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21)推しより気になるもの
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1
ボスの誕生日パーティーが終わり、翌日。
飯塚昭人(いいづか あきと)は、スマホを眺めながら なんとも言えない気持ち になっていた。
(……昨日の推しのイベント、めっちゃ盛り上がってるじゃん)
SNSには、フォロワーたちが投稿した写真や動画が溢れていた。
推しキャラの声優がステージに登場し、新作グッズが発表され、ライブでは神曲が披露されたらしい。
少し前の自分なら、画面を見ながら 「行きたかった!」 と悔しがっていたはずだ。
でも、今の昭人は――
(……ふーん、って感じだな)
それなりに「よかったな」とは思うが、心が動かない。
(……俺、なんでこんなに冷静なんだ?)
ボスの誕生日パーティーが楽しかったのは間違いない。
でも、それと同じくらい、いや、それ以上に――
推し活への熱が冷めている自分に驚いていた。
2
「――新人くん、何ニヤニヤしてるの?」
「えっ?」
顔を上げると、カウンターの奥で峰子(ふじい みねこ・店長)がじっとこちらを見ていた。
「いや、ニヤニヤはしてないっすよ」
「ふーん?」
峰子はコーヒーを飲みながら、じっと昭人を見つめる。
「……なんか、最近ちょっと変わったわね」
「は?」
「最初は“推し活のためにバイトしてる”って感じだったのに、今は普通に馴染んでる」
「……そりゃ、まぁ、慣れてきたんで」
「それだけ?」
「……」
峰子の鋭い視線に、昭人は 少しムズムズした。
(なんだろ、この感じ……)
店長に見られてるだけで、なんか落ち着かない。
(いやいや、何意識してんだ俺)
「……それより、店長こそ、なんで俺のことそんなに見てるんですか?」
「別に?」
「いや、めっちゃ見てましたよね」
「見てないわよ」
「絶対見てた」
「……気のせい」
峰子はそっぽを向いて、コーヒーを飲んだ。
でも、その 耳が少し赤い ような気がして――
(え、気のせい?)
昭人は、自分でもよくわからない違和感を覚えた。
3
「ねぇねぇ、新人くん!」
休憩時間、橘真緒(たちばな まお)が ニヤニヤしながら 話しかけてきた。
「昨日の推しのイベント、どうだったの?」
「あー、行ってないんで知らないっすね」
「いや、それは知ってるけど!」
「……?」
「その、“行けなかった悔しさ”とかないのかなって思って」
「……いや、別に」
「……え?」
真緒と琴葉(ことは)が 目を丸くする。
「え、マジで??」
「うん」
「えー!? だって、新人くん、めちゃくちゃ推し活に全力だったじゃん!」
「それが、なんかもう“ふーん”って感じで……」
昭人は、スマホをポケットにしまった。
「今までは、イベント行けなかったら絶対後悔してたんですけど、今回は……まぁ、いいかって」
「……え、これってすごくない?」
「何が」
「新人くん、推しより猫カフェのほうが大事になってきてるってことじゃん!」
「いや、それはない」
即答したが、真緒と琴葉は ニヤニヤが止まらない。
「ふーん? じゃあさ、もし今度、推しのイベントとボスの誕生日がまた被ったら?」
「え?」
「どっち行く?」
「……」
(……え?)
昨日の自分なら、迷わず「推しのイベント」って答えていたはずだ。
でも、今は――
(……え? なんで即答できないんだ俺)
そんな昭人の様子を見て、真緒が 満面の笑み を浮かべた。
「ほら~~!! やっぱり猫カフェのほうが大事になってるじゃん!!」
「ちょっ、お前ら黙れ!!!」
4
その日の閉店後。
「……」
昭人は、キャットタワーの上でくつろぐボスを見つめた。
「なぁ、ボス」
「にゃ?」
「俺、やっぱ変わってる?」
「にゃ。(まぁな)」
「そっか……」
昭人は、ゆっくりとボスの頭を撫でる。
推し活よりも猫カフェのほうが楽しくなってきている。
そして――
最近、店長のことが やたらと気になる。
(……いやいや、これは単に店のことを気にしてるだけで)
「……」
「にゃ。(言い訳すんな)」
「うるせぇ」
ボスの視線を避けるように、昭人は立ち上がった。
「お疲れさま」
そこへ、峰子が ふと隣に立つ。
「お疲れっす」
「……」
無言で、並んでボスを眺める。
気づけば、妙に 沈黙が心地いい。
「……」
「……」
さっきまで推し活のことを考えていたはずなのに。
今はただ、隣にいる峰子のことが気になっていた。
ボスの誕生日パーティーが終わり、翌日。
飯塚昭人(いいづか あきと)は、スマホを眺めながら なんとも言えない気持ち になっていた。
(……昨日の推しのイベント、めっちゃ盛り上がってるじゃん)
SNSには、フォロワーたちが投稿した写真や動画が溢れていた。
推しキャラの声優がステージに登場し、新作グッズが発表され、ライブでは神曲が披露されたらしい。
少し前の自分なら、画面を見ながら 「行きたかった!」 と悔しがっていたはずだ。
でも、今の昭人は――
(……ふーん、って感じだな)
それなりに「よかったな」とは思うが、心が動かない。
(……俺、なんでこんなに冷静なんだ?)
