69 / 75
第六十九話:「この人を手放す理由なんて、もうどこにもなかった」
しおりを挟む
「支えられてばかりだけど――その人がいないと、僕の物語は書けないんです」
雑誌の特集ページに載った、純くんのインタビュー記事。
その言葉を読んだとき、
胸の奥に、小さな灯がともった気がした。
あれは、“私”のことだ。
誰かに聞かれなくても、彼は言葉を選んで、
あの場所で“私”の存在を、大切に語ってくれた。
公にしたわけじゃない。
でも、隠しもしていない。
彼なりの“誠実な答え”だった。
(嬉しい……)
でもそれ以上に、
“この人をもう手放しちゃいけない”と、
心の底から思った。
**
昼下がりの社内。
清美がニコニコしながら声をかけてきた。
「理奈さん、純くんってああ見えて意外と“愛の人”ですよね」
「インタビュー、私3回読み返しちゃいました」
私は笑ってごまかした。
「そうね……丁寧に話す子だから」
(“ああ見えて”って、清美。あれが本当の彼なのよ)
でも、その“本当”を、今のところ知っているのは私だけ。
そして、それを“知っていられること”が、
なんとも言えず、嬉しい。
**
ふとした瞬間、
社内で彼の姿を見かけるたびに、
胸が高鳴るようになった。
言葉を交わさなくても、
同じフロアに彼がいるだけで安心する。
背筋を伸ばして歩く姿。
資料をめくるときの真剣な目。
私が話すと、そっと顔を向けてくれる、あの優しいまなざし。
(ああ……もう、迷ってる場合じゃない)
どこかでまだ、
“私は年上だから”とか、
“社長という立場だから”とか、
そんな言い訳にしがみついていた。
でも今――
この人を手放す理由なんて、どこにもなかった。
**
その日の夜。
私は彼を、自宅に招いた。
口実は“次作の原稿チェック”。
でも本当は、話したいことがあった。
テーブルに資料を並べて、
いつものように静かに向かい合って、
しばらくのあいだ、仕事の話をしていた。
でも、ふとした沈黙のあと――
私は言った。
「……ありがとう」
純くんが、少しきょとんとした顔をする。
「雑誌のインタビュー。読んだわ」
「あ……あれ、すごく曖昧な言い方で、すみません」
「いいえ。あれで十分。
あなたが“私を守ろうとしてくれた”のが、ちゃんと伝わったから」
彼は黙って、少しだけうつむいた。
私は、少し息を吸って言った。
「ねえ……“私たち”、今どんな関係か、ちゃんとわかってる?」
彼の目が、ゆっくりとこちらを見た。
「たぶん……言葉にはしてないけど、
僕は、理奈さんの“恋人”だと思ってます」
その言葉が、思ったよりずっと真っ直ぐで、
私は思わず笑ってしまった。
「……それなら、私もそう思っていいのね」
「はい。思ってください。
というか、僕のほうこそ、ちゃんと言わなきゃいけませんでした」
「……そうね。私も、どこかで“まだ”って思ってたから」
静かだった。
けれど、心が、すっと軽くなる音がした。
(やっと、ちゃんと向き合えた)
**
その夜、
ふたりで並んで歩いた帰り道。
夜風がほんの少しだけ冷たかった。
「“誰の許可もいらない”って、あなたが言ってくれたでしょう?」
彼は頷く。
「ええ」
「じゃあ、これから先も、私はあなたの隣にいていい?」
「もちろんです。
隣にいてほしいです。……ずっと」
言葉の最後が少し震えていたのは、
多分、私と同じくらい彼も不安だったから。
私は、そっと彼の腕に、自分の手を添えた。
(そう。もう、手放さない)
この手を、どんな風に繋いでいくかは、
これからゆっくり決めていけばいい。
でも今は、
この人が私の“選んだ人”だと、
胸を張って言える。
雑誌の特集ページに載った、純くんのインタビュー記事。
その言葉を読んだとき、
