交差点の約束、屋敷の夜に咲く ~突然始まる婿決定戦???~

naomikoryo

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序章

屋敷の門の先で

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門をくぐった瞬間、3人の少年たちは一斉に息をのんだ。

 手入れの行き届いた庭園。
 砂利の道を照らすアンティークな街灯。
 そして、彼らの目の前に立ちはだかるようにそびえる、異様に大きな洋館。

 「……なにこれ、マジでドラマのセットか?」

 尚樹がぽつりと呟く。
 軽口の裏に、ほんのわずかな緊張が滲んでいる。

 「……こ、ここでご飯だけ? うそでしょ?」
 瞬は半泣きのような顔で敦史の袖を引っ張った。

 「ま、まだ中入ってないし。さすがに冗談じゃね?」

 敦史も強がるが、手のひらにはじっとりと汗が滲んでいた。

 
 屋敷の玄関扉は重厚な木製。
 金の飾りが施された取っ手を、スーツ姿の黒服が開ける。

 その奥から現れたのは――

 あの老婆だった。
 

 「おや、お三方。わざわざお越しくださり、かたじけのうござります」

 変わらぬ笑顔。
 だが、今度はその背後に数人の黒服の男たちが立っている。

 「どうぞ中へ。寒かったでしょう?」

 
 誘われるまま、3人は広いホールへと足を踏み入れた。

 天井は高く、シャンデリアが煌々と輝いている。
 階段は大理石、床には緻密な赤い絨毯。
 壁にはどこか宗教画のような油絵がいくつも並んでいた。
 

 「……えっと、おばあちゃん。あの、今日は食事のお誘い、ですよね?」

 敦史が一歩前に出て尋ねる。

 老婆は小さく笑った。

 「うむ。もちろん、宴も用意してある。しかし――まずは“着替え”じゃ」

 
 「……着替え?」
 

 「はい。お三方には、それぞれこちらの部屋でお召し物をご用意しております。
 そのうえで、今宵の“お役目”にあたっていただきます。」
 

 黒服に案内され、3人はそれぞれの個室へ通された。

 重厚なドアを開けた先、そこに置かれていたのは――まさかのジャージだった。

 
 「……え? 俺ら、スーツで来たよな?」
 尚樹が鏡の前で固まっている。

 「これ、なんの体育祭だよ……」
 瞬は半泣き。

 敦史も、黙って着替えを手に取った。
 どこか、背筋がゾクッとした。

 
***
 

 着替えを終えた3人は再びホールへと戻った。
 そして、老婆に案内されてさらに奥の部屋へ。

 そこはまるで監視室のような空間だった。
 壁の正面には、巨大なモニターが鎮座している。
 カチ、カチ、と電気音が響く中、画面にマップのような図が浮かび上がる。

 
 マス目のような部屋の配置。
 およそ50以上。
 通路は存在しない。
 一つ一つの部屋が、独立した区画のように区切られている。

 それぞれの部屋に、英字が振られている。
 ――「A」「B」「C」──それぞれ、3人が最初に向かう部屋を意味するらしい。

 
 老婆はふり返った。

 
 「さて……これより、我が伍城院家の婿殿を決める戦いを始めます」

 
 「……はい?」

 
 「この地図に映る迷宮には、それぞれ女がおる。
 お主たち3人には、それぞれ“A・B・C”の部屋から入り、目的の部屋を目指してもらう。」
 

 画面上部、中央のひときわ大きな部屋がピンク色に点滅している。

 
 「どちらの方向に進んでも構わぬ。だが、そこに到達し、我が孫・麗華を抱いた者が、婿殿となる」

 
 「……えっ」

 
 3人は顔を見合わせる。

 
 老婆はにやりと笑った。

 「ちなみにすべての部屋には、“お主たちとなら交わってもよい”と申し出た者を配置しておる。
 ただし、その部屋を出て他の部屋に進むには、その者の許しがなければならぬ。
 許しを得るには、“説得”するか、“満足させる”か。簡単なことじゃ」
 

 「ええええええええええええええっっっっっっ!!!!」

 
 瞬が悲鳴をあげた。
 尚樹は頭を抱え、敦史はただ固まっている。


 “青春”と呼ぶには、あまりにも異質な夜が、今、始まろうとしていた。
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