五寸釘零子は、呪いを受け入れない2

naomikoryo

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第七話:召喚される校内放送

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 その声は、呼びかけではなかった。

 案内でも、命令でもない。

 ただ――
 数を揃えるための確認のように、校内に流れた。

 

 異変が起きたのは、昼休みの終わりだった。

 チャイムが鳴る直前、校内放送が入った。

 

『――次は』

 

 そこで、一度、音が途切れた。

 ノイズ。
 息を吸うような間。

 

『……三番目』

 

 それだけ。

 すぐに、通常のチャイム音が鳴り響いた。

 

「……今の、なに?」

 教室がざわつく。

 だが、教師の誰も、放送を入れていなかった。

 



 

 相良朱音は、職員室でその報告を受けた。

 

「放送室、確認しました。
 機材は正常です」

 

(……また、数字)

 

 朱音の胸に、小さな違和感が積もる。

 最近、学校で起きている怪異は、
 どれも“数”と関係していた。

 階段の段数。
 足の本数。
 音の拍。

 

(……数えられてる)

 



 

 その日の放課後。

 生徒会室。

 三杉麗子は、静かに窓の外を見ていた。

 

「……零子」

「はいぃ」

 

 五寸釘零子は、いつものように机に肘をつき、
 ペンをくるくると回している。

 

「今日の放送……
 あなた、聞いた?」

 

 零子は、動きを止めた。

 

「はいぃ。
 あれは……」

 

 一拍、置く。

 

「呼び集めてますねぇ」

 

「……誰を?」

 

 零子は、窓の外――旧校舎の方角を見た。

 

「“ここに残ってる人”ですぅ」

 



 

 その夜。

 校内に残っていたのは、数人の生徒と教師だけだった。

 補習。
 部活。
 会議。

 

 放送室のスピーカーが、再び鳴る。

 

『――四番目』

 

 今度は、はっきりと。

 

『……そろった』

 

 

 その瞬間。

 廊下の照明が、すべて落ちた。

 

 暗闇。

 非常灯が、ぼんやりと床を照らす。

 

「……落ち着いてください」

 朱音の声が、少しだけ震える。

 

 そのとき。

 スピーカーから、複数の声が重なって流れた。

 

『ここにいる』
『まだいる』
『忘れられてない』

 

 まるで、
 放送室そのものが、口を持ったかのようだった。

 

 零子は、ゆっくりと立ち上がった。

 

「来ましたねぇ」

 

 制服が、風もないのに揺れる。

 

「この学校、
 人数が多すぎるんですぅ」

 

「……生徒数?」

 

「いいえ。
 “数えられてる存在”の数、ですぅ」

 

 放送室へ向かう途中。

 廊下の壁に、影が増えていることに気づいた。

 人の形。
 だが、輪郭が曖昧。

 

(……呼ばれて、集まってる)

 

 麗子は、喉が乾くのを感じた。

 



 

 放送室の扉は、開いていた。

 

 中には、誰もいない。

 だが、マイクだけが、勝手に立ち上がっている。

 

『――これで、足りる』

 

 その声は、もはや放送ではなかった。

 

 空気が、歪む。

 影が、ひとつに重なっていく。

 

 名前を呼ばれなかった存在。
 記録されなかった存在。
 途中で消えた存在。

 

 それらが、
 「全校放送」という器を使って、形を持ち始めていた。

 

 零子が、一歩前に出る。

 

「……数を揃えたい気持ちは、分かりますぅ」

 

 声は、静かだった。

 

「でもぉ、
 それを“人の声”でやると、
 世界が歪みますぅ」

 

 零子の姿が、変わる。

 

 白装束。
 赤いハチマキ。
 赤い羽衣。

 

 放送室の蛍光灯が、赤く反射する。

 

 麗子は、思わず呟いた。

 

「……やっぱり……」

 

(天女)

 



 

 零子は、マイクに手を伸ばした。

 

「あなたたちは、
 呼ばれるために残ったんじゃない」

 

 五寸釘が、掌に現れる。

 

「数にされるためでもない」

 

 ――カン。

 

 五寸釘が、マイクの根元に打ち込まれた。

 

 音が、止まる。

 

 影が、ばらける。

 それぞれが、
 それぞれの場所へ戻っていく。

 

 廊下の灯りが、ひとつずつ戻る。

 

 静寂。

 

 放送室には、もう何も残っていなかった。

 



 

 帰り道。

 麗子は、零子に問いかけた。

 

「……もし、止めなかったら?」

 

 零子は、少し考えてから答えた。

 

「“全員出席”になってましたぁ」

 

「……」

 

「生きてる人も、
 そうじゃない人も」

 



 

 その夜。

 旧校舎の地下で、
 何かが、確かに舌打ちをした。

 

(……また、止められた)

(でも……)

(もう、十分集まってる)

 

 魍魎は、
 完成に近づいていた。

 

 

(続く)
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