ねこまど~猫と人がつなぐ、奇跡のカフェ~

naomikoryo

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14)猫たちの過去

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1
「――ボスって、昔からあんな感じなんですか?」

 バイト9日目の夕方。

 飯塚昭人(いいづか あきと)は、キャットタワーの上で どっしりとくつろいでいるボス(茶トラ♂) を見上げながらつぶやいた。

「ん? どういう意味?」

 カウンターで作業をしていた 藤井峰子(ふじい みねこ・店長) が、ふと顔を上げる。

「いや、なんかこう……ボスって、王様みたいな貫禄 あるじゃないですか」

「まぁ、確かにね。でも、最初からそうだったわけじゃないわよ」

「え?」

 昭人が驚いた顔をすると、峰子はカップを手に取りながら静かに言った。

「ボスは、もともと 野良猫 だったのよ」

2
「野良……?」

「ええ。しかも、ただの野良じゃなくて、元ボス猫 だったの」

「……マジですか」

 昭人は、改めてボスを見た。

 確かに、ボスは他の猫よりも 堂々としていて風格がある。

「ボスは、近くの公園で縄張りを持っていたわ。そこでは、たくさんの猫たちを率いる“リーダー”だったの」

「……じゃあ、どうしてここに?」

 峰子は、少しだけ目を伏せた。

「……ある日、ボスは若いオス猫に縄張りを奪われたの」

「……!」

 野良猫の世界は厳しい。

 縄張りを持つオス猫は、常に 他の猫との戦い にさらされる。

 年を取ったボスは、新しく力をつけた若い猫に敗れた のだった。

「縄張りを失ったボスは、公園を追い出されてしまったの。居場所を失った彼は、ガリガリに痩せて、道端でうずくまっていたわ」

「……それで、店長が拾ったんですか?」

「そうよ」

 峰子は、小さく微笑んだ。

「最初は、ものすごく警戒されてね。人間に近づくどころか、威嚇ばっかりしてたわ。でも、それでも彼のプライドは折れていなかったの」

「プライド……?」

「そう。縄張りを失っても、“ボス”であることは変わらない。だから、決して媚びたりしなかったのよ」

「……なるほど」

 昭人は、ボスがタワーの上から店内を見渡しているのを眺めた。

 まるで、自分の“縄張り”を守っているように見える。

「じゃあ、ボスにとってこの店は、新しい縄張りみたいなもんなんですね」

「そうね。ここなら、誰も彼を追い出さないし、居場所がある」

 昭人は、ボスに声をかけた。

「……お前、ここが気に入ってるのか?」

 すると、ボスはゆっくりと目を細めた。

「にゃ……(まぁな)」

「……そっか」

 昭人は、小さく笑った。

 ボスは、ここで 新しい“王”になったのだ。

3
「他の猫たちも、何かしらの理由があってここに来たの?」

 昭人がそう聞くと、峰子は「もちろんよ」と頷いた。

「例えば、ミルク(白猫♀)は、捨て猫だった わ」

「……え?」

「まだ赤ちゃんのとき、ダンボールに入れられて道端に捨てられていたの」

「……」

「この子はね、甘えん坊なのはそのせいかもしれないわね」

 昭人は、ミルクを見た。

 彼の膝の上で、ゴロゴロと喉を鳴らしている。

「お前、寂しかったのか?」

「にゃあ……(うん)」

「でも、もう寂しくないか?」

「にゃ♡(ぜんぜん!)」

「そっか」

 昭人は、そっとミルクの頭を撫でた。

 ミルクは気持ちよさそうに目を閉じる。

 ――それぞれの猫に、それぞれの過去がある。

 この店にいる猫たちは、みんな何かしらの 理由 でここに来たのだ。

4
「他にも、もなか(三毛猫♀)は?」

「もなかは……元・迷い猫 ね」

「迷い猫?」

「もとは飼い猫だったんだけど、ある日突然、家からいなくなってしまったの」

「えっ、それって……」

「ええ。飼い主さんは必死に探したみたいだけど、見つからなかった。でも、ある日、うちの店の前でウロウロしているのを見つけたの」

「……それで、その飼い主さんは?」

「もう、引っ越してしまっていたわ」

「……」

 昭人は、もなかを見た。

 もなかは、キャットタワーの上から、ちょっと寂しそうな目でこちらを見ていた。

「お前……寂しくないのか?」

「にゃ~(もう、大丈夫)」

「そっか……」

 でも、その返事には 少しだけ無理しているような感じがした。

 ――もなかは、今も飼い主のことを覚えているのかもしれない。

5
「……ねぇ、新人くん」

「ん?」

「猫たちの過去を知って、どう思った?」

 峰子が、じっと昭人を見つめている。

「……」

 昭人は、店内を見渡した。

 猫たちが、思い思いにくつろいでいる。

 ボスは王のように見下ろし、ミルクは甘え、もなかは気まぐれに店内を歩く。

 ――でも、みんな、ここで幸せそうにしている。

「……なんか、すごいですね」

「何が?」

「俺、この店に来るまで、猫ってただの“動物”だと思ってましたけど……こんなに、いろんな感情を持ってるんだな って」

「ふふ、そうでしょ?」

 峰子は、少しだけ誇らしそうに微笑んだ。

 猫カフェ「ねこまど」は、ただのカフェじゃない。

 ここは、猫たちの“居場所”であり、昭人の新しい世界だった。
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