交差点の約束、屋敷の夜に咲く ~突然始まる婿決定戦???~

naomikoryo

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序章

交差点の出会い

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放課後の新宿。

 人が流れる。
 音が渦巻く。
 スマホを見ながら歩く大人たちの波。
 信号が赤になり、群れが一斉に止まる。

 その中に、杉田敦史の姿があった。
 都内の男子高校に通う二年生。
 制服のネクタイを緩め、重そうなリュックを背負った姿は、どこにでもいる高校生に見えただろう。

 「うわ、ちょっと冷えるな……」

 肌寒い風に思わず肩をすくめる。
 今夜は家で録画したアニメを見るつもりだった。
 できれば、ホカホカの肉まんとコンビニココアを持って。

 そんなことを考えていたその時だった。

 
 ――ガシャンッ!

 
 視界の端で、小さな人影がよろめいた。
 買い物袋が道路に転がり、オレンジとキャベツがアスファルトに転がる。

 「っ、危ない……!」

 敦史は咄嗟に駆け寄った。
 周囲の大人たちはちらりと見るだけで、誰も動こうとしない。

 「大丈夫ですか、おばあちゃん!」

 敦史はしゃがみ込み、手早く散らばった野菜を拾い、老婆の肩を支える。
 手が細く、骨のように冷たかった。

 「……すまんのぅ。おかげで助かったわい」

 老婆は白髪を束ね、深い皺の刻まれた顔で敦史を見上げた。
 小さな瞳が、不思議な光を宿していた。

 「いえ、大したことじゃ……」

 敦史が笑うと、老婆はふと目を細めた。

 「……よい目をしておる。迷わぬ者の目じゃ」

 「え?」

 老婆はそれ以上何も言わず、袋を受け取ると、群衆の流れに紛れていった。

 敦史はその背中をしばらく見送っていた。

 
 ――今の、なんだったんだ?
 

 ただの“いいことをした”という感覚よりも、何か、奇妙な気配が胸に残っていた。

 
***
 

 次の日の昼休み。男子校の屋上では、いつもの3人がジャージ姿で弁当を広げていた。

 「でさ、昨日新刊の『爆熱メカノイドX』買いに行ったら、また売り切れててさあ!」

 ぽっちゃり体型の矢沢瞬が、弁当を頬張りながら悔しそうに言った。

 「お前、毎週言ってんなそれ」

 冷静につっこむのは、軽く前髪をかき上げる神崎尚樹。
 外見はクール、でも中身は意外と繊細な男だ。

 敦史は苦笑しながら海苔巻きの端をかじった。

 「そろそろネット予約すればいいんじゃないか?」

 「いや、店で“偶然出会える感”が大事なんだってば!」

 屋上には風が吹いていた。
 どこかでハトが鳴いている。
 青春と呼ぶには少し汗臭くて、ちょっとだけ物足りない、そんな昼休み。
 

 その日、事件は起こった。
 

 放課後、敦史が昇降口で靴を履き替えていた時だった。
 下駄箱に、白い封筒が差し込まれているのを見つけた。

 ――差出人不明。
 差し出された文字は筆ペンで、整っていて、妙に気品がある。

 『杉田敦史様へ』

 封を開けると、羊皮紙のような手紙が出てきた。
 

 > 「先日は命を助けていただき、誠にありがとうございました。
 >  ささやかですが、お礼として一夜の宴をご用意いたしました。
 >  気の置けぬご友人をお二人までお連れください。
 >  ○月○日 午後6時、同封の地図の場所へお越しくださいませ。
 >  ――伍城院」

 
 「……伍城院? なんだこの貴族みたいな名前……」

 すぐに瞬と尚樹にLINEを送り、内容を共有する。

 
 《やべぇ、なにそれ映画の冒頭?》

 《美人執事とかいたら俺泣く》

 
 そんなやり取りをしながら、3人は行くことに決めた。
 ――軽い気持ちで。まさか、それが人生を変える夜になるとも知らずに。
 

***
 

 週末、指定された地図の場所に着いた3人は、そこで言葉を失う。

 新宿の外れ、静まり返った高台の先にそれはあった。
 

 ――巨大な鉄の門。
 ツタの絡まる石造りの塀。
 その奥に、古びた西洋風の屋敷が静かに佇んでいた。
 

 「……これ、ほんとに飯食わせてくれるだけだよな?」

 瞬が呟き、尚樹は額に手を当てて笑った。

 「お前が一番警戒しろ。お前、詐欺に弱そうだし」

 「う、うるせぇ!」

 敦史は、門の前でしばらく立ち尽くしていた。
 あの老婆の眼差しが、なぜかまだ背後に残っている気がした。
 

 屋敷の扉が、静かに開く。
 

 黒服の男が一礼し、その奥で、あの老婆が微笑んでいた。

 
 「ようこそ、若者たちよ。これより――**“選びの夜”**が始まります」

 
 物語の歯車は、静かに、音を立てて回り始めた。
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