交差点の約束、屋敷の夜に咲く ~突然始まる婿決定戦???~

naomikoryo

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本章:杉田敦史ルート

Ep10:誘惑の番人

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―「触れてもいいよ。あなたがそうしたいならね」
 

 開いたドアの先には、まるで“夜の街の奥”を思わせる空間が広がっていた。

 

 赤と黒を基調としたラウンジ風の部屋。
 絨毯には艶のあるバラの模様。壁にはモノクロ写真が幾枚も並び、天井から吊るされたガラスのシャンデリアが揺れていた。

 

 部屋の奥。ソファの中央。
 そこに座っていたのは――

 

 「……いらっしゃい、坊や」

 

 艶やかな声。

 その主は、黒いスリップドレスをまとい、脚を組んだままグラスを傾けていた。
 グラスの中身は白ワインのような色。口紅の跡が縁にくっきりと残っている。

 

 「……ミユさん、ですよね?」

 

 「そうよ。名前、覚えててくれたんだ」

 

 ミユは立ち上がると、ゆっくりと敦史に近づいてくる。
 ヒールの音が静かな空間に艶を与える。

 

 「さっきの女たち、手強かったんでしょ? ピュアボーイには刺激強すぎたかしら」

 

 敦史は口元を引き結ぶ。
 ミユの姿には、確かに“女としての完成度”があった。

 長い睫毛、つややかな肌。
 深いスリットから覗く太ももに、自然と視線が吸い寄せられてしまう。

 

 「……あの、どうしてここに?」

 

 「簡単な話よ。“触られたら100万”“抱かれたら500万”って聞いて――
  あ、安心して。あなたには内緒の条件だけど、私には全部言われてるから」

 

 「……!」

 

 ミユは、唇を噛んだ敦史の腕を取り、ソファへと導く。

 

 「だからさ、“触ってみたい”って思うくらいなら、別に損じゃないわよ?」

 

 そして、その瞬間だった。

 

 ミユは自らのドレスの肩紐をすっと落とした。

 つるりと露わになる、豊かな胸元。
 谷間に光が落ちる。ブラもなく、肌の起伏がそのままドレスの内側に包まれている。

 

 「さあ……どうする?
  あなたのその真面目そうな手で、触ってみなさいよ」

 

 敦史は動けなかった。

 頭が熱くなる。鼓動が苦しくなる。

 

 「100万円よ?
  あなたがその手で、ここに触れた瞬間に入る。
  しかも、あたしはもう“いいよ”って言ってるの。
  この屋敷のルール的にも、なーんの問題もない」

 

 ミユは、敦史の手を取り――そっと、自分の胸元に導いた。

 

 「……触れてもいいよ。あなたが、そうしたいならね」

 

 指先が、柔らかな温度に触れる。
 わずかに、弾力のある感触が掌に伝わってくる。

 

 「……っ……」

 

 敦史は目を閉じた。
 そして――手を引いた。

 

 「……ごめんなさい。
  ミユさんが、こうしてくれてること……嬉しい気持ちは、確かにある。
  でも、俺……この“感情”が誰かの記憶になるなら、もっとちゃんとした形で残したい」

 

 ミユは、静かに目を伏せた。
 そして、胸元を直す。

 

 「……断られたの、久しぶりかも。
  触らせたとこまでは合格だったのにね?」

 

 「……ミユさんが綺麗だったから、少しだけ、ほんとに揺れました」

 

 「ふふっ、素直でよろしい」

 

 ミユは、テーブルのグラスを手に取り、軽く飲んだ。

 

 「……あたしね、ホストに300万溶かしたことあるのよ」

 

 「……え?」

 

 「好きになっちゃったの。“あたしだけを見てくれる”って、思い込んでたの。
  でも、結局は営業だった。指名ノルマ、売上、そういうの」

 

 彼女の声は、どこか乾いていた。

 

 「だから、わかるの。“触れてくれたけど、心はここにいない”って男の目。
  ……でも、あなたの目は、違ったわ」

 

 敦史はまっすぐに言った。

 

 「俺は、ミユさんのこと、ちゃんと見てたつもりです」

 

 ミユは、目を閉じて、ゆっくり頷いた。

 

 「……ありがとう。たぶん、あたしの中でこの部屋の夜が、ちょっとだけ特別な記憶になった」

 

 そのとき、**カチッ……カチッ……**と部屋の四隅から小さな音が鳴った。

 ドアのロックが、解除された音。

 

 「さ、行きなさい。あたしはここで、100万抱えて寝るから」

 

 「……ミユさん、きっともっと、誰かにちゃんと愛されますよ」

 

 「その“ちゃんと”って言葉、あたしの中でしばらく宝物にするわ」

 

 ミユはウインクした。

 

 ドアを開けた敦史の背中に、彼女の声がそっとかぶさる。

 

 「……選ばれなかったけど、ちゃんと抱かれた気がする。
  ――ありがとね、坊や」
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