逢魔ヶ刻の迷い子2

naomikoryo

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深夜の花壇の少女

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屋上での出来事が終わり、六人は静かに旧校舎へと戻った。

 七不思議は、互いに干渉し合っていた。
 ならば、最後の七不思議を解決すれば、この悪夢のような夜は終わるのではないか——?

 残された七不思議は、ただ一つ。

 それは——。

 『深夜の花壇の少女』

 六人は校舎を出て、静まり返った中庭へ向かった。

 夜の校庭は蒸し暑く、昼間の喧騒とはまるで違う、静寂と闇に包まれていた。

「この辺りのはず……」

 美咲が懐中電灯を持ちながら、慎重に歩を進める。

 校庭の隅にある古びた花壇。

 昼間ならば、先生たちや生徒が世話をしている場所だ。
 しかし——。

「……花壇がない?」

 大輝が戸惑った声を上げた。

 確かに、花壇があるはずの場所には、ただの乾いた土が広がっている。
 植えられていたはずの花や木々が、跡形もなく消えていた。

「おかしい……昼間はここにちゃんと花が咲いてたのに……」

 紗奈が不安そうに呟く。

 その時だった。

ザク……ザク……

「!!?」

 突然、地面の下から何かが動く音がした。

「な、何の音……?」

 由香が息を呑む。

 その瞬間——。

ズルッ……!

 土の中から、小さな白い手が現れた。

「うわああああ!!!」

 隼人が悲鳴を上げる。

 六人の目の前で、その手はゆっくりと地面を這い、何かを掴むように動いていた。

「誰か……いるの……?」

 美咲が恐る恐る囁く。

 すると——。

 土の中から一人の少女が這い出してきた。

「……なに、これ……?」

 由香が震える声で言った。

 白いワンピースを着た少女が、ゆっくりと這い出してくる。
 髪は長く、顔は土にまみれていて、表情は見えない。

 だが——その少女は、確かに泣いていた。

「うぅ……うぅ……」

「……泣いてる?」

 紗奈が困惑した声を上げる。

 少女は、顔を上げた。

 そして、涙で濡れた目で、六人を見つめながら——。

「わたしの はな……どこ……?」

 か細い声で、そう呟いた。

「花……?」

 陽介が息を呑む。

「花が……なくなってる……?」

 美咲が花壇の跡地を見渡す。

 確かに、ここには花壇があったはずだ。
 しかし、今は何もない。

「……まさか……この子……」

 大輝が呟く。

 学校の七不思議のひとつ——『深夜の花壇の少女』。

『かつて、ある少女が大切にしていた花壇が、何者かに荒らされてしまった。
 彼女は悲しみのあまり、花壇の前で泣き続け——
 そのまま姿を消した。』

「……この子が、その“少女”……?」

 由香が呟いた。

 少女は、再び涙を流しながら、こう言った。

「……わたしの はなを かえして……」

「どうすれば……?」

 隼人が戸惑ったように言った。

 このままでは、少女は泣き続けたままだ。
 何とかして、花を取り戻さなければならない——。

「……待って」

 紗奈が何かを思い出したように言った。

「前に音楽室で見つけた、あの楽譜……タイトル、覚えてる?」

「『わたしの うた』?」

 由香が思い出す。

「……もしかして……あの楽譜に、花を取り戻すヒントがあるのかも……」

「でも、楽譜なんて、どこに……」

 陽介が言いかけた、その時——。

ポロロン……

 また、あの不気味なピアノの音が響いた。

「音楽室……!!」

「やっぱり繋がってるんだ……!」

 大輝が確信したように言った。

「音楽室に行こう!! そこに“花を取り戻す”手がかりがあるはずだ!!」

 六人は一斉に駆け出した。

『わたしの うた』の秘密
 音楽室に戻ると、あの楽譜がまだそこにあった。

 開いてみると——。

 楽譜の端に、かすかに手書きの文字が書かれていた。

『わたしの だいすきな はなを まもって……』

「やっぱり……!」

 美咲が息をのむ。

「この楽譜を、あの子に渡せば……?」

 六人は急いで校庭へ戻り、花壇の前の少女のもとへ駆け寄った。

「……これが、君の花……?」

 陽介が、そっと楽譜を差し出す。

 少女は、それを静かに受け取ると——。

「……ありがとう。」

 にっこりと微笑んだ。

 その瞬間——。

 花壇に、消えたはずの花々が再び咲き誇った。

 そして、少女の姿は、光の粒となって消えていった。

「……消えた……?」

 由香が息を呑んだ。

 すると——。

ピン……ポーン……パン……ポーン……

 朝の校内チャイムが鳴った。

 気がつくと——。

 六人は、いつもの校庭に立っていた。

 夜の闇は消え、東の空には朝焼けが広がっていた。

「……終わった?」

 隼人が戸惑いながら呟く。

 七不思議をすべて解決したことで、彼らは元の世界へと戻ってきたのだ。

「……やったんだ……」

 美咲が、目を潤ませながら言った。

 七不思議を巡った、長い夜が終わった。
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