逢魔ヶ刻の迷い子2

naomikoryo

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深夜の出席確認

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ピン……ポーン……パン……ポーン……

　静まり返った旧校舎に、不気味な校内放送が鳴り響いた。

「……授業の時間です……」

　機械的なはずのアナウンスには、どこか冷たく湿った感情が滲んでいた。

「……ありえない……夜なのに？」

　大輝が眼鏡を押し上げながら、震えた声で言う。

「こんなの、あり得ないって……」

　由香は涙ぐみながら紗奈の腕を掴んでいる。

　そして、目の前の机の上——
　そこには、誰も触っていないはずのノートが開かれ、黒々としたインクで六人の名前が書かれていた。

「……これって、出席簿？」

　陽介が息を飲んだ。

「マジかよ……！」

　隼人がノートを見つめたまま、一歩後ずさる。

　ノートにはこう書かれていた。

『出席をとります……』

　１. 佐藤陽介　◯
　２. 高橋大輝　◯
　３. 藤田隼人　◯
　４. 水野美咲　◯
　５. 田村由香　◯
　６. 山本紗奈　◯

「◯がついてる……？」

　美咲が囁くように言った。

「全員……出席になってる？」

　その瞬間——。

ギィィ……バタン！！

　職員室の扉が勢いよく閉まった。

　六人は驚き、反射的に扉に駆け寄ったが——開かない。

「閉じ込められた……？」

　隼人が扉を乱暴に叩く。しかし、どれだけ押しても、蹴っても、扉はビクともしない。

　その時。

キィィ……

　椅子が一つ、音を立てて動いた。

「……？」

　全員が固唾を飲んでその椅子を見つめる。

　そして——。

　椅子が、誰もいないはずの黒板の前へと勝手に移動していった。

「な……なんだよこれ……！」

　紗奈が息を呑む。

　椅子は黒板の真ん前に止まり、やがて、そこにあるチョークがひとりでに持ち上がった。

カリ……カリ……カリ……

　誰もいないはずの空間で、黒板にチョークが走る音が響く。

　チョークの軌跡が浮かび上がると、そこにはこう書かれていた。

『１時間目：国語』

『先生が来るまで、静かに待ちましょう』

「……先生？」

　陽介が呟いた。

「嘘だろ……先生なんか来るわけ……」

　隼人が言いかけた、その瞬間。

カン……カン……カン……

　廊下の奥から、革靴が床を叩く音が響いた。

　規則的で、まるで授業の時間に教師が教室へ向かうような足音。

「来る……来るぞ……！！」

　大輝が青ざめた顔で言った。

　六人は全員、扉の前に張り付くように後退る。

　足音は近づいてくる。

　カン……カン……カン……

　職員室のすぐ外で、ピタリと止まった。

「……っ！！」

　息を潜めた瞬間——。

コン、コン……

　ノックの音が響いた。

　この扉の向こうに、何かがいる。

「やめろ……やめろ……」

　隼人が震える声で呟く。

コン、コン……コン、コン……

　先ほどより強いノック音。

　誰かが入ってこようとしている——。

バタン！！

　扉が勢いよく開いた。

「うわああ！！！」

　由香が悲鳴を上げる。

　そこに立っていたのは——。

　黒い影の教師だった。

　顔がない。輪郭だけがぼんやりと揺らめく影の教師が、ゆっくりと職員室に入ってきた。

　右手には、古びた出席簿を持っている。

パラ……パラ……

　ページをめくる音が響く。

「……出席確認をします……」

　冷たく乾いた声がした。

　その瞬間——。

ノートに新たな名前が書き加えられた。

『７. ？？？？？？　◯』

「な……何これ……？」

　大輝が青ざめた顔でノートを見つめる。

「七人目……？」

　美咲が呟いた。

　七人目の名前は、文字化けしたようにぐにゃぐにゃと歪んでおり、まるで読めない。

「……七人目の生徒がいるのか……？」

　陽介が震える声で言った。

　その瞬間——。

「今日の授業を始めます……」

　影の教師が、黒板へ向かい、チョークを持った。

カリ……カリ……

　黒板に、ゆっくりと文字を書き始める。

『教科書の〇〇ページを開きなさい』

「ダメだ……このままじゃ授業が始まる……！」

　大輝が焦ったように言った。

「授業なんか、受けられるわけない！！」

　隼人が叫ぶ。

　しかし——。

カタ……カタ……

　机が勝手に揺れ始めた。

「な、何だよこれ……！？」

　六人の前にある椅子が、まるで誰かが座るかのように、勝手に動き出した。

「やめろ……やめろ……！」

　美咲が震える声で言う。

　すると——。

　突然、全員の椅子が一斉に引かれた。

「うわっ！」

「座らせようとしてる……！」

　六人は、目に見えない力によって無理やり椅子に座らされそうになった。

　そして——。

「では、出席番号７番……返事をしてください……」

　影の教師が、教室の中に向かって呼びかけた。

　だが、そこにいるのは六人だけのはず。

「……いないよ……」

　由香が涙声で呟いた。

　その時——。

「……ハイ……」

　背後から、かすれた声が聞こえた。

　六人の背筋が凍りついた。

　この教室には、確かに“七人目”がいた。

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