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鏡の中のもう一人
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ポロロン……ポロン……
遠くで響くピアノの音を背に、六人は荒い息をつきながら廊下を駆けていた。
「なんなんだよ、マジで……!」
隼人が震える声で叫ぶ。
「ピアノが勝手に鳴るとか、ランドセルとか、訳がわからない……!」
陽介も息を切らしながら前を向く。
「でも、一つだけ分かったことがある」
「……何?」
紗奈が訊く。
「俺たちは、ここに閉じ込められてるんじゃない。何かに“試されてる”んだ。」
その言葉に、全員が息を呑んだ。
確かに、今までの怪奇現象は、ただ怖がらせるためのものではなく、まるで“何かを解決させよう”としているように感じる。
「……試されてるってことは、クリアしないと出られないってこと?」
大輝が呟く。
「かもしれない……」
陽介は歯を食いしばった。
「だったら、やるしかない」
「……まずは職員室に行こう」
美咲が言った。
「鍵を見つければ、別の出口が開くかもしれない」
六人は緊張しながら、職員室へと向かった。
職員室の前に立つと、まず目に入ったのは壁に掛けられた大きな鏡だった。
「こんなところに鏡なんかあったっけ?」
隼人が首を傾げる。
「旧校舎が閉鎖される前は、ここに鏡があったって聞いたことある」
美咲が呟く。
「先生たちが身だしなみを整えるためのものだったとか……」
大きな鏡は、天井から床近くまで伸びており、六人全員の姿をはっきりと映し出していた。
「……疲れてる顔してるなぁ」
隼人が冗談めかして鏡を覗き込む。
「ほんと、それどころじゃないよね……」
由香がため息混じりに言った、その時——。
違和感が生まれた。
鏡の中の自分たちが、わずかにズレた動きをしている。
「……?」
紗奈が目を細める。
普通、鏡は同じ動きをするはずだ。
しかし——。
「おい……なんか、おかしくないか?」
大輝が低い声で言った。
六人がじっと鏡を見つめる。
次の瞬間——。
鏡の中の“自分たち”が、勝手に動いた。
「……え?」
陽介が息をのむ。
「なんで……?」
鏡の中の自分たちは、まるで別の意志を持つかのようにゆっくりと動き出していた。
しかし、動きがズレているだけではない。
表情が違う。
「なんか、笑ってない……?」
由香が怯えたように言った。
そう——鏡の中の“六人”は、不気味なほどゆっくりと、にやりと微笑んでいた。
「嘘だろ……」
隼人が後ずさる。
そして、鏡の中の自分たちはさらに奇妙な動きをした。
全員が身動きを止めているのに、鏡の中の自分たちは、勝手に手を上げたり、首を傾けたりしていた。
「これ……俺たちじゃない……!」
美咲が叫ぶ。
カン……カン……カン……
遠くで、またあの足音が聞こえた。
影の教師の足音だ。
「くそっ……! 扉を開けて、中に入ろう!」
陽介が職員室のドアを押そうとした、その時——。
「え……?」
由香が、鏡の中の自分をじっと見つめていた。
鏡の中の“由香”だけが、ほかの誰よりも違う動きをしていた。
ほかの五人が立ちすくむ中で、鏡の中の由香はゆっくりとこちらに手を伸ばしていた。
まるで、こちら側へ引き寄せるように——。
「由香!! 離れて!!」
美咲が叫ぶ。
だが——。
ズルッ!!
