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第20話(最終話)「恋の終わりと、はじまりと」
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東京、初夏。
舞子は出勤前のカフェで、スマホを見つめていた。
そこには、今朝届いた一通のメッセージが表示されている。
From: Honjo
「帰国が正式に決まりました。週末、お会いできませんか?」
(……半年ぶり、か)
本庄さんがロンドンに赴任してから、半年が経った。
連絡は定期的にとっていた。
毎週のように“元気にしてますか”とか、“東京は暑くなってきた?”とか、
たわいない言葉を、まるで手紙みたいに送り合った。
でも、“恋人”って呼ぶには、なんとなくまだ遠くて。
“まだ始まってない関係”を、お互い大事に抱えて過ごしてきた。
それでも、ひとつだけ確かなことがある。
(あの人のこと、やっぱりうち……好きやな)
日曜、午後2時。
舞子は約束の場所――代々木公園の、あの日と同じベンチに座っていた。
風が新緑の木々を揺らしている。
空は高くて、どこか遠く、けれど不思議と心が落ち着く日やった。
そして。
「……待たせて、すみません」
あの声が、背中から聞こえた。
「いえ。……ようこそ、おかえりなさい」
振り返ると、そこには変わらないスーツ姿の本庄さんがいた。
けど、ほんの少しだけ――笑顔が柔らかくなっていた。
「東京、やっぱり湿度が違いますね」
「それ、第一声がそれですか。もうちょい“会いたかった”とかあるんちゃいます?」
「……会いたかったです」
「……」
「すごく」
(うわぁぁぁぁ……)
半笑いになりながら、舞子はごまかすように肩をすくめた。
「こっちこそ。……ずっと、会いたかったです」
ふたりでしばらく、並んで座っていた。
風の音と、子どもたちの笑い声と、すれ違う犬の鳴き声。
その全部が、ちょっとやさしく聞こえる。
「……どうでしたか? ロンドン生活」
「慣れるまでは大変でした。街の雰囲気も、人の距離感も全然違って。
でも、あそこに行って、本当によかったと思っています」
「それは……よかったです」
「一番よかったのは、“君のいない場所で、自分を試せたこと”です」
「……!」
「そして、気づいたんです。“君のいない時間は、完成じゃない”って」
舞子の心臓が、大きく跳ねた。
(あかん、これはあかん……泣くやつや)
「……向こうにいる間、ずっと考えてました。
“戻ったとき、君にどう向き合えばいいのか”って。
もう一度、ちゃんと始めるためには、僕の方から――言わないといけないと思ってました」
そして、彼はゆっくりと立ち上がり、舞子の前に正面から立った。
「……宮本舞子さん」
「……はい」
「もし、まだ間に合うなら。
もう一度――あなたの隣に立たせてください。
今度は、怖がらずに、あなたを大切にする覚悟を持って」
舞子は立ち上がり、にっこりと笑った。
「はい。……何回でも、始めましょう」
「……ありがとう」
「本庄さん。うちは、待ってたんやないんです。
“あなたと一緒に未来を作りたかった”んです。
それは、今も、これからもずっと変わりません」
本庄は、ほんの少し肩の力を抜いて、
今までで一番、やさしい笑顔を見せた。
そして、そっと舞子の手を取り、指をからめる。
この手は、もう離さん。
それからのふたりは、“静かに始まる恋人”として、歩き出した。
会社では相変わらずの“冷たい上司”だけど、
その仮面は、舞子の前では少しずつ砕けていった。
ふたりで歩く東京の夜景も、
カフェで交わす何気ない会話も、
家で見る録画のバラエティ番組も。
全部が、ちょっとだけ特別で、
そして、どこまでも日常やった。
エピローグ
ある日。
舞子のスマホに、ふとしたメッセージが届く。
本庄:
「“バレたら終わり”って言ってた君が、一番最初にバラしてくれたね」
舞子:
「せやで。“好き”って、隠されへんのよ」
本庄:
「僕も、もう隠さないつもりです」
舞子:
「おそっ。ええけどな。
これからは、一緒にバレてこな?」
ふたりの恋は、誰にもバレへんうちに始まって、
いつの間にか、誰に見られてもええもんになっていた。
