悪役令嬢が攻略対象ではないオレに夢中なのだが?! 外伝:『悪役令嬢は、救われることなく』――ヴァレンシュタイン家公文書館・記録より

naomikoryo

文字の大きさ
9 / 12

第9話『罰(バッドエンド)という名の役割』

しおりを挟む
「ルーティア様って、やっぱり怖いわよね……」

「フィリア嬢のこと、ずっと睨んでたじゃない」

「取り巻きがあれこれ仕掛けてたのも、きっと命令されてたんじゃないかしら」

「王子殿下が離れたのも、そのせいなんじゃ……」

 

それらの“声”は、誰の口から発されたのかも、定かではありませんでした。

けれど、確かにそこに存在していた。

気配のように、噂のように、まるで霧が立ち込めるように。

それはゆっくりと、けれど確実に――わたくしを包み込んでいったのです。

 

否定は、しませんでした。

いいえ、できなかったのです。

 

あのとき、取り巻きたちがフィリア嬢に仕掛けた悪意を、
わたくしは止められませんでした。

むしろ、黙認したのです。

あのとき、ほんの少しでも「去ってくれれば」と思った自分がいたことを、今も忘れることができません。

 

だからこそ、誰かに誤解されても、責められても、罵られても。

それは“罰”として、わたくしが受けるべきものなのだと思いました。

 

――フィリア嬢は、わたくしを恨んでいたでしょうか?

それとも、哀れんでいたでしょうか?

 

彼女の目は、いつも澄んでいて、怯えることも、怒ることもなく。

ただ静かに、真実を見つめていたように思います。

 

わたくしが彼女の靴に霊喰いの粉が仕込まれた日、
ただ「ご迷惑をおかけしました」と頭を下げたあの姿。

王子殿下の第一舞踏に選ばれても、
誇らしげな顔をすることなく、落ち着いた態度で受け入れたあの横顔。

 

彼女は、わたくしと違って――

“戦っていなかった”のです。

 

勝とうとも、奪おうともせず。

ただ、自分の歩幅で生きている。

その姿が、わたくしには羨ましくもあり、恐ろしくもありました。

 

だからこそ、すべてが終わった後。

「ルーティア様は、悪役令嬢だ」と言われるようになったとき。

わたくしは、否定する気になれなかったのです。

 

……ええ、わたくしは“悪役”です。

彼の隣に立つことを望んだ。

あの子に嫉妬した。

何もできなかったくせに、なにひとつ守れなかったくせに。

取り巻きが行ったことの責任も取らず、ただ黙って、美しい顔だけを保とうとした。

 

そのくせ、彼の“最後の優しさ”にすがりたくて、
身を引いたことを「気遣い」だなんて、美名で飾った。

――それの、どこが“ヒロイン”なのか。

笑ってしまいますわ。

 

だったら、悪役でいい。

罰を受ける側の役割なら、喜んで担いましょう。

 

「ヴァレンシュタインの令嬢は、いずれ王子を失脚させようとした悪女だ」

「フィリア嬢を苛め抜いた、高慢な娘だ」

 

それで構わない。

誰もがわたくしを嫌って、憎んで、忘れてくれればいい。

 

“あの方の物語”に、わたくしが残る必要など、どこにもないのだから。

 

ただ一人。

ヴィルヘルム兄様だけが、その噂に眉を顰めておられました。

 

「すべてを飲み込むことが誇りだと思っているなら、ルーティア。おまえは間違っている」

「名誉というのは、真実を知る者が支えるべきものだ」

「おまえの沈黙は、美しさではない。自傷だ」

 

けれど、わたくしは首を振りました。

「違います、兄様」

「この“誤解”こそが、わたくしにふさわしいのです」

 

「彼の物語の中で、わたくしが“悪役”だったのなら、――それでよろしいのです」

 

兄様は、苦しそうに目を伏せました。

でも、何も言わなかった。

もう、言っても仕方のないことだと、気づいておられたのでしょう。

 

こうして、わたくしは“バッドエンド”へと向かうための道を選んだのです。

誰も知らない、誰も気づかないところで。

ただ静かに、誰かの“幸せ”の背景となる役割を――誇りとして。

 

わたくしが愛したのは、“王子”ではありません。

“人としての、レオン・アーデルハイト”殿下でした。

その方の望む未来が、誰かの光によって照らされるのならば。

わたくしは、影であって構わないのです。

 

……ええ。

それが、“わたくしの愛し方”でしたから。

 

──第9話・了
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

義姉をいびり倒してましたが、前世の記憶が戻ったので全力で推します

一路(いちろ)
ファンタジー
アリシアは父の再婚により義姉ができる。義姉・セリーヌは気品と美貌を兼ね備え、家族や使用人たちに愛される存在。嫉妬心と劣等感から、アリシアは義姉に冷たい態度を取り、陰口や嫌がらせを繰り返す。しかし、アリシアが前世の記憶を思い出し……推し活開始します!

