ねこまど~猫と人がつなぐ、奇跡のカフェ~

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19)推し活とボスの誕生日

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1
「――で、店長」

 バイト終わりの夕方、飯塚昭人(いいづか あきと)は、峰子(ふじい みねこ・店長)に声をかけた。

「ちょっと相談があるんですけど」

「なに?」

「来週の日曜、シフト変えてもらえません?」

「は?」

 峰子が じろり と昭人を見た。

「来週の日曜って、ボスの誕生日パーティーの日 だけど?」

「え……?」

 昭人は、一瞬固まった。

「ボスの……誕生日?」

「そう。うちの店では、毎年ボスの誕生日にイベントをやってるの。常連さんもたくさん来るし、スタッフ総出で盛り上げる大事な日よ」

「マジっすか……」

 昭人は、カレンダーを思い浮かべながら 少し焦った。

(やばい……その日、俺の推しのイベントがあるんだった……!)

 推しのアニメキャラの声優が出演するスペシャルイベント。

 グッズも限定販売されるし、フォロワーとオフ会の予定もある。

(どうする……?)

「……で、なんでシフト変えたいの?」

 峰子が じっと昭人を見つめる。

「え、いや、その……」

「推し活?」

「……はい」

「はぁ……」

 峰子はため息をついた。

「まぁ、理由はどうあれ、シフトを変えられるかどうかはボス次第 ね」

「……え?」

「ボスがいいって言ったら、シフト変更OKにしてあげる。」

「いや、ボスって猫ですよね!?」

「うちの店のボスなんだから、当然でしょ」

「マジかよ……」

 昭人は、思わず キャットタワーの上でくつろぐボス(茶トラ♂) に視線を向けた。

 ボスは、半分目を閉じながら 「ん?」 という表情でこちらを見ている。

(……マジで、この猫の判断に委ねられるのか?)

2
「……なぁ、ボス」

「にゃぁ?」

「来週の日曜、俺、ちょっと休みたいんだけど」

 昭人は、恐る恐る話しかける。

「にゃ……?」

 ボスは、一度目を細めたあと――

「にゃ。(いいぞ)」

「……マジで?」

「にゃ。(別にいい)」

 あっさりOKが出た。

「おぉぉぉ!!」

 昭人は内心ガッツポーズを決めた。

「店長! ボス、いいって言いました!」

「……ほんとに?」

 峰子が じとーっ と昭人を見つめる。

「うん、ちゃんとOKって言いましたよ!」

「ふーん……」

 峰子は しばらく昭人をじっと見たあと、静かに言った。

「じゃあ、ボスになんて言われたの?」

「え?」

「そのまま翻訳してみなさい」

「えっと……『いいぞ』って……」

 言いかけて、昭人は 口を閉じた。

(……いや、ダメだ)

 なぜか、そう思った。

 ――ボスは、たしかに「いいぞ」と言った。

 でも、昭人は 「ダメだった」と言わなければならない気がした。

(なんでだろ……)

 理由はわからない。

 でも――

「……ダメだって言ってました」

 昭人は、嘘をついた。

3
「ダメ?」

 峰子が眉をひそめる。

「うん……なんか、『お前はこっちにいろ』って」

「……そう」

 峰子は、しばらく昭人をじっと見つめていたが、やがて小さく微笑んだ。

「じゃあ、シフト変更はナシね」

「……はい」

 昭人は 複雑な気持ちのまま、カウンターに戻る。

(なんで、俺……嘘ついたんだ?)

 推しのイベントに行きたかったはずだ。

 なのに、ボスがOKしたのに、なぜか「ダメだった」と言ってしまった。

(……もしかして、俺、イベントよりもこっちのほうを選んだのか?)

 そう考えた瞬間、少し 胸がざわついた。

「……」

 気づけば、ボスが 静かに昭人を見ていた。

「……にゃ。(お前、ほんとは行かなくていいんだろ?)」

「……」

 昭人は、何も答えずに ボスの頭を軽く撫でた。

4
「結局、シフト変えてもらえなかったの?」

 休憩時間、橘真緒(たちばな まお)がそう聞いてきた。

「うん、ボスにダメって言われた」

「えー、ボスってそんなこと言うんだ?」

「まぁ、そういうことになった」

 昭人は曖昧に笑う。

 すると、琴葉(ことは)が不思議そうに首を傾げた。

「でも、新人くんって、今まですごく推し活に全力だったのに……」

「……?」

「なんか最近、ちょっと違うよね?」

「違うって?」

「うーん……前なら、絶対に何が何でも休みを取ってたと思うんだけど」

「……」

 琴葉の言葉に、昭人はハッとした。

(……言われてみれば)

 前の自分だったら、何が何でも休みを取って、イベントに行っていたはずだ。

 でも、今回は 「まぁ、いっか」 と思ってしまった。

(……俺、変わったのか?)

 その変化に、昭人はまだ気づきたくなかった。
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