突然、由香の身体が鏡の中に吸い込まれた。
「いやああああ!!!」
由香が悲鳴を上げる。
「由香!!!」
紗奈が手を伸ばしたが、間に合わなかった。
由香の姿は、鏡の中に消えた。
「由香!? どこに行ったんだよ!!」
隼人が鏡を叩く。
しかし、鏡はただ彼らを映し返すだけで、由香の姿はどこにもない。
「どうしよう……どうすれば……」
美咲が涙ぐみながら鏡に手を触れた、その瞬間——。
ポツン……
鏡の中に、水滴が落ちた。
「……?」
鏡の中に、新しい光景が映し出されていた。
そこは、職員室ではない。
暗い、見たことのない場所。
そして、その中央に——。
由香が立っていた。
「由香!!」
陽介が叫ぶ。
しかし——。
鏡の中の由香は、こちらを見ていなかった。
まるで何かを見つめているかのように、ゆっくりと後ろを振り向いた。
その先には——。
無数の“誰か”の影が立っていた。
「……っ!!」
全員の背筋が凍る。
影たちは、由香の背後からじっと見つめている。
そして——。
由香が、ゆっくりと振り返った。
しかし、その顔には——。
何もなかった。
遠くで響くピアノの音を背に、六人は荒い息をつきながら廊下を駆けていた。
「なんなんだよ、マジで……!」
隼人が震える声で叫ぶ。
「ピアノが勝手に鳴るとか、ランドセルとか、訳がわからない……!」
陽介も息を切らしながら前を向く。
「でも、一つだけ分かったことがある」
「……何?」
紗奈が訊く。
「俺たちは、ここに閉じ込められてるんじゃない。何かに“試されてる”んだ。」
その言葉に、全員が息を呑んだ。
確かに、今までの怪奇現象は、ただ怖がらせるためのものではなく、まるで“何かを解決させよう”としているように感じる。
「……試されてるってことは、クリアしないと出られないってこと?」
大輝が呟く。
「かもしれない……」
陽介は歯を食いしばった。
「だったら、やるしかない」
「……まずは職員室に行こう」
美咲が言った。
「鍵を見つければ、別の出口が開くかもしれない」
六人は緊張しながら、職員室へと向かった。
職員室の前に立つと、まず目に入ったのは壁に掛けられた大きな鏡だった。
「こんなところに鏡なんかあったっけ?」
隼人が首を傾げる。
「旧校舎が閉鎖される前は、ここに鏡があったって聞いたことある」
美咲が呟く。
「先生たちが身だしなみを整えるためのものだったとか……」
大きな鏡は、天井から床近くまで伸びており、六人全員の姿をはっきりと映し出していた。
「……疲れてる顔してるなぁ」
隼人が冗談めかして鏡を覗き込む。
「ほんと、それどころじゃないよね……」
由香がため息混じりに言った、その時——。
違和感が生まれた。
鏡の中の自分たちが、わずかにズレた動きをしている。
「……?」
紗奈が目を細める。
普通、鏡は同じ動きをするはずだ。
しかし——。
「おい……なんか、おかしくないか?」
大輝が低い声で言った。
六人がじっと鏡を見つめる。
次の瞬間——。
鏡の中の“自分たち”が、勝手に動いた。
「……え?」
陽介が息をのむ。
「なんで……?」
鏡の中の自分たちは、まるで別の意志を持つかのようにゆっくりと動き出していた。
しかし、動きがズレているだけではない。
表情が違う。
「なんか、笑ってない……?」
由香が怯えたように言った。
そう——鏡の中の“六人”は、不気味なほどゆっくりと、にやりと微笑んでいた。
「嘘だろ……」
隼人が後ずさる。
そして、鏡の中の自分たちはさらに奇妙な動きをした。
全員が身動きを止めているのに、鏡の中の自分たちは、勝手に手を上げたり、首を傾けたりしていた。
「これ……俺たちじゃない……!」
美咲が叫ぶ。
カン……カン……カン……
遠くで、またあの足音が聞こえた。
影の教師の足音だ。
「くそっ……! 扉を開けて、中に入ろう!」
陽介が職員室のドアを押そうとした、その時——。
「え……?」
由香が、鏡の中の自分をじっと見つめていた。
鏡の中の“由香”だけが、ほかの誰よりも違う動きをしていた。
ほかの五人が立ちすくむ中で、鏡の中の由香はゆっくりとこちらに手を伸ばしていた。
まるで、こちら側へ引き寄せるように——。
「由香!! 離れて!!」
美咲が叫ぶ。
だが——。
ズルッ!!
突然、由香の身体が鏡の中に吸い込まれた。
「いやああああ!!!」
由香が悲鳴を上げる。
「由香!!!」
紗奈が手を伸ばしたが、間に合わなかった。
由香の姿は、鏡の中に消えた。
「由香!? どこに行ったんだよ!!」
隼人が鏡を叩く。
しかし、鏡はただ彼らを映し返すだけで、由香の姿はどこにもない。
「どうしよう……どうすれば……」
美咲が涙ぐみながら鏡に手を触れた、その瞬間——。
ポツン……
鏡の中に、水滴が落ちた。
「……?」
鏡の中に、新しい光景が映し出されていた。
そこは、職員室ではない。
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そして、その中央に——。
由香が立っていた。
「由香!!」
陽介が叫ぶ。
しかし——。
鏡の中の由香は、こちらを見ていなかった。
まるで何かを見つめているかのように、ゆっくりと後ろを振り向いた。
その先には——。
無数の“誰か”の影が立っていた。
「……っ!!」
全員の背筋が凍る。
影たちは、由香の背後からじっと見つめている。
そして——。
由香が、ゆっくりと振り返った。
しかし、その顔には——。
何もなかった。
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