ねこまど~猫と人がつなぐ、奇跡のカフェ~

naomikoryo

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20)ボスの誕生日パーティー

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1
「おはようございます」

 バイトのために店の扉を開けた瞬間、いつもと違う 華やかな雰囲気 に昭人(あきと)は戸惑った。

 カフェの壁には 「HAPPY BIRTHDAY BOSS!」 と書かれた手作りのポスターが飾られ、あちこちにカラフルなガーランドが吊るされている。

 カウンターの前には、常連客からのプレゼントらしき紙袋や箱が山積みになっていた。

(マジで誕生日パーティーやるんだ……)

「おはよー、新人くん!」

 橘真緒(たちばな まお)が、店の奥から顔を出す。

「どう? うちの店の誕生日パーティー、本気でしょ?」

「いや、思ったよりすごいですね……」

 昭人は、キャットタワーの上で どっしりと座る主役・ボス(茶トラ♂) に目を向けた。

 ボスは、いつもと変わらずクールな表情だが、少し 誇らしげに見えた。

「にゃ。(まぁ、悪くない)」

「主役のくせに、やけに落ち着いてるな」

「にゃ。(当然)」

 すると、峰子(ふじい みねこ・店長)がカウンターから声をかけてきた。

「新人くん、早速準備手伝って」

「あ、はい」

 昭人はエプロンを着けながら、ふとカレンダーに目をやった。

 ――今日は、もともと行く予定だった 推しのイベント当日 だった。

(……あれ? 俺、なんで普通にバイトしてんだ?)

2
「はい、そこの飾りもう少し上!」

「ケーキはここでいいかな?」

「ボスの王冠、ちゃんとつけてあげて!」

 店内は、開店前からスタッフ総出で準備に追われていた。

 ボスには、特別に用意された 小さな金色の王冠 が被せられ、足元にはお祝いのためのプレゼントが並んでいる。

 昭人も、テーブルの配置を変えたり、飾りを手伝ったりしながら、いつの間にか準備に没頭していた。

「よし、準備完了!」

 峰子が腕を組んで満足げに言う。

「今年もいい感じね」

「ですね。こんなに本格的な誕生日会やるとは思ってなかったです」

「ボスは、うちの“看板猫”だからね」

「にゃ。(当然)」

 ボスが 王者の風格で タワーの上に座っているのを見て、昭人は思わず笑った。

(なんだろ、この感じ……)

 いつの間にか、推しのイベントよりも、この場所にいることのほうが普通になっている ことに気づく。

(もし今日、イベントに行ってたら、俺は今どんな気分だったんだろ)

 きっと、会場の熱気に包まれて、推しを見て興奮していたはずだ。

 でも――

(……それよりも、こっちにいるほうが楽しい、かも)

 その考えに、自分で少し驚いた。

3
 開店すると、たくさんの常連客がやってきた。

「ボス、お誕生日おめでとう!」

「ほら、ボスのために焼いた特製おやつよ!」

「プレゼント持ってきたよ~!」

 店内はいつも以上に賑わい、お客さんも猫たちも楽しそうだった。

 昭人は、フードを運んだり、お客さんと話したりしながらも、なんとなく ボスのそばを離れられなかった。

(……やっぱ、ここがいいのかもな)

 ――イベントのことが、どんどん頭から薄れていく。

「新人くん、次のお客さんの案内お願い」

「あ、はい!」

 自然と動き、いつものように仕事に集中する。

 そんな昭人を、カウンターの奥で峰子が じっと見ていた。

「……ふふっ」

 峰子は、小さく微笑んだ。

4
「誕生日イベント、大成功だったね!」

 閉店後、真緒が満足そうに言った。

「ボスも満足そうだったし、みんな楽しそうだったし!」

「ほんと、すごかったね……」

 琴葉(ことは)も疲れた様子でソファに座る。

「新人くんも、最初は『え、猫の誕生日?』って顔してたのに、結局めっちゃ楽しんでたよね?」

「……まぁ、確かに楽しかったっす」

 昭人は、カフェの奥で寝ているボスを見ながら、小さく笑った。

(俺、こんなに夢中になってたんだな……)

「結局、推しのイベントのことは気にならなかった?」

 ふと、琴葉が聞いてくる。

「……ああ」

 昭人は、カレンダーを見た。

 推しのイベントは、すでに終わっている時間だ。

(……不思議と、後悔はない)

 むしろ、行かなくてよかったとすら思う。

(俺、もう前ほど“推し活”に全力じゃなくなってるのかも)

 そんなことを考えていると――

「ねぇ、新人くん」

 峰子が、不意に声をかけてきた。

「はい?」

「……今日、楽しそうだったわね」

「え?」

 峰子は、じっと昭人を見つめる。

「“ここにいるほうがいい”って思ったでしょ?」

「……」

 図星だった。

「な、なんで……」

「だって、表情見てたらわかるもの」

「……」

 昭人は、何も言えなかった。

 でも、心の中で静かに、何かが変わっていくのを感じていた。
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