そしてこれからは――
恋の“はじまり”から、“つづき”をふたりで紡いでいく。
*完*
舞子は出勤前のカフェで、スマホを見つめていた。
そこには、今朝届いた一通のメッセージが表示されている。
From: Honjo
「帰国が正式に決まりました。週末、お会いできませんか?」
(……半年ぶり、か)
本庄さんがロンドンに赴任してから、半年が経った。
連絡は定期的にとっていた。
毎週のように“元気にしてますか”とか、“東京は暑くなってきた?”とか、
たわいない言葉を、まるで手紙みたいに送り合った。
でも、“恋人”って呼ぶには、なんとなくまだ遠くて。
“まだ始まってない関係”を、お互い大事に抱えて過ごしてきた。
それでも、ひとつだけ確かなことがある。
(あの人のこと、やっぱりうち……好きやな)
日曜、午後2時。
舞子は約束の場所――代々木公園の、あの日と同じベンチに座っていた。
風が新緑の木々を揺らしている。
空は高くて、どこか遠く、けれど不思議と心が落ち着く日やった。
そして。
「……待たせて、すみません」
あの声が、背中から聞こえた。
「いえ。……ようこそ、おかえりなさい」
振り返ると、そこには変わらないスーツ姿の本庄さんがいた。
けど、ほんの少しだけ――笑顔が柔らかくなっていた。
「東京、やっぱり湿度が違いますね」
「それ、第一声がそれですか。もうちょい“会いたかった”とかあるんちゃいます?」
「……会いたかったです」
「……」
「すごく」
(うわぁぁぁぁ……)
半笑いになりながら、舞子はごまかすように肩をすくめた。
「こっちこそ。……ずっと、会いたかったです」
ふたりでしばらく、並んで座っていた。
風の音と、子どもたちの笑い声と、すれ違う犬の鳴き声。
その全部が、ちょっとやさしく聞こえる。
「……どうでしたか? ロンドン生活」
「慣れるまでは大変でした。街の雰囲気も、人の距離感も全然違って。
でも、あそこに行って、本当によかったと思っています」
「それは……よかったです」
「一番よかったのは、“君のいない場所で、自分を試せたこと”です」
「……!」
「そして、気づいたんです。“君のいない時間は、完成じゃない”って」
舞子の心臓が、大きく跳ねた。
(あかん、これはあかん……泣くやつや)
「……向こうにいる間、ずっと考えてました。
“戻ったとき、君にどう向き合えばいいのか”って。
もう一度、ちゃんと始めるためには、僕の方から――言わないといけないと思ってました」
そして、彼はゆっくりと立ち上がり、舞子の前に正面から立った。
「……宮本舞子さん」
「……はい」
「もし、まだ間に合うなら。
もう一度――あなたの隣に立たせてください。
今度は、怖がらずに、あなたを大切にする覚悟を持って」
舞子は立ち上がり、にっこりと笑った。
「はい。……何回でも、始めましょう」
「……ありがとう」
「本庄さん。うちは、待ってたんやないんです。
“あなたと一緒に未来を作りたかった”んです。
それは、今も、これからもずっと変わりません」
本庄は、ほんの少し肩の力を抜いて、
今までで一番、やさしい笑顔を見せた。
そして、そっと舞子の手を取り、指をからめる。
この手は、もう離さん。
それからのふたりは、“静かに始まる恋人”として、歩き出した。
会社では相変わらずの“冷たい上司”だけど、
その仮面は、舞子の前では少しずつ砕けていった。
ふたりで歩く東京の夜景も、
カフェで交わす何気ない会話も、
家で見る録画のバラエティ番組も。
全部が、ちょっとだけ特別で、
そして、どこまでも日常やった。
エピローグ
ある日。
舞子のスマホに、ふとしたメッセージが届く。
本庄:
「“バレたら終わり”って言ってた君が、一番最初にバラしてくれたね」
舞子:
「せやで。“好き”って、隠されへんのよ」
本庄:
「僕も、もう隠さないつもりです」
舞子:
「おそっ。ええけどな。
これからは、一緒にバレてこな?」
ふたりの恋は、誰にもバレへんうちに始まって、
いつの間にか、誰に見られてもええもんになっていた。
そしてこれからは――
恋の“はじまり”から、“つづき”をふたりで紡いでいく。
*完*
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