氷の上司に、好きがバレたら終わりや

naomikoryo

文字の大きさ
17 / 42

第17話「好きやって言うてもええかな」

しおりを挟む
金曜日の夜、手をつないだまま歩いた帰り道。
本庄の手の温度は、確かに冷たかったけど――それでも、ほんの少しあったかかった。

それだけで、舞子の心は、しばらくぽかぽかし続けていた。

(あの人、ちゃんと一歩踏み出そうとしてくれてるんや)

でも、それと同時に――
あの手が、“いつでも引けるような軽さ”で触れていたことも、舞子は気づいていた。

(うちが、しっかりつないでへんかったら、たぶん……また離れてまうんやろな)

だからこそ、ちゃんともう一度、伝えなあかん。

“うちは、あなたが好きです”って。

心の中だけで繰り返してるうちは、何も変わらん。

本庄さんは、自分の気持ちに**“許可”を出せないでいる人や**。

なら、うちが言うたる。何度でも。
「好きや」って、言うたる。

 

土曜の午後。
少し春の気配を感じる晴れた日。
本庄から届いたメッセージは短かった。

「明日、会社で少しだけ作業があります。よければ手伝ってもらえませんか?」

それは、ほんのちょっとした口実やと舞子は思った。
でも、ちゃんと“会いたい”って気持ちが伝わってきた。

そして、その場を作ってくれたことが、うれしかった。

(うちも、ちゃんと向き合わなあかんな)

  

日曜の午後。
オフィスの会議室には、資料とコーヒーの香りと、やわらかな静けさが流れていた。

ふたりで黙々と資料の校正をしていると、不意に舞子が口を開いた。

「……なんか、こうして並んでるの、ちょっと不思議ですね」

「そうですか?」

「会社でこうしてるのに、“仕事だけの関係”ちゃう感じがして。
……うれしいです」

本庄は手を止めて、少しだけ舞子に視線を向けた。

「僕も……そう感じています」

(いまだ。今、言わな)

舞子はペンを置いて、正面から彼に向き合った。

「本庄さん。うち、もう一度ちゃんと伝えたいことがあります」

「……」

「うち、やっぱり……本庄さんのことが、好きです。
前に言うたときは、“あかんかもしれん”って思いながらやったけど、
今は、“それでも言いたい”って、思ってます」

本庄は目を伏せた。
けど、逃げるような感じじゃなくて――受け止めようとする間のようやった。

「……ありがとう、宮本さん」

その言葉のあと、彼は少しだけ苦笑したような、でもどこか“弱さ”のにじむ表情を見せた。

「僕はずっと、“誰かを好きになってはいけない”と思っていました。
でも、今はそれが“臆病な自分の言い訳”だったんじゃないかって、思うようになってきました」

舞子の胸がぎゅっと締めつけられる。

「じゃあ、今は……もう、言い訳しなくていいですよ。
怖くても、うちは逃げへんし、ちゃんと隣にいますから」

「……」

本庄はしばらく何かを噛みしめるように黙ってから、静かに言った。

「君のその言葉が、今の僕には、いちばん強い薬です」

「……ええ言葉出すなぁ、ほんま」

ふたりの間に、静かな笑いがこぼれた。

そして、ほんの数秒の沈黙ののち――
本庄が、ゆっくりと手を伸ばして、舞子の手の甲に触れた。

指先だけ、そっと重なる。

「好きです、宮本さん」

「……!」

「あなたが僕を選んでくれるなら、僕も――あなたを選びたいと思っています」

その言葉に、舞子の胸がじわじわと熱を帯びていく。

(ああ……いま、ほんまに“好き”が届いたんや)

さっきまで、ふわふわしてた“手をつないだ関係”が、
ようやく、しっかり地面に足をつけた。

ちゃんと、お互いの目を見て、「好き」と言い合えた。

こんな幸せ、ほんまにあってええんやろか。

でも、そう思えるくらい――うれしくて、うれしくて、涙がにじみそうやった。

 

その夜。
帰り道、本庄が小さく言った。

「……こんなふうに“想いを返す”のは、久しぶりすぎて、まだ不安です」

「じゃあ、うちが毎日言いますわ。“好き”って。
本庄さんの不安、うちの“好き”で毎日ちょっとずつ薄めてったる」

「……ずるいですね、君は」

「でしょ」

舞子は笑った。

本庄も、ほんの少しだけ――声を立てて笑った。

夜風がやさしく吹いて、ふたりの肩にそっと触れていった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

妖狐の嫁入り

山田あとり
恋愛
「――おまえを祓うなどできない。あきらめて、俺と生きてくれ」 稲荷神社の娘・遥香(はるか)は、妖狐の血をひくために狐憑きとさげすまれ、ひっそり生きてきた。 ある日、村八分となっている遥香を探して来たのは怨霊や魔物を祓う軍人・彰良(あきら)。 彼は陰陽師の名門・芳川家の男だった。 帝国陸軍で共に任務にあたることになった二人だったが、実は彰良にもある秘密が――。 自己評価は低いが芯に強さを秘める女が、理解者を得て才能を開花させる!   & 苦しみを抱え屈折した男が、真っ直ぐな優しさに触れ愛を知る! 明治中期風の横浜と帝都を駆ける、あやかし異能ロマンス譚です。 可愛い妖怪・豆腐小僧も戦うよ! ※この作品は、カクヨム・小説家になろうにも掲載しています