胸の奥に、小さな灯がともった気がした。
あれは、“私”のことだ。
誰かに聞かれなくても、彼は言葉を選んで、
あの場所で“私”の存在を、大切に語ってくれた。
公にしたわけじゃない。
でも、隠しもしていない。
彼なりの“誠実な答え”だった。
(嬉しい……)
でもそれ以上に、
“この人をもう手放しちゃいけない”と、
心の底から思った。
**
昼下がりの社内。
清美がニコニコしながら声をかけてきた。
「理奈さん、純くんってああ見えて意外と“愛の人”ですよね」
「インタビュー、私3回読み返しちゃいました」
私は笑ってごまかした。
「そうね……丁寧に話す子だから」
(“ああ見えて”って、清美。あれが本当の彼なのよ)
でも、その“本当”を、今のところ知っているのは私だけ。
そして、それを“知っていられること”が、
なんとも言えず、嬉しい。
**
ふとした瞬間、
社内で彼の姿を見かけるたびに、
胸が高鳴るようになった。
言葉を交わさなくても、
同じフロアに彼がいるだけで安心する。
背筋を伸ばして歩く姿。
資料をめくるときの真剣な目。
私が話すと、そっと顔を向けてくれる、あの優しいまなざし。
(ああ……もう、迷ってる場合じゃない)
どこかでまだ、
“私は年上だから”とか、
“社長という立場だから”とか、
そんな言い訳にしがみついていた。
でも今――
この人を手放す理由なんて、どこにもなかった。
**
その日の夜。
私は彼を、自宅に招いた。
口実は“次作の原稿チェック”。
でも本当は、話したいことがあった。
テーブルに資料を並べて、
いつものように静かに向かい合って、
しばらくのあいだ、仕事の話をしていた。
でも、ふとした沈黙のあと――
私は言った。
「……ありがとう」
純くんが、少しきょとんとした顔をする。
「雑誌のインタビュー。読んだわ」
「あ……あれ、すごく曖昧な言い方で、すみません」
「いいえ。あれで十分。
あなたが“私を守ろうとしてくれた”のが、ちゃんと伝わったから」
彼は黙って、少しだけうつむいた。
私は、少し息を吸って言った。
「ねえ……“私たち”、今どんな関係か、ちゃんとわかってる?」
彼の目が、ゆっくりとこちらを見た。
「たぶん……言葉にはしてないけど、
僕は、理奈さんの“恋人”だと思ってます」
その言葉が、思ったよりずっと真っ直ぐで、
私は思わず笑ってしまった。
「……それなら、私もそう思っていいのね」
「はい。思ってください。
というか、僕のほうこそ、ちゃんと言わなきゃいけませんでした」
「……そうね。私も、どこかで“まだ”って思ってたから」
静かだった。
けれど、心が、すっと軽くなる音がした。
(やっと、ちゃんと向き合えた)
**
その夜、
ふたりで並んで歩いた帰り道。
夜風がほんの少しだけ冷たかった。
「“誰の許可もいらない”って、あなたが言ってくれたでしょう?」
彼は頷く。
「ええ」
「じゃあ、これから先も、私はあなたの隣にいていい?」
「もちろんです。
隣にいてほしいです。……ずっと」
言葉の最後が少し震えていたのは、
多分、私と同じくらい彼も不安だったから。
私は、そっと彼の腕に、自分の手を添えた。
(そう。もう、手放さない)
この手を、どんな風に繋いでいくかは、
これからゆっくり決めていけばいい。
でも今は、
この人が私の“選んだ人”だと、
胸を張って言える。
0
あなたにおすすめの小説
里帰りをしていたら離婚届が送られてきたので今から様子を見に行ってきます
結城芙由奈@コミカライズ連載中
恋愛
<離婚届?納得いかないので今から内密に帰ります>
政略結婚で2年もの間「白い結婚」を続ける最中、妹の出産祝いで里帰りしていると突然届いた離婚届。あまりに理不尽で到底受け入れられないので内緒で帰ってみた結果・・・?
