ねこまど~猫と人がつなぐ、奇跡のカフェ~

naomikoryo

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17)店長、体調悪い?

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1
 ――なんか、今日の店長、動きが鈍くないか?

 バイト開始から1時間ほど経った頃、飯塚昭人(いいづか あきと)はカウンターの奥にいる藤井峰子(ふじい みねこ・店長)をちらりと見た。

 峰子は、いつものようにコーヒーを淹れたり、店内をチェックしたりしている。

 だけど、どこか違和感があった。

(なんか、動きがゆっくり……?)

 普段はキビキビと無駄なく動くのに、今日は少し もたついている ように見える。

 さらに、たまに額に手を当てたり、ふっと息をついたりしている。

(……いや、気のせいか?)

 そう思いながらも、昭人はカウンターの奥で店の様子を眺めていた。

「にゃあ……(店長、大丈夫か?)」

 ふと、キャットタワーの上で寝ていた ボス(茶トラ♂) が、峰子のほうをじっと見つめていた。

 ――そして、昭人もまた、妙な違和感を抱いていた。

2
「店長、なんか今日、動き遅くないっすか?」

 ふとしたタイミングで、昭人は軽く尋ねてみた。

「そう?」

 峰子はいつも通りの調子で答える。

 だけど、その声はどこか力がない。

(やっぱ、なんかおかしいよな)

 琴葉(ことは)や真緒(まお)は、特に気にしていない様子だった。

「店長、眠いんじゃない?」

「うーん、夜更かしとか?」

「別に」

 峰子はそう言いながら、カウンターに置いてある書類を整理し始める。

 ――その瞬間。

「……っ」

 彼女の動きが、一瞬止まった。

 そして、わずかによろける。

「店長?」

「……」

 峰子は一瞬目を閉じたが、すぐに姿勢を立て直した。

「……大丈夫」

「いやいや、今ふらつきましたよね?」

「……平気よ」

「どこが」

 昭人は 「ミルクが体調悪いときに見せる仕草」に似てる と思った。

 ミルク(白猫♀)は、風邪を引いたとき、こんなふうに 「大丈夫」 って態度を取りながらも、たまにフラッとすることがある。

 猫って、体調が悪いのを隠そうとする習性 があるんだよな……

(って、いや、店長は猫じゃないけど)

 でも、なんとなく 「似てる」 と思ってしまう。

 ――たぶん、今の峰子は「大丈夫じゃない」のに、「大丈夫」って言ってるだけだ。

3
「……ちょっと休めば?」

「だから平気だって」

「いや、猫だって具合悪いときはじっとしてるんだから、店長もそうしたほうがいいでしょ」

「猫と一緒にしないで」

「……」

 言い返されたが、昭人は じっと峰子を見つめる。

 すると、峰子は 目をそらした。

(……やっぱり、しんどいんじゃねぇか?)

「じゃあ、試しに猫たちを見てみましょうか」

「は?」

 昭人は、店内にいる猫たちに視線を向けた。

 すると――

 ◆ ミルク(白猫♀)が、峰子の足元でゴロンと寝転がる。
 ◆ ボス(茶トラ♂)が、峰子の近くをウロウロしている。
 ◆ もなか(三毛猫♀)が、普段なら寄ってこないのに、峰子のそばに来ている。

「……ほら、猫たち、店長に甘えてますよね?」

「……だから何?」

「猫って、人が体調悪いときに寄ってくること多いですよ」

「……」

「だから、たぶん、店長は――」

「……っ」

 昭人が言い終わる前に、峰子が 小さく咳き込んだ。

「……っふぅ」

 そして、ついにカウンターに手をつく。

(やっぱ、体調悪いじゃん!!)

4
「店長、今日早く帰ったほうがいいですよ」

「いや、平気――」

「平気な猫ほど、具合悪いとき隠すんですよ」

「だから私は猫じゃ――」

「いや、店長、“ネコ”って呼ばれてるんだから、猫みたいなもんでしょ」

「……」

 峰子は むっとした顔 をしたが、昭人は ジッと見つめたまま動かない。

 それを見て、峰子は ため息をついた。

「……じゃあ、少しだけ休憩する」

「最初からそうしてください」

 峰子は、しぶしぶバックヤードへ向かう。

 その後ろ姿を見ながら、昭人は 少しホッとしたような、でも不思議な感覚 を覚えた。

(……俺、なんでこんなに店長のこと気にしてんだろ)

 猫のことを気にするのと同じように、店長のことも 「なんとなく気になる」。

 「大丈夫」と言われても、「本当は大丈夫じゃない」 って、わかる気がする。

 でも、それがなんなのかは、まだわからなかった。
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