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第七話:召喚される校内放送
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その声は、呼びかけではなかった。
案内でも、命令でもない。
ただ――
数を揃えるための確認のように、校内に流れた。
異変が起きたのは、昼休みの終わりだった。
チャイムが鳴る直前、校内放送が入った。
『――次は』
そこで、一度、音が途切れた。
ノイズ。
息を吸うような間。
『……三番目』
それだけ。
すぐに、通常のチャイム音が鳴り響いた。
「……今の、なに?」
教室がざわつく。
だが、教師の誰も、放送を入れていなかった。
◆
相良朱音は、職員室でその報告を受けた。
「放送室、確認しました。
機材は正常です」
(……また、数字)
朱音の胸に、小さな違和感が積もる。
最近、学校で起きている怪異は、
どれも“数”と関係していた。
階段の段数。
足の本数。
音の拍。
(……数えられてる)
◆
その日の放課後。
生徒会室。
三杉麗子は、静かに窓の外を見ていた。
「……零子」
「はいぃ」
五寸釘零子は、いつものように机に肘をつき、
ペンをくるくると回している。
「今日の放送……
あなた、聞いた?」
零子は、動きを止めた。
「はいぃ。
あれは……」
一拍、置く。
「呼び集めてますねぇ」
「……誰を?」
零子は、窓の外――旧校舎の方角を見た。
「“ここに残ってる人”ですぅ」
◆
その夜。
校内に残っていたのは、数人の生徒と教師だけだった。
補習。
部活。
会議。
放送室のスピーカーが、再び鳴る。
『――四番目』
今度は、はっきりと。
『……そろった』
その瞬間。
廊下の照明が、すべて落ちた。
暗闇。
非常灯が、ぼんやりと床を照らす。
「……落ち着いてください」
朱音の声が、少しだけ震える。
そのとき。
スピーカーから、複数の声が重なって流れた。
『ここにいる』
『まだいる』
『忘れられてない』
まるで、
放送室そのものが、口を持ったかのようだった。
零子は、ゆっくりと立ち上がった。
「来ましたねぇ」
制服が、風もないのに揺れる。
「この学校、
人数が多すぎるんですぅ」
「……生徒数?」
「いいえ。
“数えられてる存在”の数、ですぅ」
放送室へ向かう途中。
廊下の壁に、影が増えていることに気づいた。
人の形。
だが、輪郭が曖昧。
(……呼ばれて、集まってる)
麗子は、喉が乾くのを感じた。
◆
放送室の扉は、開いていた。
中には、誰もいない。
だが、マイクだけが、勝手に立ち上がっている。
『――これで、足りる』
その声は、もはや放送ではなかった。
空気が、歪む。
影が、ひとつに重なっていく。
名前を呼ばれなかった存在。
記録されなかった存在。
途中で消えた存在。
それらが、
「全校放送」という器を使って、形を持ち始めていた。
零子が、一歩前に出る。
「……数を揃えたい気持ちは、分かりますぅ」
声は、静かだった。
「でもぉ、
それを“人の声”でやると、
世界が歪みますぅ」
零子の姿が、変わる。
白装束。
赤いハチマキ。
赤い羽衣。
放送室の蛍光灯が、赤く反射する。
麗子は、思わず呟いた。
「……やっぱり……」
(天女)
◆
零子は、マイクに手を伸ばした。
「あなたたちは、
呼ばれるために残ったんじゃない」
五寸釘が、掌に現れる。
「数にされるためでもない」
――カン。
五寸釘が、マイクの根元に打ち込まれた。
音が、止まる。
影が、ばらける。
それぞれが、
それぞれの場所へ戻っていく。
廊下の灯りが、ひとつずつ戻る。
静寂。
放送室には、もう何も残っていなかった。
◆
帰り道。
麗子は、零子に問いかけた。
「……もし、止めなかったら?」
零子は、少し考えてから答えた。
「“全員出席”になってましたぁ」
「……」
「生きてる人も、
そうじゃない人も」
◆
その夜。
旧校舎の地下で、
何かが、確かに舌打ちをした。
(……また、止められた)