【完結】育てた後輩を送り出したらハイスペになって戻ってきました

藤浪保
恋愛
大手IT会社に勤める早苗は会社の歓迎会でかつての後輩の桜木と再会した。酔っ払った桜木を家に送った早苗は押し倒され、キスに翻弄されてそのまま関係を持ってしまう。 次の朝目覚めた早苗は前夜の記憶をなくし、関係を持った事しか覚えていなかった。

時間を止めて ~忘れられない元カレは完璧な容姿と天性の才能を持つ世界一残酷な人でした 【完結】

remo
恋愛
どんなに好きになっても、彼は絶対に私を愛さない。 佐倉ここ。 玩具メーカーで働く24歳のOL。 鬼上司・高野雅(がく)に叱責されながら仕事に奔走する中、忘れられない元カレ・常盤千晃(ちあき)に再会。 完璧な容姿と天性の才能を持つ世界一残酷な彼には、悲しい秘密があった。 【完結】ありがとうございました‼

腹黒外科医に唆された件~恋人(仮)のはずが迫られています~

有木珠乃
恋愛
両親を亡くし、二人だけの姉妹になった一ノ瀬栞と琴美。 ある日、栞は轢き逃げ事故に遭い、姉の琴美が務める病院に入院することになる。 そこで初めて知る、琴美の婚約者の存在。 彼らの逢引きを確保するために利用される栞と外科医の岡。 「二人で自由にならないか?」を囁かれて……。

その卵焼き俺にも食わせろ!―ワンナイトラブから逃げたはずなのに、契約で縛られてました!?―

鷹槻れん
恋愛
新沼 晴永(にいぬま はるなが/36)は俺様上司として恐れられる鬼課長。 そんな彼に毎日のように振り回されるのが、犬猿の仲(だと彼女が勝手に思っている)部下の小笹 瑠璃香(こざさ るりか/28)だ。 飲み会の夜、酔ってふにゃふにゃになった瑠璃香を晴永がまんまと持ち帰り――翌朝待っていたのはワンナイトの証拠と契約結婚の書類!? 晴永には逃げようとする瑠璃香を逃がすつもりはないらしい!? 笑いと誤解と契約の、ドタバタラブコメディ! ○表紙絵は市瀬雪さんに依頼しました♥(作品シェア以外での無断転載など固くお断りします)

花も実も

白井はやて
恋愛
町で道場を営む武家の三男朝陽には最近、会うと心が暖かくなり癒される女性がいる。 跡取り問題で自宅に滞在したくない彼は癒しの彼女に会いたくて、彼女が家族と営む団子屋へ彼は足しげく熱心に通っているのだが、男と接客している様子を見ると謎の苛立ちを抱えていた。

出逢いがしらに恋をして 〜一目惚れした超イケメンが今日から上司になりました〜

泉南佳那
恋愛
高橋ひよりは25歳の会社員。 ある朝、遅刻寸前で乗った会社のエレベーターで見知らぬ男性とふたりになる。 モデルと見まごうほど超美形のその人は、その日、本社から移動してきた ひよりの上司だった。 彼、宮沢ジュリアーノは29歳。日伊ハーフの気鋭のプロジェクト・マネージャー。 彼に一目惚れしたひよりだが、彼には本社重役の娘で会社で一番の美人、鈴木亜矢美の花婿候補との噂が……

君と暮らす事になる365日

家具付
恋愛
いつでもぎりぎりまで疲れている主人公、環依里(たまき より)は、自宅である築28年のアパートの扉の前に立っている、驚くべきスタイルの良さのイケメンを発見する。このイケメンには見覚えがあった。 何故ならば、大学卒業後音信不通になった、無駄に料理がうまい、変人の幼馴染だったのだから。 しかし環依里は、ヤツの職業を知っていた。 ヤツはメディアにすら顔を出すほどの、世間に知られた天才料理人だったのだ! 取扱説明書が必要な変人(世間では天才料理人!?)×どこにでもいる一般人OL(通訳)の、ボケとツッコミがぶつかりあうラブコメディ!(予定)

処理中です...