逢魔ヶ刻の迷い子2

naomikoryo

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消える足音

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ダダダダダッ!!

 六人は旧校舎の廊下を必死に駆け抜けた。

 背後では——。

 カタ……カタカタ……!!

 人体模型が、彼らの動きを真似しながら追いかけてくる。

「なんで止まらねえんだよ!!」

 隼人が叫びながら振り返る。

「たぶん、由香が声を出したから……!」

 美咲が息を切らしながら言った。

「話によると、動きを真似するだけでなく、“人間になりたい”とも言われてる……
 ! つまり、取り憑く対象を探してるんだよ!!」

「じゃあ、どうすれば……!?」

 紗奈が叫ぶ。

「わからないけど、とにかく逃げるしかない!」

 陽介が叫ぶ。

 だが、その時——。

 コツ……コツ……

 足音が増えた。

 「増えた?」

 大輝が疑問を口にした瞬間——。

 カン……カン……カン……

 まるで、見えない誰かが、彼らと一緒に走っているかのような音が響いた。

「え……?」

 紗奈が足を止めた。

 その瞬間——。

 足音だけが、先に走り去っていった。

「……何もいないのに、足音だけが……?」

 美咲が恐る恐る廊下を見渡す。

 誰もいない。

 だが、明らかに足音は彼らより先に行き、どこかへ消えていった。

「これって……」

 陽介が息をのむ。

「……学校の七不思議のひとつ……『消える足音』……?」

 見えない誰かが通る廊下
 旧校舎には、こんな話がある。

『誰もいないはずの廊下で、深夜に足音が聞こえる。
 追いかけても、決して姿は見えず、足音だけが先へと進んでいく——。』

「……じゃあ、今の足音って……」

 由香が不安げに言う。

「“何か”が、私たちよりも先に走っていったってこと?」

「いや、違う」

 大輝が眼鏡を直しながら言った。

「追いかけても、決して姿は見えない……
 つまり、あの足音の“持ち主”は、ここにいないものってことだ」

「見えないけど、確かにいる……?」

 紗奈が震える声で言う。

「……けど、足音が消えたなら、それ以上は追ってこないんじゃないか?」

 陽介が背後を振り返る。

 すると——。

 人体模型が、廊下の突き当たりで止まっていた。

「止まってる……?」

 隼人が警戒しながら言う。

 人体模型は、もう動かない。

 いや——。

 廊下に漂う“消えた足音”を聞いた瞬間、動かなくなった。

「まさか……」

 美咲が息を飲んだ。

「足音の正体が……あいつを止めた?」

「どういうこと?」

 由香が混乱した表情を浮かべる。

「七不思議同士が……干渉しあってる……?」

 大輝が小さく呟いた。

 七不思議は、それぞれが独立した怪談のはず。

 だが——
 今、彼らの目の前で起きたことは、まるで七不思議同士が何らかのルールを持って動いているかのようだった。

「……今の足音に、“模型”が反応した。
 もしかして……七不思議には、何か繋がりがあるのかもしれない。」

「繋がり……?」

 陽介が息をのむ。

 しかし、考える間もなく——。

 コツ……コツ……

 また、どこかで足音が響いた。

 だが、それは今度は違う方向——。

「……屋上?」

 隼人が呟いた。

「どうする?」

 紗奈が尋ねる。

「……行くしかない」

 陽介が静かに言った。

「この七不思議が繋がっているなら、最後まで向き合わなきゃいけない気がする」

 六人は顔を見合わせ、屋上へと向かうことを決意した。

 階段を駆け上がると、そこには鉄の扉があった。

 そして——。

 扉は、すでに開いていた。

「誰かいる……?」

 由香が震える声で言う。

「足音の主が……?」

 美咲が息をのむ。

 六人は、慎重に屋上へと足を踏み入れた。

 そこには、何もないはずだった。

 しかし——。

 鉄柵の向こうに、ぼんやりとした人影が立っていた。

「……誰……?」

 紗奈が恐る恐る言う。

 その影は、ゆっくりと振り向いた。

 しかし、そこには——。

 顔がなかった。

「嘘……」

 隼人が息を詰まらせる。

 すると、その影が——。

 コツ……コツ……コツ……

 ゆっくりと、こちらに向かって歩いてきた。

「……消える足音の……正体……?」

 陽介が震える声で言った。

 その時——。

 放送室のスピーカーから、再び校内チャイムが鳴った。

「ピン……ポーン……パン……ポーン……」

 その瞬間——。

 影は、スッと跡形もなく消えた。

「……消えた……?」

 美咲が息をのむ。

「やっぱり……」

 大輝が言った。

「七不思議は、それぞれに干渉しあってる……」

「つまり……?」

 由香が戸惑いながら言う。

「何かの条件を満たせば、七不思議が終わる……?」

「もしかすると……七不思議全部を“解決”すれば、俺たちもここから出られるかもしれない」

 陽介が真剣な表情で言った。

「……ってことは……」

 隼人が冷や汗を拭いながら呟く。

「……あと、一つ……残ってるんだよな……?」

 六人は顔を見合わせる。

 旧校舎の七不思議——。

 最後に残された怪談が、何なのか。

 それを確かめるために——彼らは再び校舎の中へと戻ることを決めた。
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