逢魔ヶ刻の迷い子2

naomikoryo

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鏡の向こうの叫び

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シン……と静まり返った旧校舎。

 由香は、消えた。

 鏡の中に引きずり込まれ、彼女の姿はどこにもなかった。

「……嘘だろ……?」

 隼人が息を詰まらせる。

 さっきまで、確かにここにいた。けれど、今は——鏡の向こうにいる。

 鏡の表面は、ただの反射するガラスに戻っていた。由香の姿は見えない。

「どうすればいいの……?」

 紗奈が震えながら呟いた。

 その時——。

「……たすけて……」

 どこからか、かすかな声が聞こえた。

「今の……!」

 美咲が顔を上げた。

 確かに聞こえた。

 由香の声——。

「たすけて……! だれか……!」

 微かに響くその声は、どこか遠くから聞こえてくるようだった。

「どこから……?」

 陽介が息を詰める。

 大輝が慎重に耳を澄ます。

 そして——。

「……上の階……?」

 音が微かに、上から響いている。

「二階……!」

 紗奈が声を上げた。

「どこかの教室か……?」

「いや……あそこだ!」

 陽介が、一つの部屋を指差した。

 放送室。

 学校の七不思議の一つ——。

『夜の放送室の声』

 深夜、誰もいないはずの放送室から、「助けて」と誰かの声が響く。
 しかし、その声の正体を確かめに行った者は、二度と戻ってこなかった——。

「まさか、由香が……?」

「……考えてる場合じゃない、行こう!」

 陽介が先頭に立ち、五人は放送室へと向かった。

 放送室の前で立ち止まる。

「本当に、ここにいるのか?」

 隼人が扉に手をかける。

 カチャ……

 鍵はかかっていなかった。

「開く……」

 陽介が息をのんだ。

「気をつけて……」

 美咲が囁く。

 五人はそっと扉を押し、放送室の中に足を踏み入れた。

 放送室の中は、予想以上に静かだった。

 教卓の上にはマイクが置かれ、古びた機材が並んでいる。

 そして、部屋の奥には——。

 大きな鏡が掛けられていた。

「……また鏡……?」

 紗奈が緊張した声で言う。

 その時——。

バン! バン! バン!!

 鏡が激しく揺れた。

「うわっ!!」

 五人は驚き、思わず後退る。

 しかし——鏡の向こうに誰かがいた。

「……由香!!!」

 美咲が叫ぶ。

 鏡の中には、由香がいた。

 涙を流しながら、必死に鏡を叩いている。

「助けて!! ここから出して!!」

 由香の叫びが、鏡の向こうから響く。

「由香……!?」

 陽介が鏡に駆け寄る。

「お前、どこにいるんだ!?」

「わからない!! 真っ暗な場所にいるの!!」

 由香は怯えた表情で、必死に鏡を叩いた。

「こっちの声、聞こえる?」

 大輝が叫ぶ。

「うん……でも、こっちからは出られない……!」

「待ってろ! 何とかする!」

 紗奈が焦ったように言う。

「どうやって!? 鏡を割ればいいのか!?」

 隼人が言った。

「でも、割ったら……由香はどうなるの?」

 美咲が躊躇する。

「でも、このままじゃ……!」

 陽介が考えを巡らせた、その時——。

スゥ……

 鏡の中の暗闇に、影が現れた。

「……っ!!」

 由香の背後に、ゆっくりと黒い人影が浮かび上がる。

「後ろ……!!」

 陽介が叫ぶ。

「……え?」

 由香がゆっくりと振り向いた。

 すると——。

その影が、ゆっくりと手を伸ばした。

「ダメだ……!!」

 紗奈が鏡を叩く。

「どうにかしないと!!」

 美咲が必死に考える。

「……放送だ!!」

 大輝が叫んだ。

「え?」

「放送室なんだから、放送を流せばいい!!」

「でも、何を!?」

 陽介が尋ねる。

 大輝は放送機材を見つめた後、こう言った。

「学校のチャイムだ!」

 放送機材に手をかける。

 大輝がスイッチを入れ、校内のスピーカーが作動する。

「……流せるか……!?」

 陽介が息をのむ。

 大輝は音源のスイッチを探し、手を伸ばす。

「……あった!」

 そして——。

ピン……ポーン……パン……ポーン……

 学校のチャイムが響いた。

 すると——。

 鏡の中の影が、ゆっくりと後退りを始めた。

「……!!」

 由香が鏡を叩く。

「何かが起こってる!!」

「由香、今のうちに鏡に手を伸ばせ!!」

 陽介が叫ぶ。

 由香は必死に鏡に手を伸ばした。

 すると——スゥッ……!!

 由香の身体が、鏡の表面を突き抜け——。

ドサッ!!

 床の上に転がり出た。

「由香!!」

 美咲が駆け寄る。

 由香は、息を荒げながら自分の身体を確認し、そして——。

「戻れた……?」

 涙を流しながら、呟いた。

「……よかった……」

 紗奈が安堵の息を吐いた。

 そして、五人が鏡を振り返ると——。

 そこにはもう、由香の姿は映っていなかった。

 鏡は、ただのガラスに戻っていた。

「……助かったのか?」

 隼人が息をのむ。

「うん……ありがとう……!」

 由香が涙を拭った。

 だが、彼らはまだ知らなかった。

 旧校舎の七不思議は、これで終わりではなかったのだ。
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