ねこまど~猫と人がつなぐ、奇跡のカフェ~

naomikoryo

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02)バイト面接に来たのは……

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1
 飯塚昭人(いいづか あきと)は、食パンの耳を抱えて歩いていた。

 手にしているのは、透明なビニール袋。中には20枚分ほどの食パンの耳がぎっしり詰まっている。

 これで100円。

 昭人にとって、コスパ最強の食料だった。

「はぁ……」

 財布の中身を確認して、ため息をつく。

 ――金がない。

 いや、正確に言えば、使いすぎただけだ。

 今月は推し活に全力を注ぎすぎた。

 フィギュア、Blu-ray、アクリルスタンド、缶バッジ、公式グッズ……推しのために惜しまず課金した結果、生活費がギリギリになったのだ。

 もともと、昭人は家庭教師のバイトで収入を得ていた。

 教えていたのは、近所の中学3年生の男子。数学が苦手で伸び悩んでいたが、必死に努力し、ついに志望校に合格。

 「飯塚さんのおかげです!」

 そう言われたときは、少し誇らしかった。

 ――だが、その瞬間、昭人のバイト収入も終了した。

「まぁ、推し活優先したいし、新しい家庭教師先を探すのも面倒だしな……」

 昭人は、他のバイトを増やす気はなかった。

 推しのイベントに行くために、なるべくシフトの融通が利く仕事がしたい。

 そう考えていた矢先、目の前にある貼り紙が目に入った。

2
 【猫カフェ「ねこまど」スタッフ募集!】

 昭人は足を止め、じっとその紙を眺めた。

◆仕事内容:接客、清掃、猫のお世話 など
◆勤務時間:週3日~3時間以上で相談可
◆時給:能力により都度アップ
◆応募条件:猫好きな方、大歓迎!

「猫カフェ……?」

 この道は何度も通っているが、猫カフェがあるとは気づかなかった。

 ガラス張りの店内を覗くと、ふわふわの猫たちがくつろいでいるのが見える。日差しの中で寝ている猫、キャットタワーを登っている猫、毛づくろいをしている猫……猫好きにはたまらない光景なのだろう。

 ……だが、昭人は別に猫が好きなわけではなかった。

 特に嫌いというわけでもないが、積極的に関わりたいとも思わない。

「週3日で、3時間以上なら相談可……ってことは、短時間でもいけるってことか」

 推し活のイベントと被らないように調整できそうなところが魅力だった。

「時給は“能力により都度アップ”ねぇ……」

 詳細が書かれていないのが少し気になったが、働き方次第で収入が増えるなら悪くないかもしれない。

「ま、猫と遊んでるだけで金もらえるなら、悪くないか」

 昭人は甘い考えのまま、店のドアを押した。

3
「すみません、バイト募集の件で……」

 そう言うと、カウンターの奥にいた女性が顔を上げた。

 藤井峰子(ふじい みねこ)。

 黒いエプロン姿の彼女は、猫カフェの雰囲気に似合う柔らかな見た目だったが、目つきは鋭く、仕事のできる店長のオーラを纏っていた。

「バイト希望?」

「はい、一応」

「猫、好き?」

 昭人は少し考えてから、適当に答えた。

「……別に嫌いじゃないです」

 すると、カウンターの奥から二人の女子高生がひそひそと話しているのが聞こえた。

「ねぇねぇ、あの人、猫好きって顔してないよね?」

「うん、なんかちょっと怪しい」

 昭人は気づかないふりをした。

「まあとりあえず、座って。話を聞かせてもらおうかしら」

「はい」

 昭人はカウンターの椅子に腰を下ろした。

4
「週に何日くらい入れる?」

「3日くらいなら」

「うちの仕事、大変だけど大丈夫?」

「……猫カフェって、そんなに大変なんですか?」

「甘く見てるでしょ?」

「いや、別にそういうわけじゃ……」

 ――実は甘く見ていた。

 カフェなんて、飲み物を出して掃除するくらいの仕事だろうと思っていた。

 だが、峰子の説明を聞くうちに、昭人は少し考えを改めた。

 猫の世話、トイレ掃除、猫の健康チェック、お客さんへの説明、さらに猫のストレスを管理する必要もある……。

「意外とやること多いな……」

「当然でしょ。猫が相手なんだから」

「なるほど……」

 昭人は少し悩んだが、金欠のことを思い出して腹をくくった。

「まあ、やってみないとわからないですし、とりあえず試してみたいです」

「……よし、採用」

「え、早っ」

 昭人は驚いた。まさか即決とは思わなかった。

「とりあえず、試用期間ってことで。猫と相性が悪そうなら、すぐクビにするから」

「……わかりました」

 こうして、昭人は猫カフェ「ねこまど」で働くことになった。

 ――このときはまだ、誰も知らなかった。

 この男が、店の猫たちに 異常なほど懐かれる という運命を背負っていることを。
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