ねこまど~猫と人がつなぐ、奇跡のカフェ~

naomikoryo

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36)店長の母、襲来

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1
 昼下がりの猫カフェ「ねこまど」。

 ちょうどお客さんの入れ替えのタイミングで、一瞬静けさが訪れた店内に――

「いらっしゃいませー……」

 藤井峰子(ふじい みねこ)が、いつもの調子で顔を上げた瞬間。

 そこに立っていたのは――

「……え?」

 小綺麗なカーディガンにシンプルなパンツスタイル。
 短めのショートカットに、品のいいピアスが揺れている。

 少し年季の入ったトートバッグを肩にかけながら、にっこりと微笑んでいるその人は――

「……お母さん!?」

「こんにちは、ミネコ♪」

「えぇぇ!? なんで!?」

 まさかの母親登場に、峰子は 全身がフリーズした。

(嘘でしょ!? なんで急に!?)

 この時点で、もう嫌な予感しかしない。

2
「ちょ、ちょっと待って、なんで東京に?」

 動揺しながらも、とりあえず店の奥の席へと母親を案内し、向かい合って座る。

 母親はカップから紅茶を一口飲むと、ニコニコと笑いながら 爆弾発言 を落とした。

「それはね―― 全く男っ気のなかった娘が、ようやく“気になる人”ができたって言うから、見に来たのよ!」

「ぶっ!!??」

 峰子は、勢いよく噴きかけた紅茶をなんとか堪える。

「な、な、な……!!」

「いや~、あなた、今まで仕事一筋でしょ? だから、お父さんと『この子、ずっと独身かもねぇ』なんて心配してたのよ~」

「……余計なお世話です!!」

「なのに、先週の電話で 『気になる人はいるから大丈夫』 なんて言うから、お父さんが『よし、直接見に行ってこい』って言い出してね~♪」

「……父さん!?!?」

 なんて行動力!!

(嘘でしょ!? あの時、適当に流しただけだったのに!!)

 だが、母親は 完全に「本気の調査モード」 で来ている。

「それで、それで?」

 母親は 身を乗り出して 聞いてくる。

「どんな人なの? 年齢は? お仕事は? どんな出会いだったの?」

「え、えっと、それは……」

(どうしよう!! ここで「実はいませんでした」って言ったら、お見合い地獄が待ってる!!!)

 焦る峰子。

 そして、そんな状況を 隣のカウンターからじっと観察している2人の影。

3
「ねぇねぇ、今の話、ヤバくない?」

 橘真緒(たちばな まお) は、隣で様子を見守る 水野琴葉(みずの ことは) に耳打ちした。

「うん、やばいね。店長のお母さん、めっちゃやる気じゃん」

「てかさ……」

 真緒は 悪い顔 をして笑う。

「ねぇ琴葉。店長が言ってた“気になる人”って……」

「うん、絶対あの人だよね」

「だよね~~~!!」

 2人は ニヤリと顔を見合わせる。

(これ、もう言っちゃっていいよね?)

(言っちゃおう)

 そして――

「すみませ~ん!」

 真緒が 満面の笑顔 で、峰子と母親の席に向かう。

4
「あら? あなたたちは?」

「バイトの真緒です! こちら、琴葉ちゃん!」

「初めまして!」

「あらあら、若くて可愛い子たちねぇ♪」

「えへへ、ありがとうございます! それでですね……」

 真緒は ニヤニヤしながら 母親の隣に座り、親しげに声をひそめた。

「店長が言ってた“気になる人”、もうすぐ来ますよ!」

「えっ!?」

 母親の目が輝く。

「ちょ、ちょっと真緒!?!」

「えぇ~~!?」

 琴葉まで驚く峰子をよそに、母親は 興奮気味に両手を握る。

「まぁ! そうなの!? 私、その人に会えるのね!?」

「はい、あと数分くらいで出勤すると思います!」

「それは楽しみだわ~!」

(おいおいおいおい!!!!)

 母親の ウキウキモード が全開になっている。

「どんな人なの?」

「それは……ふふ、お楽しみに!」

「まぁ、素敵♪」

 まさかの合作に母親が完全にノッてしまった。

 そして――

 タイミングを見計らったかのように、店のドアが開いた。

5
「おはようございまーす」

 のんびりした声とともに、飯塚昭人(いいづか あきと)が出勤してきた。

 そして――

 店内全員の視線が、一斉に昭人へ向いた。

「……え?」

 場の異様な空気に、昭人は戸惑う。

「……あれ? 俺、なんかした?」

 キョロキョロと周囲を見回す昭人。

 その隣で、峰子はすでに真っ青。

「……まさか」

 昭人が ゆっくりと峰子を見た瞬間、全てを察した。

(えっ!? もしかして“気になる人”って……俺のことになってる!?)

(えええええ!?!?!?)

「まぁ!!! あなたがミネコの気になる人ね!!!」

「……」

 昭人、完全に フリーズ。

「え!? いや、ちょ、待って!? 違――」

「キャーーー! 店長、頑張ってくださいね!!」

「私たち応援してます!!」

 母親&真緒&琴葉の 大歓声。

 そして、店の奥でジッと見守る猫たち。
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