ねこまど~猫と人がつなぐ、奇跡のカフェ~

naomikoryo

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03)いざ出勤!しかし猫の洗礼が……

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1
 ――猫カフェの仕事は、楽なはずだった。

 飯塚昭人(いいづか あきと)は、そんな甘い考えのまま、猫カフェ「ねこまど」の扉を押した。

 バイト初日。

 制服として渡された黒いエプロンを手にしながら、軽く伸びをする。

「さて、適当に頑張りますか」

 バイトなんて、給料さえもらえればそれでいい。

 推し活に支障がない程度に働いて、適度に時給が上がればそれで満足だ。

 ――しかし、そんな考えが甘すぎたことを、この数分後に知ることになる。

「おはよう、飯塚くん」

 カウンターの奥から、店長の藤井峰子(ふじい みねこ)が顔を出した。

「おはようございます」

「さっそくだけど、猫たちに挨拶してね」

「え、挨拶?」

「猫にも相性があるからね。あなたがここで働くなら、猫たちに受け入れてもらわないと」

「……なるほど」

 まぁ、猫カフェなら当たり前か。

 昭人はエプロンをつけ、店内に足を踏み入れた。

 ――その瞬間だった。

2
「……にゃあ?」

「……?」

 数匹の猫が、一斉に昭人のほうを見た。

 それまではキャットタワーでくつろいでいたり、日向ぼっこをしていた猫たちが、何かに気づいたように動きを止める。

 その視線が、昭人に向けられていた。

(……なんだ?)

 まるで獲物を見つけたかのような、その視線に嫌な予感がした。

「にゃあ!」

 ――ドドドドドッ!

「ちょっ!? なんでこっちに突進してくんの!?」

 次の瞬間、昭人は 猫の大群に襲われた。

 足に絡みつく猫。

 膝に飛びついてくる猫。

 肩によじ登ってくる猫。

 背後からダッシュでぶつかってくる猫。

「お、おい!? なんでこんなに絡まれてんの俺!?」

 猫カフェの店員なら、猫に懐かれるのはいいことかもしれない。

 だが、限度があるだろ!?

「ぷっ、くくっ……」

 レジの奥から、峰子が肩を震わせている。

「ちょっ……店長、笑ってないで助けてくださいよ!」

「いやいや……普通こんなことならないから……っ」

「どういうことですか!」

「たぶん、あなた……猫に異常に好かれる体質なのね」

「そんなん聞いてませんけど!?」

 昭人が必死に猫を剥がそうとすると、キャットタワーの上から 茶トラの大きな猫 がじっと彼を見ていた。

「お?」

 峰子が目を細める。

「ボスが動いた……」

「ボス?」

 昭人がその猫を見上げた瞬間――

 ボス(茶トラ)が、キャットタワーの上から ダイブした。

「わっ、ちょっ、待っ――」

 ――ドスッ!!

 昭人の 肩に、ボスが鎮座する。

「にゃあ(ここが気に入った)」

「なんでだよ!!」

3
 カウンターの奥で、峰子と女子高生バイト二人が、爆笑していた。

「ぷはっ! これ、すごいね……!」

「新人くん、猫にめっちゃ愛されてる!」

「いや、これ普通じゃないでしょ!?」

 昭人は、何が起こっているのか分からなかった。

 肩にはボス。

 足元にはミルク(白猫)がすり寄ってくる。

 膝の上には、もなか(三毛猫)が 勝手に陣取っている。

「これじゃ、動けないんですけど……!」

「まるで猫の王様だね~」

「……っていうか、新人くんって、もしかして前世猫だったんじゃない?」

「そんなバカなことあるか!」

 昭人が反論しても、猫たちは離れる気配がなかった。

「……まぁ、猫に好かれるのはいいことよ」

 峰子は、何かを考えるように言った。

「そのまましばらく動かないでみて」

「いやいや、仕事が――」

「いいから」

 峰子の言葉に従い、昭人はじっとしてみた。

 すると――

 ゴロゴロ……ゴロゴロ……

 猫たちが、一斉に 喉を鳴らし始めた。

「えっ……」

「すごい。ボスがこんなに甘えるの、久しぶりに見たわ」

 峰子の言葉に、昭人は戸惑った。

「……つまり、俺はこの店で、猫の下僕として生きていくことになる ってことですか?」

「そういうことになるわね」

「……バイトって、こんなに大変なんですか?」

「そうよ。頑張ってね、新人くん」

 こうして、昭人の 「猫カフェ戦争」 が始まった。

4
 バイト初日から、昭人は猫まみれになった。

 掃除をしようとすれば、雑巾の上に猫が乗る。

 水を取りに行こうとすれば、足元で猫が寝転がる。

 休憩しようと椅子に座れば、膝の上に猫が乗る。

 何をするにも、猫が邪魔をしてくる。

「俺、猫の奴隷になった気分なんですけど」

「うん、そうね」

「否定してくださいよ!」

 女子高生バイトの真緒と琴葉は楽しそうに笑っている。

「でも、新人くんが来てくれてよかったよ~。猫たち、すごく幸せそうだもん」

「そうそう。きっと相性がいいんだよ」

「……そういうものか?」

 納得はいかなかったが、仕方がない。

「まぁ、推し活のためだ。頑張るか……」

 こうして、昭人の 「猫に懐かれすぎるバイト生活」 がスタートしたのだった。
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