
テーマは“新時代の恋愛小説”。
編集部の担当者は熱心だった。
「若い読者だけじゃなく、大人の女性にも届く感情描写が魅力的です」
「“この人の隣にいたい”と思わせるヒーロー像をどう作ってるのか、ぜひ聞かせてください」
(……ヒーロー像、か)
僕は、そんな立派なものを目指して書いてきたわけじゃない。
ただ、目の前にいる“あの人”の心を理解したかった。
彼女の笑う顔も、泣きたい夜も、
全部、小説という形にして言葉にしたかった。
それだけだった。
**
インタビュー当日、控室でメイクを受けながら、
ぼんやりと理奈さんのことを考えていた。
あの夜、彼女が僕を抱きしめ返してくれたこと。
朝、照れくさそうに「おはよう」と言ってくれたこと。
あの人の“素顔”は、
誰にも知られたくない。
けれど、誰かに誇りたくなる。
そんな、矛盾した気持ちがずっと胸の中にある。
**
インタビューが始まり、
いくつかの質問を経て、担当者がふと聞いてきた。
「小説の中には、よく“支え合う関係”が描かれていますよね。
先生ご自身にも、そういう存在の方が……?」
一瞬、思考が止まった。
けれど、すぐに答えた。
「います。
支えられてばかりですけど」
「それは……恋人、という意味で?」
「……肩書きは、まだ言葉になってません」
「でも、僕の物語は、その人なしでは書けません」
静かな返事だったけれど、
担当者の表情が少しだけ変わったのがわかった。
「じゃあ……きっと、その人が“ヒロイン”なんですね」
僕は微笑んだ。
否定も肯定もしなかった。
ただ、目を伏せずに、ゆっくり頷いた。
**
取材後、記事の確認用原稿が届いた。
その中の一節――
「物語を書くということは、僕にとって“誰かの心を抱きしめる行為”なんです」
“誰か”という言葉の奥には、きっともう特別な人がいるのだろう――。
編集の解釈が添えられていた。
でも、それでよかった。
名前を出す必要はない。
関係を明かす必要もない。
ただ、“誰か”がいる。
そう知ってもらうことが、
僕なりの“守り方”だった。
**
記事が公開された日、
理奈さんからメッセージが届いた。
『読んだわ。……あなたらしかった。
ありがとう、なんだかすごく、あたたかかった』
その“ありがとう”の意味は、
きっと記事に直接は出てこなかった、
私たちだけの関係を、大切にしてくれたことへのものだった。
僕はスマホを見つめて、すぐに返信した。
『誰の許可がいるわけでもない。
僕は、自分であなたを“選んだ”と思ってます』
『だから、これからも――隣にいてください』
**
次の日、ふたりでランチを取った帰り道。
誰もいない裏路地で、理奈さんがふと言った。
「……もう、怖くないのよ。不思議だけど」
「え?」
「昨日までは、あなたが“見つかっていく”ことがこわかった。
でも、あの記事を読んで、思ったの。
この人はちゃんと、私を守ってくれるって」
彼女は、少しだけ目を伏せて、
そのあと――僕の手をそっと握ってきた。
人通りのない路地裏。
会社に戻る10分前の、
たったそれだけの瞬間。
でも、
その指の温度が、
胸の奥に深く沁みた。
(ありがとう、理奈さん)
これが、僕たちのやり方だ。
隠すことも、誇ることもせず、
ただ静かに、寄り添って生きていく。
中堅のカルチャー誌で、作家特集の一枠。
テーマは“新時代の恋愛小説”。
編集部の担当者は熱心だった。
「若い読者だけじゃなく、大人の女性にも届く感情描写が魅力的です」
「“この人の隣にいたい”と思わせるヒーロー像をどう作ってるのか、ぜひ聞かせてください」
(……ヒーロー像、か)
僕は、そんな立派なものを目指して書いてきたわけじゃない。
ただ、目の前にいる“あの人”の心を理解したかった。
彼女の笑う顔も、泣きたい夜も、
全部、小説という形にして言葉にしたかった。
それだけだった。
**
インタビュー当日、控室でメイクを受けながら、
ぼんやりと理奈さんのことを考えていた。
あの夜、彼女が僕を抱きしめ返してくれたこと。
朝、照れくさそうに「おはよう」と言ってくれたこと。
あの人の“素顔”は、
誰にも知られたくない。
けれど、誰かに誇りたくなる。
そんな、矛盾した気持ちがずっと胸の中にある。
**
インタビューが始まり、
いくつかの質問を経て、担当者がふと聞いてきた。
「小説の中には、よく“支え合う関係”が描かれていますよね。
先生ご自身にも、そういう存在の方が……?」
一瞬、思考が止まった。
けれど、すぐに答えた。
「います。
支えられてばかりですけど」
「それは……恋人、という意味で?」
「……肩書きは、まだ言葉になってません」
「でも、僕の物語は、その人なしでは書けません」
静かな返事だったけれど、
担当者の表情が少しだけ変わったのがわかった。
「じゃあ……きっと、その人が“ヒロイン”なんですね」
僕は微笑んだ。
否定も肯定もしなかった。
ただ、目を伏せずに、ゆっくり頷いた。
**
取材後、記事の確認用原稿が届いた。
その中の一節――
「物語を書くということは、僕にとって“誰かの心を抱きしめる行為”なんです」
“誰か”という言葉の奥には、きっともう特別な人がいるのだろう――。
編集の解釈が添えられていた。
でも、それでよかった。
名前を出す必要はない。
関係を明かす必要もない。
ただ、“誰か”がいる。
そう知ってもらうことが、
僕なりの“守り方”だった。
**
記事が公開された日、
理奈さんからメッセージが届いた。
『読んだわ。……あなたらしかった。
ありがとう、なんだかすごく、あたたかかった』
その“ありがとう”の意味は、
きっと記事に直接は出てこなかった、
私たちだけの関係を、大切にしてくれたことへのものだった。
僕はスマホを見つめて、すぐに返信した。
『誰の許可がいるわけでもない。
僕は、自分であなたを“選んだ”と思ってます』
『だから、これからも――隣にいてください』
**
次の日、ふたりでランチを取った帰り道。
誰もいない裏路地で、理奈さんがふと言った。
「……もう、怖くないのよ。不思議だけど」
「え?」
「昨日までは、あなたが“見つかっていく”ことがこわかった。
でも、あの記事を読んで、思ったの。
この人はちゃんと、私を守ってくれるって」
彼女は、少しだけ目を伏せて、
そのあと――僕の手をそっと握ってきた。
人通りのない路地裏。
会社に戻る10分前の、
たったそれだけの瞬間。
でも、
その指の温度が、
胸の奥に深く沁みた。
(ありがとう、理奈さん)
これが、僕たちのやり方だ。
隠すことも、誇ることもせず、
ただ静かに、寄り添って生きていく。
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