ねこまど~猫と人がつなぐ、奇跡のカフェ~

naomikoryo

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15)もっと知りたい

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1
 ――猫は、ただの動物じゃない。

 バイトを始めたころの昭人(あきと)は、「猫カフェのバイトなんて楽だろう」と軽く考えていた。

 でも、ここで働くうちに、猫たちが持つ それぞれの過去や感情 に気づき始めた。

「……なぁ、店長」

「なに?」

 閉店後の猫カフェ「ねこまど」。

 猫たちがリラックスしている時間。

 昭人は、カウンターで後片付けをしていた 藤井峰子(ふじい みねこ・店長) に話しかけた。

「俺、もっと猫たちのこと知りたいんですけど……どうすればいいですか?」

 その言葉に、峰子は少し驚いた顔をした。

「……あら。最初は“適当にバイトして金稼げればいい”って感じだったのにね」

「うっ……」

 言い返せない。

「まぁ、いい心がけじゃない?」

 峰子は小さく笑いながら言った。

「でも、“知りたい”っていうのは、具体的に何を?」

「うーん……」

 昭人は少し考えてから答えた。

「……なんで、猫って急に機嫌が変わるんですか?」

2
「急に機嫌が変わる?」

「はい。さっきまで甘えてきてたのに、いきなり『触るな!』みたいな顔するときがあるじゃないですか」

「ああ、それは……気まぐれだからね」

「それだけですか?」

「猫は、常に“自分のペース”で動いてるの。だから、人間が“まだ撫でたい”と思っても、猫は“もう十分”って思ったら終わりなのよ」

「……なるほど」

「あと、猫は気分によって態度を変えることが多いわ。人間と同じよ」

「へぇ……」

 昭人は、その言葉を聞きながら、もなか(三毛猫♀) を思い浮かべた。

 いつも気まぐれで、撫でてもすぐにどこかへ行ってしまう。

 でも、たまに自分からすり寄ってくるときもある。

「……じゃあ、猫が“撫でてほしい”ってときのサインってあるんですか?」

「いい質問ね」

 峰子は、店の中を見渡して言った。

「たとえば……尻尾をピンと立てて近づいてくるとき は、甘えたいサインよ」

「おお、確かに!」

 ミルク(白猫♀)は、いつも尻尾を立てて近寄ってくる。

「あとは、ゆっくりまばたきする のも、信頼の証ね」

「へぇ……」

 そう言われてみると、ボス(茶トラ♂)はたまに昭人を見ながら ゆっくりと目を閉じる ことがある。

「……あれって、そういう意味だったんですか」

「ええ。猫が“ここは安心できる”って思ってる証拠よ」

「……」

 昭人は、店内を見渡した。

 ボスはキャットタワーの上でまどろみ、ミルクはお気に入りのクッションでくつろぎ、もなかは窓辺でしっぽを揺らしている。

 ――猫たちは、ここを「安心できる場所」と思ってくれているんだ。

「なんか……いいですね」

「ふふっ、でしょ?」

3
「じゃあ、新人くん! せっかくだし、“猫クイズ”やろうよ!」

 そこへ、橘真緒(たちばな まお) がニヤニヤしながら割り込んできた。

「猫クイズ?」

「そう! ちゃんと猫のことを理解してるか、試してあげる♪」

「えぇ……」

「よし、第一問!」

 真緒は、キャットタワーでくつろぐボスを指差した。

「ボスが“もう構うな”って思ってるときのサインは?」

「え……それは……」

 昭人は、ボスの態度を思い返す。

「……しっぽをバタバタさせる?」

「ピンポーン! 正解♪」

「おお、本当に合ってた」

「やるじゃん! じゃあ、第二問!」

 今度は、琴葉(ことは)がもなかを指差した。

「猫がリラックスしてるときの耳の向きは?」

「えっと……ちょっと横に開いてるとき?」

「正解~!」

「おぉ……」

「ふふっ、新人くん、ちゃんと猫のこと勉強してるね!」

「……いや、俺、勉強っていうか……なんとなく、わかるようになってきたっていうか……」

 そう言いながら、昭人はミルクを撫でる。

「にゃあ♡(よくできました♡)」

「……」

 気づけば、昭人は 自然と猫の気持ちを理解しようとしていた。

4
「……お前らって、本当にいろんな表情するんだな」

「にゃ~ん(そうだよ)」

「最初は気まぐれな生き物だと思ってたけど……ちゃんと見てると、結構わかるもんだな」

「にゃ♡(でしょ?)」

 ――もっと、知りたい。

 昭人は、そんな気持ちになっていた。

 この店にいる猫たちのこと。

 猫たちが考えていること。

 もっともっと、理解してみたい。

 そんな昭人を見て、峰子が微笑んだ。

「……ふふっ、いい顔してるわね」

「え?」

「最初は、“推し活のため”にバイトしてただけだったのに」

「……う」

 言い返せない。

「でも、今はちゃんと、“猫カフェのスタッフ”になってるんじゃない?」

「……」

 昭人は、少し考えてから、小さく笑った。

「……そうかもしれませんね」

 ――こうして、昭人は「ねこまど」の一員として、また一歩成長していくのだった。
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