五寸釘零子は、呪いを受け入れない2

naomikoryo

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番外編⑥:事件が終わったあと

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 事件が終わった翌朝。
 

 学校は、
 驚くほど、
 いつも通りだった。

 チャイムは鳴り。
 生徒は走り。
 教師は注意をする。

 旧校舎の前を通っても、
 誰も、
 足を止めない。
 

(……あれ)

(こんなに、
 早かったですかぁ)

 五寸釘零子は、
 校舎の影から、
 旧校舎を見ていた。

 昨日まで、
 確かに、
 そこにあった重さ。

 視線。
 囁き。
 溜まり続けた気配。

 それらは、
 今は、
 もうない。
 

(……ちゃんと、
 流れましたねぇ)
 

 廊下では、
 生徒たちが話している。


「……なんか、
 最近、
 静かじゃない?」
 

「分かる。
 夜も、
 よく眠れた」


 理由を、
 誰も、
 探さない。


 それが、
 正しい。
 


 

 生徒会室。
 

 三杉麗子は、
 いつもより早く、
 来ていた。


 ドアが開く。
 

「……おはようございますぅ」
 

 零子の声は、
 いつもと同じ。
 

 だが、
 麗子には分かった。
 

「……終わった?」


「……はいぃ」
 

 それだけ。



 

 二人は、
 並んで座る。


「……ねえ」
 

 麗子が、
 少しだけ、
 声を落とす。
 

「覚えてる?」
 

「最初のころ」


「……はいぃ」
 

「噂ばっかりで、
 何が本当か、
 分からなかった」


「……今も、
 分からないですぅ」
 

 零子は、
 困ったように、
 笑った。
 

「……それで、
 いいです」
 

 その言葉に、
 麗子は、
 少しだけ、
 胸が締めつけられる。
 

(……残らないんだ)
 


 

 零子は、
 この学校に、
 何かを残さない。



 功績も。
 噂も。
 伝説も。
 

 ただ、
 元に戻すだけ。

 

「……今日、
 転校手続き、
 終わる?」


「……はいぃ」


 やっぱり、
 そうだ。
 

「……あっさり、
 してるね」
 

「……そうしないと、
 いけませんからぁ」
 

「……どうして?」
 

 零子は、
 少し考えてから、
 答えた。



 

「残ると、
 また、
 集まります」
 

 その言葉の意味を、
 麗子は、
 理解してしまった。


「それに………」


 一呼吸おいて、
「わたし、高校生じゃないですし…」


「え…?」
 



 
 放課後。
 

 零子は、
 中庭のベンチに座っていた。
 

 あの日と、
 同じ場所。
 

 風は、
 吹かない。


(……今日は、
 普通ですねぇ)


 遠くで、
 生徒たちの笑い声。


 誰も、
 零子を見ていない。
 

 それでいい。



 

 校門の前。
 

 相良朱音が、
 待っていた。
 

「……ありがとう」
 

 それだけを、
 はっきり言う。
 

「……どういたしましてぇ」
 

 説明は、
 しない。
 

 報告書にも、
 書かれない。
 

「……生徒たちは」
 

「……大丈夫ですぅ」


「また、
 同じことが?」
 

「……同じには、
 なりません」
 

「同じようなことは、
 起きますけどぉ」


 朱音は、
 苦笑した。


「……そしたら、
 また呼んでいい?」

 

「……はいぃ」
 

「でも……」
 

「その前に、
 止めてください」



 

 校門を出る。
 

 零子は、
 振り返らない。
 

 その背中を、
 麗子は、
 ずっと見ていた。
 

(……天女)
 

(……でも、
 人なんだ)



 

 翌週。
 

 旧校舎は、
 取り壊しの準備に入った。
 

 理由は、
 老朽化。
 

 それでいい。

 

 

 Wれい子ファンクラブは、
 自然消滅した。
 

 話題が、
 なくなったから。
 

 誰も、
 困らない。


 ただ。
 

 生徒会室の机に、
 一つだけ、
 空席が残った。

 

 麗子は、
 そこを見るたび、
 思い出す。


(……呪いは、
 解かれた)
 

(でも、
 忘れたわけじゃない)



 

 事件が終わったあと。

 世界は、
 ちゃんと、
 元に戻った。

 それが、
 五寸釘零子の仕事だった。
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