(でも……)
(もう、十分集まってる)
魍魎は、
完成に近づいていた。
(続く)
案内でも、命令でもない。
ただ――
数を揃えるための確認のように、校内に流れた。
異変が起きたのは、昼休みの終わりだった。
チャイムが鳴る直前、校内放送が入った。
『――次は』
そこで、一度、音が途切れた。
ノイズ。
息を吸うような間。
『……三番目』
それだけ。
すぐに、通常のチャイム音が鳴り響いた。
「……今の、なに?」
教室がざわつく。
だが、教師の誰も、放送を入れていなかった。
◆
相良朱音は、職員室でその報告を受けた。
「放送室、確認しました。
機材は正常です」
(……また、数字)
朱音の胸に、小さな違和感が積もる。
最近、学校で起きている怪異は、
どれも“数”と関係していた。
階段の段数。
足の本数。
音の拍。
(……数えられてる)
◆
その日の放課後。
生徒会室。
三杉麗子は、静かに窓の外を見ていた。
「……零子」
「はいぃ」
五寸釘零子は、いつものように机に肘をつき、
ペンをくるくると回している。
「今日の放送……
あなた、聞いた?」
零子は、動きを止めた。
「はいぃ。
あれは……」
一拍、置く。
「呼び集めてますねぇ」
「……誰を?」
零子は、窓の外――旧校舎の方角を見た。
「“ここに残ってる人”ですぅ」
◆
その夜。
校内に残っていたのは、数人の生徒と教師だけだった。
補習。
部活。
会議。
放送室のスピーカーが、再び鳴る。
『――四番目』
今度は、はっきりと。
『……そろった』
その瞬間。
廊下の照明が、すべて落ちた。
暗闇。
非常灯が、ぼんやりと床を照らす。
「……落ち着いてください」
朱音の声が、少しだけ震える。
そのとき。
スピーカーから、複数の声が重なって流れた。
『ここにいる』
『まだいる』
『忘れられてない』
まるで、
放送室そのものが、口を持ったかのようだった。
零子は、ゆっくりと立ち上がった。
「来ましたねぇ」
制服が、風もないのに揺れる。
「この学校、
人数が多すぎるんですぅ」
「……生徒数?」
「いいえ。
“数えられてる存在”の数、ですぅ」
放送室へ向かう途中。
廊下の壁に、影が増えていることに気づいた。
人の形。
だが、輪郭が曖昧。
(……呼ばれて、集まってる)
麗子は、喉が乾くのを感じた。
◆
放送室の扉は、開いていた。
中には、誰もいない。
だが、マイクだけが、勝手に立ち上がっている。
『――これで、足りる』
その声は、もはや放送ではなかった。
空気が、歪む。
影が、ひとつに重なっていく。
名前を呼ばれなかった存在。
記録されなかった存在。
途中で消えた存在。
それらが、
「全校放送」という器を使って、形を持ち始めていた。
零子が、一歩前に出る。
「……数を揃えたい気持ちは、分かりますぅ」
声は、静かだった。
「でもぉ、
それを“人の声”でやると、
世界が歪みますぅ」
零子の姿が、変わる。
白装束。
赤いハチマキ。
赤い羽衣。
放送室の蛍光灯が、赤く反射する。
麗子は、思わず呟いた。
「……やっぱり……」
(天女)
◆
零子は、マイクに手を伸ばした。
「あなたたちは、
呼ばれるために残ったんじゃない」
五寸釘が、掌に現れる。
「数にされるためでもない」
――カン。
五寸釘が、マイクの根元に打ち込まれた。
音が、止まる。
影が、ばらける。
それぞれが、
それぞれの場所へ戻っていく。
廊下の灯りが、ひとつずつ戻る。
静寂。
放送室には、もう何も残っていなかった。
◆
帰り道。
麗子は、零子に問いかけた。
「……もし、止めなかったら?」
零子は、少し考えてから答えた。
「“全員出席”になってましたぁ」
「……」
「生きてる人も、
そうじゃない人も」
◆
その夜。
旧校舎の地下で、
何かが、確かに舌打ちをした。
(……また、止められた)
(でも……)
(もう、十分集まってる)
魍魎は、
完成に近づいていた。
(続く)
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