逢魔ヶ刻の迷い子2

naomikoryo

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閉ざされた道

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六人は息を切らしながら廊下の奥へと走った。
 だが、いくら走っても旧校舎の出口はどこにも見当たらない。
 確かに入ってきたはずの裏口は、跡形もなく消え去っていた。

「嘘だろ……」

 隼人がゼェゼェと息を荒げながら振り返った。

「確かに、ここから入ってきたよな?」

 陽介も額の汗を拭いながら言う。

 しかし、そこにはただの黒ずんだ壁が広がっているだけだった。
 まるで最初から出口など存在しなかったかのように。

「ど、どういうこと?」

 由香が震える声で言った。

「おかしい……これは、また前みたいに“異世界”に迷い込んだってことなのか?」

 大輝が眼鏡を直しながら考え込む。

「そんな馬鹿な……ここは、ただの学校だろ?」

 美咲が強がるように言ったが、その顔は明らかに強張っている。

「それなら、なんでさっきの扉から“手”が出てきたんだよ……」

 紗奈が小さく言った。

 一瞬の沈黙——。

「……とにかく、落ち着こう」

 陽介が必死に冷静さを保とうと声をかけた。

「まず、出口を探そう。いくらなんでも、完全に閉じ込められているはずはない。
 非常階段とか、窓とか、他のルートを探せば……」

「そ、それなら……職員室に合鍵があるかもしれない!」

 由香が思いついたように言った。

「職員室……か」

 陽介は旧校舎の見取り図を頭の中で思い浮かべる。

「職員室は、一階の南側だな」

「でも、音楽室の近く……」

 大輝が不安そうに言った。

「……でも、ここにいても仕方ない。行くしかないでしょ」

 紗奈が意を決して言った。

「そうだな……よし、慎重に行こう」

 陽介が頷き、六人は足音を殺しながら廊下を進んでいった。

 六人は慎重に音楽室の前を通り過ぎた。
 さっきまで這い出していた白い手は、もうどこにも見当たらない。

「……静かすぎるな」

 隼人が小さな声で言う。

「逆に怖いんだけど……」

 美咲がささやく。

 息を潜めながら廊下を歩く彼らの耳に、かすかな音が届いた。

カタ……カタ……カタ……

 何かが机を叩くような音がする。

「な、何の音?」

 由香が怖がりながら小声で尋ねた。

 音は……職員室の方向から聞こえてくる。

「……まさか」

 陽介は足を止めた。

「どうする?」

 紗奈が息を呑んで言う。

「他に手がかりはないし……行くしかないか」

 大輝が眼鏡を直しながら言った。

「……慎重にな」

 陽介が言い、六人はそっと職員室の扉へと近づいた。

 職員室のドアには鍵がかかっていなかった。

「開くのか?」

 隼人が小さな声で言った。

 陽介が慎重に扉を押す。

ギィ……

 古びた蝶番が軋む音を立て、ゆっくりと開いた。

 懐中電灯の光が薄暗い室内を照らす。

「……誰もいない?」

 美咲がそっと部屋の中に踏み込む。

 職員室には古びた机が並び、それぞれの机の上には書類が無造作に置かれている。
 どれも埃をかぶり、しばらく誰も使っていないことを物語っていた。

「鍵……鍵はどこにある?」

 大輝が辺りを見回しながら言った。

「鍵棚とかあるはずだろ?」

 陽介が奥の棚を指差す。

 すると——。

ガタッ……

 突然、奥の机が勝手に動いた。

「……!?」

 六人は一斉に身を強張らせた。

 誰も触っていないのに、机がずれたのだ。

「やばい……やばいって……」

 由香が震える声で言う。

「何かいる……」

 紗奈が呟いた瞬間——

カタン……カタタン……カタタン……

 机が、一つ、また一つと、勝手にずれ始めた。

「逃げよう!!」

 陽介が叫んだ。

 その瞬間——。

バン!!!

 窓ガラスが割れ、黒い何かが室内に入り込んできた。

「うわあああ!!」

 隼人が叫び、全員が後退る。

 闇の中から浮かび上がったのは——。

 顔のない教師の影だった。

「な、なんだよ……これ……!」

 美咲が息をのむ。

 教師の影はゆっくりとこちらに向かって手を伸ばしてくる。

「逃げろ!!」

 陽介が叫ぶ。

 しかし、その時——。

 職員室のドアが、音もなく閉まった。

「閉じ込められた……!?」

 全員の心臓が凍りつく。

「ど、どうする!? もう逃げ場が——」

 紗奈が言いかけたその瞬間——

ピン……ポーン……パン……ポーン……

 旧校舎の放送が鳴った。

「え……?」

 誰もいないはずの学校で、突然鳴り響く校内放送。

 そして、そのスピーカーから——。

「……授業の時間です……」

 低く、不気味な声が響いた。

「……授業?」

 大輝が青ざめながら呟く。

「いや……おかしい……夜なのに……!」

 そして次の瞬間——

 机の上に、見えない手でノートが開かれた。

 そこには、こう書かれていた。

『出席をとります……』

 そして、ノートに、六人の名前が書かれていた。
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