氷の上司に、好きがバレたら終わりや

naomikoryo

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番外編①「バレても、終わらへんかった恋のその後」

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東京の梅雨明け。
オフィスに夏の空気が流れはじめた頃、舞子はひとり、デスクで缶コーヒーを開けた。

「ふう~……冷えたブラック、沁みるわ~」

本庄さんがロンドンから帰国して、ちょうど2ヶ月。
今では彼は“経営企画室 副室長”として、新プロジェクトの舵を握っている。

舞子は以前と変わらず営業企画部にいるが、プロジェクト支援で週に2回は本庄のチームと動くことが多い。

つまり――

公私ともに隠しようのない接近戦。

「……そろそろ“バレたら終わりや”ちゃうやろ、もう“バレてるやろ”や」

「うん、それな」

後ろから返ってきたのは、佐伯奈々の声。

「ちょっとぉ、ふたりで社食でカレー食べてたとき、あんた“辛っ!”って言うたら課長が水すっ……て渡してたの見たからな?」

「う、うそやん、そんなん完ッ全にバレバレやん」

「てか“バレてても誰も止めん”ぐらい空気ええしな。
冷血って言われてた課長が、あんたの前では普通に笑うようになったし」

舞子は頭を抱えた。

(……いやでも、嬉しいけどな)

確かに、昔の本庄さんと今の本庄さんは、似てるけど全然ちゃう。

誰に対しても冷静で無表情だった彼が、
今は少しずつ、感情を言葉や顔に出してくれるようになった。

それが、うれしい。
ほんまに、心の底から。

でも――まだ会社では「ちゃんと付き合ってる」とは誰にも言っていない。

理由はもちろん、“あの人の照れ”や。

「……社内恋愛って、公にする必要があるのでしょうか」

「あります。こっちは命かけてるんで」

「それは大げさです」

そんなやりとりを何度したことか。

でも、いい。
今の関係が、ちゃんとふたりで築いてきたもんやって、自信があるから。

 

その日の夜。
ふたりは渋谷の路地裏にある、小さなレストランにいた。

予約してくれたのは本庄さん。

「珍しいですね。こういうお店、予約してくれるの」

「……たまには、僕からちゃんと“恋人らしいこと”をしたいと思って」

舞子はニヤニヤが止まらない。

「恋人らしいこと、って。じゃあ、次は“夏祭り”とかどうです?
浴衣とか着て……うわ、想像しただけで萌えるわ」

「……少し考えます」

「ええ~~~考えんと行きましょや~~~」

会話は、いつも自然に笑いになる。
無理して笑わせてるんやなくて、気づけばお互い、笑ってしまってる。

こんな恋があるなんて――ほんまに、人生ってわからんもんやなあと思う。

 

食後、外に出ると夜風が少し涼しくて、
ふたりは自然と並んで歩いていた。

「……舞子さん」

「ん?」

「“バレたら終わりや”って、昔言ってましたよね」

「うん。言うてたな。ビビってたからなぁ」

「僕は今、むしろ“バレても、終わらせない自信がある”と思っています」

「……!」

「もし誰かに何かを言われても、
僕はあなたとの関係を隠さない。
それだけの想いを持って、あなたを選びました」

(……泣く。いや、ほんまに泣く)

舞子は黙って、本庄の腕に自分の腕を絡めた。

「ほんま、うちのこと、愛してくれてるんやなぁって思います」

「……はい。愛してます」

静かな返事やったけど、
それはたしかに、“本庄誠のすべて”が詰まったひとことやった。

 

✿ エピローグ ✿
数日後、社内掲示板にひとつの告知が掲示される。

社内報インタビュー「副室長の横顔」より一部抜粋:
「最近笑顔が増えたと噂されてますが、理由は?」
→「大切にしたい人が、近くにいるので」

舞子はそれを見て、ひとりで顔を覆った。

「バッ……バレてるやん!!」

奈々は隣で爆笑していた。

でも――うれしかった。

“バレたら終わり”やと思ってた恋は、
バレても、まっすぐ続いていく恋に変わってた。

そうやって、今日も舞子は笑っている。

そして、彼の隣に立ち続けている。
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