交差点の約束、屋敷の夜に咲く ~突然始まる婿決定戦???~

naomikoryo

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本章:神崎尚樹ルート

Ep5:気づけなかった好意

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―「私ね、ずっと言いたかったんだ。“好きだったよ”って」
 扉が閉まった直後、尚樹は、どこか落ち着かない空気を感じていた。

 

 この部屋は、他のどの空間とも違った。

 壁は淡いピンク、出窓にはレースのカーテン、小さな木馬の飾り。
 まるで――昔の誰かの部屋のような、懐かしさが充満していた。

 

 その記憶に思いを巡らせていると、ふと背後から声がした。

 

 「……尚樹くん、久しぶり」

 

 その声に、心臓が跳ねる。
 振り返ると、そこにいたのは――

 

 「……ま、真弓……?」

 

 彼女は優しく微笑んでいた。
 大橋真弓。
 小学校の頃、隣の家に住んでいて、毎日一緒に通学していた幼なじみ。

 

 けれど中学に上がる頃、引っ越していって、それっきり。

 

 「わぁ……変わらないね、尚樹くん。ちょっと背、伸びたかな」

 

 「真弓……ここに……どうして……」

 

 「私も、呼ばれたの。
  “婿選抜”とかって、意味分かんない話だったけど……
  でも、あなたの名前が出てて――迷わず、来ちゃった」

 

 尚樹は口元を引き結ぶ。
 戸惑いと懐かしさがない交ぜになっていた。

 

 彼女は、相変わらず控えめで、言葉少なだったが――
 その瞳は、どこか“覚悟”の色をしていた。

 

 「……あの頃、覚えてる?」

 

 「もちろん。
  いつもお弁当を一緒に食べて、校庭の隅で話して……」

 

 「そっか。尚樹くんは覚えててくれたんだ。
  ……私ね、ずっと、言いたかったことがあるの」

 

 真弓は、ほんの少しだけ顔を伏せる。
 そして、震えそうな唇で、はっきりと告げた。

 

 「私、ずっと、尚樹くんのこと、好きだったよ」

 

 部屋が、静まり返る。

 

 「でも……伝えたくても、言えなかった。
  尚樹くん、いつも優しいのに、どこか遠くて……
  “私なんて”って、そう思うたびに、自分がちっぽけに感じちゃって」

 

 尚樹は、苦笑しながら口を開いた。

 

 「……俺、ほんとに鈍かった。
  気づいてなかった。いや、気づかないフリしてたのかも」

 

 「ううん。責めてないよ。
  伝えなかったのは、私だもん。
  でも、こうして今日言えて、やっと――やっと、前に進める」

 

 真弓の目に、涙がにじんでいた。
 けれどそれは、悲しみというより、**“何かを終えた人の涙”**だった。

 

 「尚樹くん。好きだった。
  でも……今は、あなたが誰かに本音を伝えられる人になることを、心から願ってる」

 

 尚樹は、ゆっくりと頭を下げた。

 

 「ありがとう。……俺に、そう言ってくれて。
  俺も……これからは、ちゃんと“大切にしたい人”を見逃さないように生きるよ」

 

 「うん。……大丈夫、尚樹くんなら、ちゃんとできる」

 

 その瞬間――
 ロックの音が、小さくカチリと外れた。

 

 真弓は、にこっと笑って言った。

 

 「……さよなら、尚樹くん。じゃなくて――“ありがとう”だね」

 

 尚樹の胸に、ほんの少しの痛みと、優しさが残った。

 

 それは、**“もう叶わないけれど、大切だった気持ち”**への、静かな手向けだった。
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