ねこまど~猫と人がつなぐ、奇跡のカフェ~

naomikoryo

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16)店長の機嫌

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1
 ――なんか、今日の店長、機嫌悪くないか?

 猫カフェ「ねこまど」の開店準備をしながら、飯塚昭人(いいづか あきと)はふと違和感を覚えた。

 カウンターの奥にいる藤井峰子(ふじい みねこ・店長)は、普段と変わらずコーヒーを淹れている。

 だけど、どこか 無言の圧 を感じる。

「……気のせい?」

 昭人は様子をうかがいながら、ちらりと峰子の動きを見る。

 たしかに、いつもと同じように見える。

 でも――

「店長、なんか機嫌悪くないですか?」

 ぽつりと呟くと、近くにいた 水野琴葉(みずの ことは) が「え?」と不思議そうな顔をした。

「そう? いつもと変わんないけど」

「いや、なんかピリピリしてるっていうか……」

「え~? そうかなぁ?」

 次に 橘真緒(たちばな まお) に目を向けると、彼女は「ふーん?」と峰子を見つめた後、ニヤリと笑った。

「……もしかして、新人くん、店長の機嫌を気にしちゃってる?」

「は?」

「え、なに? 気になっちゃう感じ!?」

「いやいや、そういうんじゃなくて! なんとなく空気が違うなって思っただけで……」

「ふーん?」

 真緒と琴葉が ニヤニヤしながら 昭人を見る。

「……なんだよ」

「いや、なんか意外~。新人くんって、人の機嫌とか気にするタイプだったんだ?」

「猫の機嫌には敏感なのにね」

「それ関係あるか!?」

 真緒たちは軽く流したが、昭人の違和感は消えなかった。

2
 昭人は、店内を見渡した。

 猫たちは相変わらずのんびりしている。

 ボス(茶トラ♂)はキャットタワーの上で目を閉じ、ミルク(白猫♀)は昭人の足元でスリスリしている。

 そんな中、ふと目に入ったのが――

「……?」

 店長が撫でている猫の表情が、なんか微妙だ。

 峰子は、いつも通り猫を撫でている。

 でも、その手つきが ちょっとだけ強め に見える。

 ――普段ならもっと優しく撫でるのに?

 昭人がそう思った瞬間、撫でられていた もなか(三毛猫♀) が「にゃっ!」と鳴いて、少し離れた。

「……あれ?」

 猫たちは、触られたときの“圧”に敏感だ。

 リラックスしているときは、柔らかく撫でられるのが好きだが、力が入りすぎていると 「今はそういう気分じゃない」 と感じて避けることがある。

 ――つまり、峰子の手つきがいつもより強いのは、何かしらの理由がある ということ。

(やっぱり、なんかイラついてるのか?)

 そんなことを考えていると、昭人の目が峰子と合った。

「……なに?」

「いや、別に」

「仕事しなさいよ」

「……」

(やっぱり、ちょっとピリピリしてるよな……)

3
 気になった昭人は、休憩時間に峰子へそれとなく聞いてみることにした。

「店長、なんか機嫌悪いっすか?」

「は?」

「いや、なんかちょっとピリピリしてる気がするっていうか……」

「そんなことないけど?」

「ほんとに?」

「ほんと」

 峰子は淡々と答えた。

 でも、猫のことならすぐにわかる昭人は、なんとなく彼女の態度が「不機嫌を隠している猫」に似ている と感じた。

 ――猫が機嫌が悪いとき、よくやる仕草。

 ◆ そっけない態度を取る。
 ◆ しっぽ(もとい、手の動き)が落ち着かない。
 ◆ 撫で方が強めになる。

 そして、一番分かりやすいのが……

「……」

 昭人は、おもむろに コーヒーを淹れた。

 そして、それを峰子の前に差し出す。

「……なに?」

「機嫌悪い猫には、おやつをあげるのが一番って言うし」

「私は猫じゃないけど?」

「まぁまぁ」

 峰子はじっと昭人を見ていたが、やがて ふっと小さく笑った。

「……ありがと」

 そう言って、コーヒーを一口飲む。

 すると、先ほどまでのピリピリした雰囲気が、少し和らいだ気がした。

(……あれ?)

 昭人は 妙な違和感 を覚えた。

 なんで自分、店長の機嫌を取ろうとしてるんだ?

 しかも、自然にそれをやってしまっていた。

(猫の機嫌ならともかく、なんで店長の機嫌まで気にしてんだ、俺……?)

 その違和感の正体は、まだわからないまま――

 ただ、昭人は 「店長のことを気にしてしまう自分」に気づき始めていた。
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