逢魔ヶ刻の迷い子2

naomikoryo

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鏡の中のもう一人

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ポロロン……ポロン……

 遠くで響くピアノの音を背に、六人は荒い息をつきながら廊下を駆けていた。

「なんなんだよ、マジで……!」

 隼人が震える声で叫ぶ。

「ピアノが勝手に鳴るとか、ランドセルとか、訳がわからない……!」

 陽介も息を切らしながら前を向く。

「でも、一つだけ分かったことがある」

「……何?」

 紗奈が訊く。

「俺たちは、ここに閉じ込められてるんじゃない。何かに“試されてる”んだ。」

 その言葉に、全員が息を呑んだ。

 確かに、今までの怪奇現象は、ただ怖がらせるためのものではなく、まるで“何かを解決させよう”としているように感じる。

「……試されてるってことは、クリアしないと出られないってこと?」

 大輝が呟く。

「かもしれない……」

 陽介は歯を食いしばった。

「だったら、やるしかない」

「……まずは職員室に行こう」

 美咲が言った。

「鍵を見つければ、別の出口が開くかもしれない」

 六人は緊張しながら、職員室へと向かった。

 職員室の前に立つと、まず目に入ったのは壁に掛けられた大きな鏡だった。

「こんなところに鏡なんかあったっけ?」

 隼人が首を傾げる。

「旧校舎が閉鎖される前は、ここに鏡があったって聞いたことある」

 美咲が呟く。

「先生たちが身だしなみを整えるためのものだったとか……」

 大きな鏡は、天井から床近くまで伸びており、六人全員の姿をはっきりと映し出していた。

「……疲れてる顔してるなぁ」

 隼人が冗談めかして鏡を覗き込む。

「ほんと、それどころじゃないよね……」

 由香がため息混じりに言った、その時——。

 違和感が生まれた。

 鏡の中の自分たちが、わずかにズレた動きをしている。

「……?」

 紗奈が目を細める。

 普通、鏡は同じ動きをするはずだ。

 しかし——。

「おい……なんか、おかしくないか?」

 大輝が低い声で言った。

 六人がじっと鏡を見つめる。

 次の瞬間——。

 鏡の中の“自分たち”が、勝手に動いた。

「……え?」

 陽介が息をのむ。

「なんで……?」

 鏡の中の自分たちは、まるで別の意志を持つかのようにゆっくりと動き出していた。

 しかし、動きがズレているだけではない。

 表情が違う。

「なんか、笑ってない……?」

 由香が怯えたように言った。

 そう——鏡の中の“六人”は、不気味なほどゆっくりと、にやりと微笑んでいた。

「嘘だろ……」

 隼人が後ずさる。

 そして、鏡の中の自分たちはさらに奇妙な動きをした。

 全員が身動きを止めているのに、鏡の中の自分たちは、勝手に手を上げたり、首を傾けたりしていた。

「これ……俺たちじゃない……!」

 美咲が叫ぶ。

カン……カン……カン……

 遠くで、またあの足音が聞こえた。

 影の教師の足音だ。

「くそっ……! 扉を開けて、中に入ろう!」

 陽介が職員室のドアを押そうとした、その時——。

「え……?」

 由香が、鏡の中の自分をじっと見つめていた。

 鏡の中の“由香”だけが、ほかの誰よりも違う動きをしていた。

 ほかの五人が立ちすくむ中で、鏡の中の由香はゆっくりとこちらに手を伸ばしていた。

 まるで、こちら側へ引き寄せるように——。

「由香!! 離れて!!」

 美咲が叫ぶ。

 だが——。

 ズルッ!!

 突然、由香の身体が鏡の中に吸い込まれた。

「いやああああ!!!」

 由香が悲鳴を上げる。

「由香!!!」

 紗奈が手を伸ばしたが、間に合わなかった。

 由香の姿は、鏡の中に消えた。

「由香!? どこに行ったんだよ!!」

 隼人が鏡を叩く。

 しかし、鏡はただ彼らを映し返すだけで、由香の姿はどこにもない。

「どうしよう……どうすれば……」

 美咲が涙ぐみながら鏡に手を触れた、その瞬間——。

ポツン……

 鏡の中に、水滴が落ちた。

「……?」

 鏡の中に、新しい光景が映し出されていた。

 そこは、職員室ではない。

 暗い、見たことのない場所。

 そして、その中央に——。

 由香が立っていた。

「由香!!」

 陽介が叫ぶ。

 しかし——。

 鏡の中の由香は、こちらを見ていなかった。

 まるで何かを見つめているかのように、ゆっくりと後ろを振り向いた。

 その先には——。

 無数の“誰か”の影が立っていた。

「……っ!!」

 全員の背筋が凍る。

 影たちは、由香の背後からじっと見つめている。

 そして——。

 由香が、ゆっくりと振り返った。

 しかし、その顔には——。

 何もなかった。
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