ねこまど~猫と人がつなぐ、奇跡のカフェ~

naomikoryo

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01)猫カフェのバイト募集

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1
 猫カフェ「ねこまど」の店内には、午後の陽射しが心地よく差し込んでいた。大きな窓から入り込んだ光は、床に転がる猫たちの毛並みを黄金色に照らし、ゆったりとした空気を作り出している。

「……やっぱり、もう一人くらい必要よね」

 カウンターの中で腕を組みながら、藤井峰子――通称「ネコ店長」は小さくため息をついた。

 現在、この店のスタッフは自分を含めて三人。あと二人は、女子高生バイトの橘真緒と水野琴葉だ。どちらも猫が大好きで、仕事の合間に猫とじゃれついては「天職~!」と喜んでいる。

 だが、問題はその「合間」の頻度が妙に多いことだった。

「ネコ店長ー、ちょっとお茶飲んでいい?」

 カウンターの向こうから顔を覗かせた真緒が、猫耳カチューシャを揺らしながら言う。

「ちょっとじゃなくて、もう休憩ばっかりでしょ」

「だってぇ、もうすぐおやつの時間だし」

「猫の話よね?」

「もちろん♪」

 峰子はこめかみを押さえながら、店内を見回した。琴葉は窓際のテーブルで、客と一緒になって猫と戯れている。こちらも、バイトというよりはほぼお客さんだ。

「はぁ……」

 人手が足りない。

 それが最近の大きな悩みだった。

2
 猫カフェという場所柄、業務は意外と多い。

 お客さんの注文を取るのはもちろん、猫たちの健康管理、トイレの掃除、餌やり……そして何より、猫がストレスを感じないよう気を配るのも大切な仕事だ。

 だが、女子高生二人だけではどうにも戦力不足だった。

 特に、重い猫砂の交換やキャットタワーの掃除など、力仕事が必要な場面では、峰子がほぼ一人でやることになる。

「男手が欲しいわね……」

 そんなことをぼやいていると、真緒が興味津々といった顔で寄ってきた。

「え? バイト募集するの?」

「するわよ。もう限界」

「へぇ~、どんな人がいいの?」

「ちゃんと働いてくれる人。できれば猫好きで、礼儀正しくて、愛想もよくて……」

「それ、なかなかハードル高くない?」

 確かに。峰子は頭を抱えた。

 この仕事、猫好きには天国かもしれないが、そうでない人にとっては、ただの「動物がいる職場」に過ぎない。おまけに、猫カフェの接客は意外と大変だ。

「でも、ここに来る人って、みんな猫好きだし、ちゃんとした人が応募してくれるんじゃない?」

「……そうだといいけど」

 期待半分、不安半分。

 とにかく、求人の準備をするしかなかった。

3
 翌日、峰子はカウンターで求人情報を作成していた。

【猫カフェ「ねこまど」スタッフ募集】
◆仕事内容:接客、清掃、猫のお世話 など
◆勤務時間:シフト制(週3日~OK)
◆応募条件:猫好きな方、大歓迎!

 ついでに「男性歓迎」と小さく添えておいた。力仕事を考えれば、やはり男性スタッフが欲しいところだ。

「さて、貼るか……」

 求人情報をプリントアウトし、店の掲示板に貼り出す。

 すると、それを見つけた琴葉が「お、新しい人来るの?」と興味を示した。

「来るといいけどね」

「どんな人が来るかな~。イケメンだったらいいな」

「そういう基準じゃないのよ」

「でもさ、イケメンのバイトがいたら、お客さん増えるかもよ?」

「うーん……それは否定できない」

 実際、カフェ業界ではスタッフの見た目が集客に影響することはある。

 ただし、この店は「猫が主役」なので、人間のルックスで勝負する気はない。

「ま、誰が来るかは運次第ね」

 そう言いながら、峰子は求人情報を眺めた。

4
 数日後――

 ついに、応募者が現れた。

「すみません、バイト募集の件で……」

 扉の向こうから聞こえてきたのは、若い男性の声だった。

(おっ、ついに来たか!)

 期待と不安を抱えながら、峰子は顔を上げた。

 そこに立っていたのは、黒髪のショートカットに、黒いジャケットを羽織った大学生らしき青年。

 一見、クールな印象だが、どこかやる気がなさそうな雰囲気もある。

「どうぞ、中へ」

「はい」

 青年――飯塚昭人は、カウンター席に座った。

「それで、バイトの応募ってことでいいのよね?」

「はい。えっと……週3日くらい働けると思います」

「ふーん。猫カフェの仕事、興味ある?」

「……まあ、はい。なんとなく」

(……なんとなく?)

 猫好きが来ると思っていた峰子は、予想外の返答に少し驚いた。

「猫は好き?」

「えっと……別に嫌いじゃないです」

 ここで、琴葉と真緒が顔を見合わせた。

 ――怪しい。

 この男、本当に猫カフェ向きなのか?

 しかし、峰子はしばらく昭人の様子を観察した後、意外にもあっさりと結論を出した。

「採用」

「え、早っ!」

「どうせ試してみないとわからないし。猫がダメそうなら、すぐクビね」

「……マジですか」

「マジよ」

 こうして、飯塚昭人は猫カフェ「ねこまど」で働くことになった。

 ――このときはまだ、誰も知らなかった。

 この男が、店の猫たちに 異常なほど懐かれる という運命を背負っていることを。
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