※「カクヨム」「小説家になろう」にも投稿しています
紙の上の空
中谷ととこ
ライト文芸
小学六年生の夏、父が突然、兄を連れてきた。
容姿に恵まれて才色兼備、誰もが憧れてしまう女性でありながら、裏表のない竹を割ったような性格の八重嶋碧(31)は、幼い頃からどこにいても注目され、男女問わず人気がある。
欲しいものは何でも手に入りそうな彼女だが、本当に欲しいものは自分のものにはならない。欲しいすら言えない。長い長い片想いは成就する見込みはなく半分腐りかけているのだが、なかなか捨てることができずにいた。
血の繋がりはない、兄の八重嶋公亮(33)は、未婚だがとっくに独立し家を出ている。
公亮の親友で、碧とは幼い頃からの顔見知りでもある、斎木丈太郎(33)は、碧の会社の近くのフレンチ店で料理人をしている。お互いに好き勝手言える気心の知れた仲だが、こちらはこちらで本心は隠したまま碧の動向を見守っていた。
思い出さなければ良かったのに
田沢みん
恋愛
「お前の29歳の誕生日には絶対に帰って来るから」そう言い残して3年後、彼は私の誕生日に帰って来た。
大事なことを忘れたまま。
*本編完結済。不定期で番外編を更新中です。
身分差婚~あなたの妻になれないはずだった~
椿蛍
恋愛
「息子と別れていただけないかしら?」
私を脅して、別れを決断させた彼の両親。
彼は高級住宅地『都久山』で王子様と呼ばれる存在。
私とは住む世界が違った……
別れを命じられ、私の恋が終わった。
叶わない身分差の恋だったはずが――
※R-15くらいなので※マークはありません。
※視点切り替えあり。
※2日間は1日3回更新、3日目から1日2回更新となります。
✿ 私は夫のことが好きなのに、彼は私なんかよりずっと若くてきれいでスタイルの良い女が好きらしい
設楽理沙
ライト文芸
累計ポイント110万ポイント超えました。皆さま、ありがとうございます。❀
結婚後、2か月足らずで夫の心変わりを知ることに。
結婚前から他の女性と付き合っていたんだって。
それならそうと、ちゃんと話してくれていれば、結婚なんて
しなかった。
呆れた私はすぐに家を出て自立の道を探すことにした。
それなのに、私と別れたくないなんて信じられない
世迷言を言ってくる夫。
だめだめ、信用できないからね~。
さようなら。
*******.✿..✿.*******
◇|日比野滉星《ひびのこうせい》32才 会社員
◇ 日比野ひまり 32才
◇ 石田唯 29才 滉星の同僚
◇新堂冬也 25才 ひまりの転職先の先輩(鉄道会社)
2025.4.11 完結 25649字
🥕おしどり夫婦として12年間の結婚生活を過ごしてきたが一波乱あり、妻は夫を誰かに譲りたくなるのだった。
設楽理沙
ライト文芸
2026.1.4 73話見直した際、瑛士の台詞《本音/懺悔》を加筆しました。😇
☘ 累計ポイント/ 200万pt 超えました。ありがとうございます。
―― 備忘録 ――
第8回ライト文芸大賞では大賞2位ではじまり2位で終了。 最高 57,392 pt
〃 24h/pt-1位ではじまり2位で終了。 最高 89,034 pt
◇ ◇ ◇ ◇
紳士的でいつだって私や私の両親にやさしくしてくれる
素敵な旦那さま・・だと思ってきたのに。
隠された夫の一面を知った日から、眞奈の苦悩が
始まる。
苦しくて、悲しくてもののすごく惨めで・・
消えてしまいたいと思う眞奈は小さな子供のように
大きな声で泣いた。
泣きながらも、よろけながらも、気がつけば
大地をしっかりと踏みしめていた。
そう、立ち止まってなんていられない。
☆-★-☆-★+☆-★-☆-★+☆-★-☆-★
2025.4.19☑~
サレ妻の娘なので、母の敵にざまぁします
二階堂まりい
大衆娯楽
大衆娯楽部門最高記録1位!
※この物語はフィクションです
流行のサレ妻ものを眺めていて、私ならどうする? と思ったので、短編でしたためてみました。
当方未婚なので、妻目線ではなく娘目線で失礼します。
優しい雨が降る夜は
葉月 まい
恋愛
浮世離れした地味子 × 外資系ITコンサルのエリートイケメン
無自覚にモテる地味子に
余裕もなく翻弄されるイケメン
二人の恋は一筋縄ではいかなくて……
雨降る夜に心に届いた
優しい恋の物語
⟡☾·̩͙⋆☔┈┈┈ 登場人物 ┈┈┈ ☔⋆·̩͙☽⟡
風間 美月(24歳)……コミュニティセンター勤務・地味でお堅い性格
雨宮 優吾(28歳)……外資系ITコンサルティング会社勤務のエリートイケメン
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる