逢魔ヶ刻の迷い子2

naomikoryo

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動き出す人体模型

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由香を助け出し、放送室から脱出した六人は、しばらく廊下で息を整えた。

「マジで……もう無理かと思った……」

 隼人が震えた声で呟く。

「由香、大丈夫?」

 美咲が心配そうに尋ねる。

「うん……でも、本当に怖かった……」

 由香は涙を拭いながら、まだ少し震える手を握りしめた。

 鏡の向こう側——あそこには何かがいた。何者かが、彼女を捕らえようとしていた。

「でも、これで終わりじゃない……よね?」

 大輝が慎重に言う。

 五人は顔を見合わせた。

 確かに、旧校舎の七不思議はまだすべてを体験したわけではない。

 これまでに遭遇したのは——。

 ◆ 夜の放送室の声(由香の救出)
 ◆ 音楽室のピアノ(謎の旋律)
 ◆ 職員室の鏡(引き込まれる世界)

 まだ、四つの七不思議が残っている。

「……とりあえず、このまま動かないでいても何も変わらないよな」

 陽介が息を整えて言った。

「だったら、次の七不思議を確かめて、何とかこの異常な状況から抜け出す方法を探すしかない」

「でも、次の七不思議って……?」

 紗奈が不安げに呟いた。

 その時——。

カタ……カタ……カタ……

 何かが動く音がした。

「……?」

 六人は一斉に音のした方向を見た。

 それは、廊下の奥から聞こえていた。

「何の音……?」

 由香が不安げに美咲の袖を握る。

 その時だった——。

ゴトン……カタカタカタ……

 突然、音が激しくなった。

 何かが倒れる音、木がきしむ音、そして——不気味な足音。

「……まさか……」

 大輝が震える声で呟く。

 六人の脳裏に浮かんだのは、学校の七不思議のひとつ。

 『動き出す人体模型』

「嘘だろ……?」

 隼人が青ざめた顔で呟く。

「動き出す人体模型って、あれだよな……夜中に勝手に歩き回るっていう……」

「うん……」

 美咲が息をのんだ。

「目が合ったら、その人の姿を真似て、取り憑く……って話」

「やめろよ、それ本当にヤバいやつじゃん……!」

 紗奈が悲鳴を抑えるように言った。

 だが、もう手遅れだった。

 カタ……カタ……

 ゴトン……!

 カタ……カタカタカタカタカタカタ!!

 音が近づいてくる。

「来る……!」

 陽介が懐中電灯を握りしめ、そっと理科室の扉を開けた。

 中は静まり返っていた。

 しかし——。

 部屋の奥の人体模型が、微妙に傾いていた。

「……倒れてる?」

 紗奈が小さな声で言った。

 しかし、違和感がある。

 その首の角度が、人間のものとは思えないほど、歪んでいた。

「……まずい……」

 陽介が冷や汗をかく。

「これ、明らかにおかしい……」

「ちょっと待って……」

 大輝が慎重に近づく。

「倒れてるように見えるけど……もしかして……」

 彼が懐中電灯の光を向けた瞬間——。

ガタッ!!!

 人体模型が、突然動いた。

「うわああああ!!!」

 由香が悲鳴を上げる。

 そして——。

カタ……カタカタカタ……

 人体模型が、自らの手をゆっくりと持ち上げた。

 関節がギシギシと軋む音を立てながら、明らかに“何かが入り込んでいる”ような動きで——。

「……オマエ……ハ……ダレ?」

 口のないはずの模型から、かすれた声が発せられた。

「なんで喋るんだよ!!!」

 隼人が絶叫する。

「逃げろ!!!」

 陽介が叫び、六人は一斉に理科室の外へ飛び出した。

 カタカタカタ……カタ……カタカタカタカタ!!

 背後で模型が追いかけてくる。

「なんでこんな動けるんだよ!!!」

「わかんないけど、目を合わせたらヤバい!!」

「マジかよ!!!」

 階段を駆け下りようとした瞬間——。

「……っ!!」

 大輝が足を止めた。

 鏡の反射した窓ガラスに、何かが映った。

 それは——。

 人体模型が、自分たちとまったく同じ動きをしている光景だった。

「……あれ……?」

 紗奈が息を飲む。

 模型は、まるで六人の動きをコピーするかのように、同じ動きをしていた。

「……真似してる……?」

 陽介が気づいた。

 そして、はっとした表情を浮かべた。

「そうだ!! これ、七不思議の話と同じだ!!」

 彼は叫ぶように言った。

「目を合わせると、その人の動きを真似る! つまり……
 こっちが何もしなければ、あいつも止まるはずだ!!」

「え……?」

「本当に!?」

「試すしかない!!!」

 陽介は息をのんで、その場でピタリと動きを止めた。

 すると——。

 人体模型も、ぴたりと止まった。

「……止まった……!?」

 隼人が驚きの声を上げる。

「全員、じっとしろ!!」

 美咲が小声で言う。

 六人は、全員が動きを止めた。

 シン……とした空気が流れる。

 模型は、その場に固まり、動かなくなった。

「……やった?」

 由香が小声で言った。

 その時——。

カタ……

 模型の首が、ゆっくりとこっちを向いた。

「いやああああああ!!!!!」

 由香の悲鳴とともに——六人は一斉に逃げ出した。
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