25歳差の恋愛指南、それは人生最大の不覚でした

naomikoryo

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第六十九話:「この人を手放す理由なんて、もうどこにもなかった」

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「支えられてばかりだけど――その人がいないと、僕の物語は書けないんです」

雑誌の特集ページに載った、純くんのインタビュー記事。
その言葉を読んだとき、
胸の奥に、小さな灯がともった気がした。

あれは、“私”のことだ。
誰かに聞かれなくても、彼は言葉を選んで、
あの場所で“私”の存在を、大切に語ってくれた。

公にしたわけじゃない。
でも、隠しもしていない。
彼なりの“誠実な答え”だった。

(嬉しい……)

でもそれ以上に、
“この人をもう手放しちゃいけない”と、
心の底から思った。

**

昼下がりの社内。
清美がニコニコしながら声をかけてきた。

「理奈さん、純くんってああ見えて意外と“愛の人”ですよね」
「インタビュー、私3回読み返しちゃいました」

私は笑ってごまかした。

「そうね……丁寧に話す子だから」

(“ああ見えて”って、清美。あれが本当の彼なのよ)

でも、その“本当”を、今のところ知っているのは私だけ。
そして、それを“知っていられること”が、
なんとも言えず、嬉しい。

**

ふとした瞬間、
社内で彼の姿を見かけるたびに、
胸が高鳴るようになった。

言葉を交わさなくても、
同じフロアに彼がいるだけで安心する。

背筋を伸ばして歩く姿。
資料をめくるときの真剣な目。
私が話すと、そっと顔を向けてくれる、あの優しいまなざし。

(ああ……もう、迷ってる場合じゃない)

どこかでまだ、
“私は年上だから”とか、
“社長という立場だから”とか、
そんな言い訳にしがみついていた。

でも今――
この人を手放す理由なんて、どこにもなかった。

**

その日の夜。
私は彼を、自宅に招いた。

口実は“次作の原稿チェック”。
でも本当は、話したいことがあった。

テーブルに資料を並べて、
いつものように静かに向かい合って、
しばらくのあいだ、仕事の話をしていた。

でも、ふとした沈黙のあと――
私は言った。

「……ありがとう」

純くんが、少しきょとんとした顔をする。

「雑誌のインタビュー。読んだわ」

「あ……あれ、すごく曖昧な言い方で、すみません」

「いいえ。あれで十分。
あなたが“私を守ろうとしてくれた”のが、ちゃんと伝わったから」

彼は黙って、少しだけうつむいた。

私は、少し息を吸って言った。

「ねえ……“私たち”、今どんな関係か、ちゃんとわかってる?」

彼の目が、ゆっくりとこちらを見た。

「たぶん……言葉にはしてないけど、
僕は、理奈さんの“恋人”だと思ってます」

その言葉が、思ったよりずっと真っ直ぐで、
私は思わず笑ってしまった。

「……それなら、私もそう思っていいのね」

「はい。思ってください。
というか、僕のほうこそ、ちゃんと言わなきゃいけませんでした」

「……そうね。私も、どこかで“まだ”って思ってたから」

静かだった。

けれど、心が、すっと軽くなる音がした。

(やっと、ちゃんと向き合えた)

**

その夜、
ふたりで並んで歩いた帰り道。
夜風がほんの少しだけ冷たかった。

「“誰の許可もいらない”って、あなたが言ってくれたでしょう?」

彼は頷く。

「ええ」

「じゃあ、これから先も、私はあなたの隣にいていい?」

「もちろんです。
隣にいてほしいです。……ずっと」

言葉の最後が少し震えていたのは、
多分、私と同じくらい彼も不安だったから。

私は、そっと彼の腕に、自分の手を添えた。

(そう。もう、手放さない)

この手を、どんな風に繋いでいくかは、
これからゆっくり決めていけばいい。

でも今は、
この人が私の“選んだ人”だと、
胸を張って言える。
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