ねこまど~猫と人がつなぐ、奇跡のカフェ~

naomikoryo

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25)無意識の記憶

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1
 昼のピークが過ぎたカフェに、ふわりと甘い香りが漂った。

「店長、これ食べます?」

 飯塚昭人(いいづか あきと)は、厨房で焼かれたばかりの カスタードたっぷりのクリームパン をカウンターに置いた。

 峰子(ふじい みねこ・店長)は、一瞬驚いたように目を丸くする。

「……なんで?」

「ん?」

「なんで、これ?」

「え、いや……店長、甘いもの好きでしょ?」

「……」

「特に、カスタード系が好き だったような……」

 そう言いながら、昭人はふと 自分の言葉に違和感を覚えた。

(え、なんで俺、こんなこと覚えてんだ?)

 峰子の好みなんて、わざわざ意識して覚えたわけじゃない。

 でも、思い返してみると――

 ◆ 店長は、休憩中にクリームパンをよく食べている。
 ◆ 差し入れでもらったシュークリームを「おいしい」と言っていた。
 ◆ でも、チョコ系のスイーツはあまり食べない。

(……俺、無意識に店長の好きなもの、覚えてたのか?)

 軽くパニックになる昭人をよそに、峰子は 無言でクリームパンを手に取った。

 そして――

「……ありがと」

 そう言って、そっと一口かじる。

(……)

 口元に少しクリームがついたのを見て、昭人は なんか妙にドキドキした。

(いやいや、なんで俺、店長がパン食ってるの見てドキドキしてんだよ!?)

 自分でも意味がわからなかった。

2
「えー、新人くん、すごいじゃん!」

 休憩時間、橘真緒(たちばな まお)が めちゃくちゃニヤニヤしながら 昭人の肩を叩く。

「え?」

「店長の好きなもの、ちゃんと覚えてるとかさ~~」

「……いや、たまたまです」

「たまたま?」

「うん」

「じゃあ、店長の好きな飲み物は?」

「カフェラテ。疲れてるときはミルク多めで」

「おお~~~!!!」

 真緒と水野琴葉(みずの ことは)が 声をそろえて拍手 する。

「え、すごいね新人くん!」

「ていうか、それもう 好きな人にするやつじゃん!」

「はぁ!?」

「いやいや、好きじゃないと、普通そんなに覚えないでしょ?」

「違うし!!!」

 昭人は 全力で否定する。

「じゃあさ、逆に真緒ちゃんの好きな食べ物って知ってる?」

「え?」

「……えーっと」

 昭人は、頭をフル回転させたが、まったく思い出せない。

「ほらね? 全然知らないでしょ?」

「……」

「店長のことは 細かい好みまで覚えてるのに、私たちのことは知らない」

「……」

「ねぇねぇ、新人くん? それってどういうこと?」

「……」

(どういうことだよ……)

 昭人は、自分でも説明できない 妙な気持ち になっていた。

3
 夕方、店内が少し落ち着いた頃。

「……」

 昭人は、カウンターの奥でコーヒーを淹れている峰子の姿を、また無意識に目で追っていた。

(俺、マジで店長のことばっか考えてねぇか?)

 最近、店長のことが気になりすぎる。

 ◆ ちょっと疲れてると「大丈夫ですか?」と聞いてしまう。
 ◆ 手が空いたら、店長の様子を無意識に確認してしまう。
 ◆ 店長が誰かと話していると、なぜかモヤモヤする。

(いやいや、違うよな……)

 必死に自分を納得させようとするが、頭の中では真緒の言葉が ぐるぐると回っていた。

「それもう好きな人にするやつじゃん!」

(……)

(……違う、よな?)

 そう思いながらも、心臓が 変なリズムを刻んでいる のを止められなかった。

4
 閉店後。

 昭人は、キャットタワーの上でくつろぐボス(茶トラ♂)を見下ろした。

「なぁ、ボス」

「にゃ?」

「俺、なんかおかしくない?」

「にゃ。(前から)」

「いやいや、そうじゃなくて……」

「にゃ。(好きなんだろ)」

「はぁ!?!?」

 昭人は 全力でツッコむ。

「いやいやいや、違うし!! 俺はただ……その……」

「にゃ。(じゃあ、なんで店長のことばっか考えてんの?)」

「……」

「にゃ。(好きだから、だろ)」

「……」

 否定できなかった。

(……マジで?)

 胸の奥が、なんかざわざわする。

 だけど、今はまだ、それを 認めたくなかった。
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