転生『悪役』公爵令嬢はやり直し人生で楽隠居を目指す

RINFAM
ファンタジー
 なんの罰ゲームだ、これ!!!!  あああああ!!! 本当ならあと数年で年金ライフが送れたはずなのに!!  そのために国民年金の他に利率のいい個人年金も掛け、さらに少ない給料の中からちまちまと老後の生活費を貯めてきたと言うのに!!!!  一銭も貰えないまま人生終わるだなんて、あんまりです神様仏様あああ!!  かくなる上はこのやり直し転生人生で、前世以上に楽して暮らせる隠居生活を手に入れなければ。 年金受給前に死んでしまった『心は常に18歳』な享年62歳の初老女『成瀬裕子』はある日突然死しファンタジー世界で公爵令嬢に転生!!しかし、数年後に待っていた年金生活を夢見ていた彼女は、やり直し人生で再び若いままでの楽隠居生活を目指すことに。 4コマ漫画版もあります。

悪役令嬢に転生したけど、破滅エンドは王子たちに押し付けました

タマ マコト
ファンタジー
27歳の社畜OL・藤咲真帆は、仕事でも恋でも“都合のいい人”として生きてきた。 ある夜、交通事故に遭った瞬間、心の底から叫んだーー「もう我慢なんてしたくない!」 目を覚ますと、乙女ゲームの“悪役令嬢レティシア”に転生していた。 破滅が約束された物語の中で、彼女は決意する。 今度こそ、泣くのは私じゃない。 破滅は“彼ら”に押し付けて、私の人生を取り戻してみせる。

【完結】婚約破棄したら『悪役令嬢』から『事故物件令嬢』になりました

Mimi
ファンタジー
私エヴァンジェリンには、幼い頃に決められた婚約者がいる。 男女間の愛はなかったけれど、幼馴染みとしての情はあったのに。 卒業パーティーの2日前。 私を呼び出した婚約者の隣には 彼の『真実の愛のお相手』がいて、 私は彼からパートナーにはならない、と宣言された。 彼は私にサプライズをあげる、なんて言うけれど、それはきっと私を悪役令嬢にした婚約破棄ね。 わかりました! いつまでも夢を見たい貴方に、昨今流行りのざまぁを かまして見せましょう! そして……その結果。 何故、私が事故物件に認定されてしまうの! ※本人の恋愛的心情があまり無いので、恋愛ではなくファンタジーカテにしております。 チートな能力などは出現しません。 他サイトにて公開中 どうぞよろしくお願い致します!

悪役令嬢の矜持〜世界が望む悪役令嬢を演じればよろしいのですわね〜

白雲八鈴
ファンタジー
「貴様との婚約は破棄だ!」 はい、なんだか予想通りの婚約破棄をいただきました。ありきたりですわ。もう少し頭を使えばよろしいのに。 ですが、なんと世界の強制力とは恐ろしいものなのでしょう。 いいでしょう!世界が望むならば、悪役令嬢という者を演じて見せましょう。 さて、悪役令嬢とはどういう者なのでしょうか? *作者の目が節穴のため誤字脱字は存在します。 *n番煎じの悪役令嬢物です。軽い感じで読んでいただければと思います。 *小説家になろう様でも投稿しております。

婚約破棄された悪役令嬢の心の声が面白かったので求婚してみた

夕景あき
恋愛
人の心の声が聞こえるカイルは、孤独の闇に閉じこもっていた。唯一の救いは、心の声まで真摯で温かい異母兄、第一王子の存在だけだった。 そんなカイルが、外交(婚約者探し)という名目で三国交流会へ向かうと、目の前で隣国の第二王子による公開婚約破棄が発生する。 婚約破棄された令嬢グレースは、表情一つ変えない高潔な令嬢。しかし、カイルがその心の声を聞き取ると、思いも寄らない内容が聞こえてきたのだった。

どうやらお前、死んだらしいぞ? ~変わり者令嬢は父親に報復する~

野菜ばたけ@既刊5冊📚好評発売中!
ファンタジー
「ビクティー・シークランドは、どうやら死んでしまったらしいぞ?」 「はぁ? 殿下、アンタついに頭沸いた?」  私は思わずそう言った。  だって仕方がないじゃない、普通にビックリしたんだから。  ***  私、ビクティー・シークランドは少し変わった令嬢だ。  お世辞にも淑女然としているとは言えず、男が好む政治事に興味を持ってる。  だから父からも煙たがられているのは自覚があった。  しかしある日、殺されそうになった事で彼女は決める。  「必ず仕返ししてやろう」って。  そんな令嬢の人望と理性に支えられた大勝負をご覧あれ。

【完結】ゲーム序盤に殺されるモブに転生したのに、黒幕と契約結婚することになりました〜ここまで愛が重いのは聞いていない〜

紅城えりす☆VTuber
恋愛
激甘、重すぎる溺愛ストーリー! 主人公は推理ゲームの序盤に殺される悪徳令嬢シータに転生してしまうが――。 「黒幕の侯爵は悪徳貴族しか狙わないじゃない。つまり、清く正しく生きていれば殺されないでしょ!」  本人は全く気にしていなかった。  そのままシータは、前世知識を駆使しながら令嬢ライフをエンジョイすることを決意。  しかし、主人公を待っていたのは、シータを政略結婚の道具としか考えていない両親と暮らす地獄と呼ぶべき生活だった。  ある日シータは舞踏会にて、黒幕であるセシル侯爵と遭遇。 「一つゲームをしましょう。もし、貴方が勝てばご褒美をあげます」  さらに、その『ご褒美』とは彼と『契約結婚』をすることで――。 ┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈ もし「続きが読みたい!」「スカッとした」「面白い!」と思って頂けたエピソードがありましたら、♥コメントで反応していただけると嬉しいです。 読者様から頂いた反応は、今後の執筆活動にて参考にさせていただきます。

処理中です...