ねこまど~猫と人がつなぐ、奇跡のカフェ~

naomikoryo

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22)店長が気になる理由

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1
 バイト中。

 飯塚昭人(いいづか あきと)は、何気なくカウンターの奥にいる峰子(ふじい みねこ・店長)を見ていた。

 特に理由はない。

 いや、正確には「なんで見てるのかわからない」というほうが正しい。

(……なんで、俺、店長のこと気にしてんだ?)

 峰子は、淡々と仕事をこなしながらコーヒーを淹れている。

 白い湯気が立ち上るなか、細くてしなやかな指がカップを扱い、手際よくラテアートを仕上げていく。

 普段は無愛想だけど、こうして黙々と作業をしているときは、どこか 静かな気品がある。

 そして、時々 ふっと小さく微笑む。

(……あれ? 店長って、こんな表情するんだっけ)

 最近、店長の表情の変化が やたらと気になる。

 今までは「猫カフェの店長」くらいにしか思っていなかったのに――

「……新人くん」

「うわっ」

 不意に峰子と目が合い、昭人は 思わずびくっと肩を跳ねさせた。

「なに驚いてるのよ」

「あ、いや、別に……」

「さっきから、ずっとこっち見てたけど?」

「いや、別に」

「……ふーん?」

 峰子は、じっと昭人を見つめたあと、またコーヒーに視線を戻す。

(……なんか、やりづらい)

 今までは普通に会話していたのに、なぜか最近は 店長と目が合うと変に意識してしまう。

2
「おい、新人くん!」

「……なんですか」

「さっきから店長ばっかり見てない?」

 休憩時間、橘真緒(たちばな まお)が ニヤニヤしながら 話しかけてきた。

「は?」

「いやいや、バレバレだよ? さっきからチラチラ店長見てたし」

「見てない」

「はい嘘~~!!」

「……」

 真緒は、昭人の顔をじっと見つめると、くすっと笑った。

「ねぇ、新人くん。最近さ――店長のこと、気になるでしょ?」

「……は?」

「いや、ほら、猫のことならわかるんでしょ?」

「そりゃ、まぁ……」

「じゃあ、自分の気持ちも“なんとなく”わかるんじゃない?」

「……」

(いやいや、そんなわけないだろ)

 そう思いながらも、昭人は 心のどこかで引っかかるもの を感じていた。

3
 午後、カフェが落ち着いた頃。

 峰子が、カウンターで書類を整理していた。

 その横で、昭人も店のチェックリストを書き込む。

 何気なく並んで作業していたのだが――

(……近い)

 峰子の肩が、すぐ隣にある。

 ふわりと コーヒーの香りと、ほんのり甘いシャンプーの匂い が漂ってくる。

 これまでも何度もこんな距離感で仕事していたはずなのに、なぜか今日は 妙に落ち着かない。

「……」

 昭人は、チラリと峰子を横目で見た。

 店長は特に気にする様子もなく、淡々と書類に目を通している。

(俺、なんでこんなに意識してんだ?)

「……」

「……」

 妙な沈黙が流れる。

 峰子が手元の資料をめくるたびに、ほんの少し髪が揺れる。

 それだけのことなのに、なぜか心臓が 変なリズムを刻んでいる 気がする。

(いやいや、俺、マジでどうした)

「――新人くん」

「うわっ!!」

「なに驚いてるのよ」

 またも不意打ちで声をかけられ、昭人は ペンを落としそうになった。

「……いや、なんでもないです」

「そう?」

 峰子は、小さく微笑んだ。

 その微笑みが、やたらと 綺麗 に見えて――

(あ、これヤバいかもしれん)

 昭人は 思わず目をそらした。

4
 閉店後。

 昭人は、キャットタワーの上でまどろむボス(茶トラ♂)の前にしゃがんだ。

「なぁ、ボス」

「にゃ?」

「俺、最近なんかおかしい気がするんだけど」

「にゃ……?」

「店長のことが気になるっていうか、目が合うと変に意識しちまうっていうか」

「……」

「俺、どうしちまったんだ?」

「にゃ。(バカめ)」

「おい」

 ボスは 「もうわかってるだろ」 という顔で、昭人をじっと見つめてくる。

「いや、でも、そんなわけ……」

「にゃ。(言い訳すんな)」

「……うるせぇ」

 昭人は、そっとボスの頭を撫でた。

 でも、心の中では ぐるぐると何かが渦巻いていた。
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