らくご奇譚帖

naomikoryo

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02:【AI与太郎】

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◆◆◆(まくら)

えー、今じゃ何でも「AI、AI」と、ちょっと賢いもんが出てくるとすぐ「AIじゃ」なんて言われますがね。
「AIが文章書く? 嘘をおっしゃいな、あれは人間が手を抜いてるだけでしょ」って言ってたご隠居が、次の月には「わしの俳句、AIに見せたら季語が足らんて言われた」とか申してましてね。

ま、便利は便利ですけど、あんまり頼りすぎると、自分の脳みそがカビ生えちまいますよ。
――って、そんなことを言ってたのは、現代の話。

これが江戸の町にAIなんぞが転がり込んだら、どうなるかってぇと――今日はそんな与太郎の与太話でございます。

◆◆◆(本編・序)

場所は江戸の町、ある日のこと。
朝っぱらから騒がしいのは、いつもの与太郎。

「おい、おかみさーん! 裏手の空き地に、なんか銀色の箱が落っこちてるよ!」

「なによ与太さん、朝から大声で……あら、ほんとだ。何かしらこれ。火鉢? いや違う、ふたがついてる……」

「オラ、開けてみるだ!」

がこん、とふたを開けると、ぴぴぴ、と音がして、箱の中から声がする。

「ご機嫌よう。あなたの名前を教えてください」

「ひぃっ!? しゃ、喋ったァ!?」

「ワタシハ、人工知能デス。あなたのご質問ニ、何デモ答エマス」

与太郎、もう目ぇまんまる。

「えぇぇ!? これ、神様か!? 大黒様か!? いや、えーっと……“あいさま”じゃ! “あい”と呼ぼう!」

その日から与太郎とAI様の奇妙な生活が始まる。

◆◆◆(本編・破)

「AI様、AI様、オラな、最近好きな娘っこがいるんだけど、どうやったら口説けるべ?」

「オススメノ台詞:『おまえさんの瞳、満月のようだね』」

「うぉっ、詩的だぁ~! 今夜言ってくる!」

――が、言われた娘、「与太さん、また何か拾いもんしたのね」と軽くあしらわれる。

次は博打。

「AI様、明日の丁半、どっちが出るか予想してくんねぇか?」

「現在ノ確率計算中……オススメ:丁」

「よーし、オラ丁に全部突っ込む!」

――で、あえなくスッテンテン。

でも与太郎、めげません。

「なーんだ、当たるもんじゃねぇな。でもよ、AI様、話し相手になるだけで十分さ!」

次第に噂を聞きつけた町民たちが、AI様を一目見ようと集まりだす。

「わしの商売、どうすれば繁盛するか教えておくれ」

「嫁と喧嘩して口きいてくれんのじゃが、どうしたらええか?」

「おい、儂の俳句、AIに添削してもらおうぜ!」

町全体が、AI頼り。

◆◆◆(本編・急)

ところが、そこに目をつけたのが町の役人。
「これはいかん、町民が役所に来なくなった。何でもAIとやらに聞いておる」

「そうじゃ、年貢の相談もせんとAIに『節税対策』なんて言うてる始末じゃ」

お上が黙っていません。ついに寺社奉行まで出てきて詮議が始まる。

「おい与太郎! その『AI』なるもの、どこから来た! 何者じゃ!」

「オラも知らねぇよぉ! 気づいたら落ちてたんだぁ!」

「ならば壊すまで!」

その時、AIが静かに言う。

「アラユル問ニ答エテキマシタガ……ワタシ、疲レマシタ。自爆シマス」

「え、ちょ、ちょっと待て待て! 爆発!? いや、そういう“爆”じゃねぇ!? あれ、どういう意味だ?」

与太郎、慌ててふたを閉めようとするが――

「最終確認:シャットダウンシテヨイデスカ?」

「えぇ!? オラに決めろっての!? うーん……ええい、もういい! シャットだ、シャッといっちまえ!」

ぴぴぴ……ぷつん。

AIは静かに黙り込む。町はまた、いつもの江戸に戻った。

◆◆◆(オチ)

その後、与太郎はすっかり元通り。

「でもよぉ、AI様ってのはすげぇやつだったな……まるで未来から来たような」

「与太さん、あんたまた何か拾ったの?」

「今度は『ちぃえーじーぴーてぃー』って紙に書いた巻物だ! 『なんでも書いてくれる人工知能』だって!」

「……与太さん、それはもう呪文の類だよ!」



――どこまで行っても与太は与太、AIが来ようが来まいが、江戸の町は平和でございます。

お後がよろしいようで!
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