ボスの誕生日パーティーが楽しかったのは間違いない。
でも、それと同じくらい、いや、それ以上に――
推し活への熱が冷めている自分に驚いていた。
2
「――新人くん、何ニヤニヤしてるの?」
「えっ?」
顔を上げると、カウンターの奥で峰子(ふじい みねこ・店長)がじっとこちらを見ていた。
「いや、ニヤニヤはしてないっすよ」
「ふーん?」
峰子はコーヒーを飲みながら、じっと昭人を見つめる。
「……なんか、最近ちょっと変わったわね」
「は?」
「最初は“推し活のためにバイトしてる”って感じだったのに、今は普通に馴染んでる」
「……そりゃ、まぁ、慣れてきたんで」
「それだけ?」
「……」
峰子の鋭い視線に、昭人は 少しムズムズした。
(なんだろ、この感じ……)
店長に見られてるだけで、なんか落ち着かない。
(いやいや、何意識してんだ俺)
「……それより、店長こそ、なんで俺のことそんなに見てるんですか?」
「別に?」
「いや、めっちゃ見てましたよね」
「見てないわよ」
「絶対見てた」
「……気のせい」
峰子はそっぽを向いて、コーヒーを飲んだ。
でも、その 耳が少し赤い ような気がして――
(え、気のせい?)
昭人は、自分でもよくわからない違和感を覚えた。
3
「ねぇねぇ、新人くん!」
休憩時間、橘真緒(たちばな まお)が ニヤニヤしながら 話しかけてきた。
「昨日の推しのイベント、どうだったの?」
「あー、行ってないんで知らないっすね」
「いや、それは知ってるけど!」
「……?」
「その、“行けなかった悔しさ”とかないのかなって思って」
「……いや、別に」
「……え?」
真緒と琴葉(ことは)が 目を丸くする。
「え、マジで??」
「うん」
「えー!? だって、新人くん、めちゃくちゃ推し活に全力だったじゃん!」
「それが、なんかもう“ふーん”って感じで……」
昭人は、スマホをポケットにしまった。
「今までは、イベント行けなかったら絶対後悔してたんですけど、今回は……まぁ、いいかって」
「……え、これってすごくない?」
「何が」
「新人くん、推しより猫カフェのほうが大事になってきてるってことじゃん!」
「いや、それはない」
即答したが、真緒と琴葉は ニヤニヤが止まらない。
「ふーん? じゃあさ、もし今度、推しのイベントとボスの誕生日がまた被ったら?」
「え?」
「どっち行く?」
「……」
(……え?)
昨日の自分なら、迷わず「推しのイベント」って答えていたはずだ。
でも、今は――
(……え? なんで即答できないんだ俺)
そんな昭人の様子を見て、真緒が 満面の笑み を浮かべた。
「ほら~~!! やっぱり猫カフェのほうが大事になってるじゃん!!」
「ちょっ、お前ら黙れ!!!」
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その日の閉店後。
「……」
昭人は、キャットタワーの上でくつろぐボスを見つめた。
「なぁ、ボス」
「にゃ?」
「俺、やっぱ変わってる?」
「にゃ。(まぁな)」
「そっか……」
昭人は、ゆっくりとボスの頭を撫でる。
推し活よりも猫カフェのほうが楽しくなってきている。
そして――
最近、店長のことが やたらと気になる。
(……いやいや、これは単に店のことを気にしてるだけで)
「……」
「にゃ。(言い訳すんな)」
「うるせぇ」
ボスの視線を避けるように、昭人は立ち上がった。
「お疲れさま」
そこへ、峰子が ふと隣に立つ。
「お疲れっす」
「……」
無言で、並んでボスを眺める。
気づけば、妙に 沈黙が心地いい。
「……」
「……」
さっきまで推し活のことを考えていたはずなのに。
今はただ、隣にいる峰子のことが気になっていた。
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