ねこまど~猫と人がつなぐ、奇跡のカフェ~

naomikoryo

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35)俺、気づいてなかっただけ?

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1
「……なんか、最近変だな」

 飯塚昭人(いいづか あきと)は、猫カフェ「ねこまど」のバックルームで、1人ぼんやりと考えていた。

(なんか、最近……店長のことばっか考えてないか?)

 ふとした瞬間に、藤井峰子(ふじい みねこ・店長)の顔が浮かぶ。

 ちょっとした仕草、視線の動き、髪をかき上げるしぐさ――

(いやいや、俺、何考えてんだ!?)

 推し活に命をかけてきた自分が、まさか リアルな人に対してこんなに意識するなんて 思ってもみなかった。

(今までは推し以外に興味なかったのに……)

 でも、思い返せば 最近やたらと店長のことが気になっている。

◆ バイトが休みの日でも、なぜか店長がどうしているか気になった。
◆ いつの間にか、店長のちょっとした変化に気づくようになった。
◆ 店長と話すとき、なぜか妙に緊張することが増えた。

(……これ、もしかして)

 昭人は ハッとする。

(俺……店長のこと、好きになってきてる?)

2
「――いやいやいや!!」

 昭人は 慌てて頭を振る。

(そんなわけないだろ!?)

 確かに、店長のことを考えることは増えた。

 でも、それは 単に職場の先輩として尊敬しているからで――

(……いや、でも俺、店長の好きなものとか、やたらと覚えてるよな?)

 カフェラテはミルク多めが好き。
 甘いものはカスタード系が好き。
 チョコ系はそこまで好んで食べない。
 疲れていると、ぼーっとしながらコーヒーを飲む癖がある。

(……やばくね?)

 こんな細かいこと、普通は意識してなきゃ覚えない。

 それに――

(店長が他の男と話してると、なぜかムカつく)

 つい最近、峰子が昔の同僚らしき男と話していたとき。

 別に何か特別なことをしていたわけでもないのに、なぜか 妙にモヤモヤしたのを思い出す。

(あのとき、俺、なんであんな気にしてたんだ?)

(……もしかして、俺、店長のこと――)

 そこまで考えて、昭人は 急に顔が熱くなるのを感じた。

「……」

 そのとき――

「にゃっ」

 足元にボス(茶トラ♂)が スリスリと寄ってきた。

「……お前、もしかして、俺の考えてることわかってる?」

「にゃ。(ようやく気づいたか)」

「……おい、マジかよ」

3
「いやいや、俺、そんなはず……」

 昭人は ボスの毛を撫でながら、まだ自分の気持ちを否定しようとする。

 すると――

「ねぇ、新人くん」

 不意に、橘真緒(たちばな まお)の 楽しそうな声 が聞こえた。

「え、なに」

「……店長のこと、最近めっちゃ気になってない?」

「!!」

(……バレてる!?)

 昭人は 一瞬で動揺する。

「い、いや、別に?」

「ほんとにぃ~?」

「……」

「ほらほら、正直に言いなよ~」

 真緒は ニヤニヤしながら昭人の肩をポンと叩く。

「ねぇ、新人くん。もし、店長が他の男と付き合うってなったら、どう思う?」

「え?」

「例えば、昨日のキャットフード業者のイケメンさんとかさ」

「……」

「ねぇ、新人くん?」

「……いや、それは、別に……」

「別に?」

「……ちょっと、ムカつくかも」

「おお~~~!!」

 真緒は 満面の笑み を浮かべる。

「ねぇ、それってさ、つまり 『店長を取られたくない』ってことじゃん?」

「……っ!!」

(……マジで?)

(俺、本当に、店長のこと――)

4
 昭人は 混乱しながらも、自分の気持ちを少しずつ整理し始めた。

 たしかに、店長が気になる。

 店長が他の男と話していると、気持ちが落ち着かない。

 店長が困っていると、なんとか助けたくなる。

 店長のちょっとした仕草が、妙に目に焼きついてしまう。

(……これ、どう考えても)

(俺、店長のこと好きなんじゃね?)

 気づいた瞬間、心臓がドクンと跳ねた。

「……マジかよ」

 思わず、呟く。

 そのとき――

「にゃ~~ん」

 店の奥から、もなか(三毛猫♀)が 「ようやく気づいた?」 というような目で見ていた。

「……お前ら、もしかして、最初から俺が気づくの待ってた?」

「にゃ。(当然)」

「……もう、マジで勘弁してくれよ」

 昭人は 大きくため息をつく。

 でも、気づいてしまったら もう誤魔化せない。

 彼は 静かに、店長のいるカウンターを見つめた。
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