ねこまど~猫と人がつなぐ、奇跡のカフェ~

naomikoryo

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24)無意識の優しさ

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1
 ――最近、俺、店長に甘くないか?

 昼下がりの猫カフェ「ねこまど」。

 飯塚昭人(いいづか あきと)は、カウンターの奥で仕事をしている藤井峰子(ふじい みねこ・店長)を ぼんやりと見ながら そんなことを考えていた。

(気のせい……なのか?)

 最近、店長の様子を やたらと気にしている自分 に気づくことが増えた。

 たとえば――

 ◆ 店長が荷物を運ぼうとしていたら、先に自分が運んでしまう。
 ◆ 店長が小さくため息をつくと、「大丈夫っすか?」と聞いてしまう。
 ◆ 店長がちょっと疲れた顔をしていたら、無意識にコーヒーを淹れてしまう。

(……いや、これ、なんか変じゃね?)

 別に、店長が特別に弱ってるわけでもないし、仕事が増えたわけでもない。

 でも、気づいたら店長のことばっかり考えてる。

(やべぇな、俺)

2
「――昭人くん、ちょっと」

「え?」

 突然、名前を呼ばれ、昭人は 内心ドキッとする。

「これ、届いた荷物、ストックルームに運んでおいて」

「あ、はい」

 峰子に指示され、カウンターの奥のダンボールを持ち上げる。

 ――が、思ったより重い。

(ん? これ結構重くね?)

「店長、これ持とうとしてたんですか?」

「そうだけど?」

「いやいや、こんな重いの、無理しないでくださいよ」

「別に大丈夫――」

「ダメです」

 昭人は 即答した。

 峰子は 珍しそうな顔 をする。

「なによ、急に」

「いや、店長、前にも荷物運ぼうとして腰痛めたことありましたよね?」

「……あったけど」

「だったら、無理しないでください。俺がやりますから」

「……」

 峰子は じっと昭人を見つめる。

「……あんた、最近やたら優しくない?」

「えっ?」

「前はもっと適当だったのに」

「そんなことないですよ」

「ふーん?」

 峰子は 探るような目 で昭人を見つめる。

(え、なんか俺、めっちゃ見られてない?)

「……いや、別に」

 昭人は 目をそらしながら そそくさと荷物を運び始めた。

(ダメだ、なんか落ち着かねぇ)

3
 その後。

「――店長、お茶淹れましたよ」

「え?」

「さっき、コーヒーばっかり飲んでたから。カフェイン摂りすぎるとよくないっすよ」

「……」

 峰子は、少し驚いたような顔をした。

「……ありがとう」

 そう言って、そっと湯気の立つカップを手に取る。

 ――なんだけど。

(……俺、なんでこんなことしてんだ?)

 いつもなら、店長がコーヒーを何杯飲もうが気にしなかった。

 なのに、今日は 「飲みすぎじゃね?」 って思って、気づいたらお茶を淹れていた。

(……無意識に店長を気にしすぎてねぇか?)

 昭人は なんとも言えない感情 に襲われる。

4
「ねぇねぇ、新人くん」

 休憩時間、またもや 真緒(まお) が ニヤニヤしながら 話しかけてきた。

「……なんすか」

「最近さ~、店長にやたら優しくない?」

「……そうっすか?」

「そうだよ! さっきだって、お茶淹れてたし!」

「いや、店長、コーヒー飲みすぎだったから……」

「え、それってつまり、“気にしてる”ってことじゃん?」

「……」

「新人くん、完全に“店長にだけ”甘いよね?」

「……それは」

 言い返そうとしたが――

(……確かに、そうかも)

 他のスタッフや猫たちには普通なのに、店長には無意識に気を配っている。

(やべぇな、俺)

 昭人は ごまかすようにカフェラテを飲んだ。

5
 閉店後。

「……」

 昭人は、キャットタワーの上で寝ているボス(茶トラ♂)を見下ろした。

「なぁ、ボス」

「にゃ?」

「俺、やっぱ最近、店長に甘くないか?」

「にゃ。(そうだな)」

「……マジか」

「にゃ。(気づくの遅い)」

「……お前も真緒と同じこと言うな」

 ボスは 「やれやれ」 という顔で、ゆっくりと目を閉じる。

 ――その姿を見ながら、昭人は 無意識に峰子のことを思い出していた。

(……俺、最近マジで店長のことばっかり考えてないか?)

 荷物を持つ姿。
 疲れた顔。
 コーヒーを飲む仕草。

 全部、やたらと気になってしまう。

(……)

(……いやいや、違うよな)

 そう思いながらも、胸の奥が妙に落ち着かなかった。
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