交差点の約束、屋敷の夜に咲く ~突然始まる婿決定戦???~

naomikoryo

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本章:矢沢瞬ルート

Ep5:真っ直ぐすぎる国から来た少女

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―「オトコノコ、ふるえてるのに……やさしい目してるね」
 矢沢瞬は、扉の向こうに立っていた。
 深呼吸を三度しても、胸のざわつきは収まらない。
 前の部屋――ミユとの出会いで得たものは確かにあった。
 けれど、“触れる”ということが意味するものは、まだあまりにも遠かった。

 

 扉が自動で開いた瞬間――

 

 「Hi! Are you Shun-kun?」

 

 大きな声が弾けた。

 

 目の前に立っていたのは、ブロンドのポニーテールを揺らす少女。
 背は小柄で、白いノースリーブのシャツにデニムのショートパンツ。
 年齢はたぶん、瞬たちと同じか少し下。
 表情はとにかく明るく、そして……とても近い。

 

 「えっ、あ、は、はい……矢沢です……」

 

 「わたし、ジェニファー! でも“ジェニー”ってよんでね!」

 

 そう言って彼女は笑い、いきなり瞬の腕をつかんで手を握った。
 その瞬間、瞬の体が一気に硬直する。

 

 「ふ、触っ……」

 

 「You so cute! あなた、ちょっとこわがってる?」

 

 「……す、すいません……その……女性、苦手で……」

 

 「うん、見たらわかる! オトコノコって、目、泳ぐよね」

 

 ジェニファーはケラケラと笑いながら、ソファにぴょんと座った。

 

 この部屋はまるで子ども部屋のようだった。
 ポップな柄のクッション、ベッドの上にはぬいぐるみ、壁には海外のティーン映画のポスター。

 

 「ジェニファーさん……なんで、ここに?」

 

 「ん~、ホウシュウ? おかね? でもそれより……日本の男の子って、どんなか興味あったの!」

 

 「きょ、興味……?」

 

 「うん! だって、こわいって言いながら、すっごくていねいに話してくれるでしょ。
  なんか……shyでsweet。オトコノコって感じ」

 

 瞬は言葉を失っていた。

 

 ジェニファーは身体の距離感がおかしいほど近くて、でもそれは“性的”な意味ではなく、ただ“人と関わることを恐れていない”無邪気さだった。

 

 「ねぇねぇ、しゅんくん」

 

 「……はい」

 

 「なんで“触るの”こわいの?」

 

 その言葉は、直球だった。

 

 「……自分でも、よくわかんない。
  でも、小さい頃からずっと、女の子と関わると、笑われたり、怖がられたり……。
  うまく話せないし、変に思われるんじゃないかって……そういうのが積もって」

 

 ジェニファーは、しばらく真剣な表情で瞬の話を聞いていた。
 それから、唐突に言った。

 

 「じゃあさ――目、見てて?」

 

 「え……?」

 

 「ふれるのは、また今度でもいい。でも、わたしの目、ちゃんと見てて。
  それだけで、ちゃんと“つながってる”から」

 

 その言葉に、瞬は目を合わせる。
 彼女の瞳は、青く透き通っていた。
 その中には、嘲笑も試すような色もなく、ただの**“まっすぐな好奇心”**が宿っていた。

 

 「ね? そんなにこわくないでしょ?」

 

 「……うん。なんか……話すのが、少しだけ楽かもしれない」

 

 「Yay! Progress!(進歩!)」

 

 ジェニファーは両手でガッツポーズを取ってから、小さく手を広げて言った。

 

 「しゅんくんがさ、ちゃんと“こわいままでも人と話せる”ってこと、わかった。
  だから、“変えなくていいよ”」

 

 瞬は、目の奥が少しだけ熱くなるのを感じていた。

 

 「……ありがとう。
  “変わって”って言われるのが、いちばん怖かったかも。
  ジェニファーさんに会えて、ちょっと自信出た気がします」

 

 ジェニファーは、にっこりと笑った。

 

 「じゃあ、“さよなら”じゃなくて、“またね”だね」

 

 部屋の隅から、**カチッ……カチッ……**とロック解除の音が聞こえた。

 

 瞬は立ち上がり、ジェニファーにお辞儀をする。

 

 「ありがとうございました。ほんとに」

 

 「You’re welcome! Remember! Don’t be scared to look!(見ることを怖がらないでね!)」

 

 扉を開いた瞬間、彼の背中にジェニファーの明るい声が届いた。

 

 「しゅんくん、ちょっとだけ、オトコノコの顔になってたよ~!」

 

 瞬は――照れくさそうに、でも確かに微笑んでいた。
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