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第17話「“あんたのこと、好きになってたんだけどな”」
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その日は朝から、雨だった。
しとしとと降り続く音が、やけに耳につく。
店のオープン準備をしながら、私は心の中で繰り返していた。
「ちゃんと伝えなきゃ」
迷いはあった。
でも、それ以上に“このまま曖昧にしてたら、絶対後悔する”ってわかってた。
川原のことが、好きだった。
多分もう、かなり前から。
けど彼は、「結婚はわからない」って言った。
気持ちはある。でも未来は未定。
それが本音なら、それでいい。
でも私は、“好き”だけじゃ踏み出せない自分を、もうごまかしたくなかった。
夜、川原のオフィスを訪ねると、彼は驚いた顔をした。
「おう……今日どうした?予約入ってたっけ?」
「違う。……話がある」
「……そっか。ちょっと、待って。今締めるから」
彼は手早く書類を片づけ、コーヒーを淹れてくれた。
でも私は、それに口をつけなかった。
「……川原」
「うん」
「……あたし、あんたのこと、好きになってた」
沈黙。
川原の手が止まり、目がこちらを見た。
「最初はただのアドバイザーで、うざくて、ムカつくやつだった。
でも、いつの間にか、あんたがいるとホッとして、
ムカつく一言すら、なんか嬉しくて――」
言葉がつまった。
けど、もう止まれなかった。
「……でも、好きなだけじゃ、もう無理だって思った」
川原の顔が、少しだけ曇った。
「ひかり……」
「結婚したいんだ、あたし。
“形”が欲しい。
“関係に名前”が欲しい。
“未来がある”って信じられる、何かが欲しい」
「……」
「だから……ごめん。
あたし、あんたのこと、
好きだったけど、もう追いかけたくない」
静かな空気の中で、雨の音だけが響いていた。
川原は、しばらく何も言わなかった。
でもやがて、少しだけ、息を吐いた。
「……ありがとう。
ちゃんと気持ち、伝えてくれて」
「……」
「俺の中で、“結婚”って言葉がまだ重くてさ。
また壊れるのが怖いのかもな。
誰かと未来を作るって、あんなに怖いことだったんだって、
前のことで分かっちまったから」
「……うん」
「でも――」
川原が顔を上げた。
その目には、迷いと、それでも揺るがない誠実さがあった。
「お前のこと、ちゃんと考えたいって思ったのは、初めてだったよ。
“今すぐ”って約束はできないけど……
それでも、一緒に未来を想像したいって、思ってる」
胸がきゅっと締めつけられた。
それは、“好き”という言葉よりも、ずっと重かった。
けど――私は首を振った。
「……だったら、もうちょっと早く言ってよ、バカ」
「……ごめん」
「ほんっとに、不器用なんだから」
泣くまいと思ってたのに、言葉が震えていた。
その夜、私は雨の中を歩いた。
傘の中で、涙がぽろぽろと落ちた。
別れたわけじゃない。拒まれたわけでもない。
でも、“今じゃない”と言われる苦しさが、胸を締めつけた。
未来が見えないことが、
好きな人にちゃんと気持ちがあることより、
苦しく感じるなんて――思ってなかった。
でも、言えてよかった。
ちゃんと向き合えた。
自分の気持ちに、嘘つかずに済んだ。
その痛みすらも、“ちゃんと生きた証拠”なんだと思いたかった。
部屋に戻って、濡れた髪を拭きながら、私は小さくつぶやいた。
「……好きって、ほんと、むずかしいな」
けど、むずかしいから、
あたしは、ちゃんと選びたいんだ。
ただ好きなだけじゃなく、
“誰と一緒に未来を作るか”を、ちゃんと――。
しとしとと降り続く音が、やけに耳につく。
店のオープン準備をしながら、私は心の中で繰り返していた。
「ちゃんと伝えなきゃ」
迷いはあった。
でも、それ以上に“このまま曖昧にしてたら、絶対後悔する”ってわかってた。
川原のことが、好きだった。
多分もう、かなり前から。
けど彼は、「結婚はわからない」って言った。
気持ちはある。でも未来は未定。
それが本音なら、それでいい。
でも私は、“好き”だけじゃ踏み出せない自分を、もうごまかしたくなかった。
夜、川原のオフィスを訪ねると、彼は驚いた顔をした。
「おう……今日どうした?予約入ってたっけ?」
「違う。……話がある」
「……そっか。ちょっと、待って。今締めるから」
彼は手早く書類を片づけ、コーヒーを淹れてくれた。
でも私は、それに口をつけなかった。
「……川原」
「うん」
「……あたし、あんたのこと、好きになってた」
沈黙。
川原の手が止まり、目がこちらを見た。
「最初はただのアドバイザーで、うざくて、ムカつくやつだった。
でも、いつの間にか、あんたがいるとホッとして、
ムカつく一言すら、なんか嬉しくて――」
言葉がつまった。
けど、もう止まれなかった。
「……でも、好きなだけじゃ、もう無理だって思った」
川原の顔が、少しだけ曇った。
「ひかり……」
「結婚したいんだ、あたし。
“形”が欲しい。
“関係に名前”が欲しい。
“未来がある”って信じられる、何かが欲しい」
「……」
「だから……ごめん。
あたし、あんたのこと、
好きだったけど、もう追いかけたくない」
静かな空気の中で、雨の音だけが響いていた。
川原は、しばらく何も言わなかった。
でもやがて、少しだけ、息を吐いた。
「……ありがとう。
ちゃんと気持ち、伝えてくれて」
「……」
「俺の中で、“結婚”って言葉がまだ重くてさ。
また壊れるのが怖いのかもな。
誰かと未来を作るって、あんなに怖いことだったんだって、
前のことで分かっちまったから」
「……うん」
「でも――」
川原が顔を上げた。
その目には、迷いと、それでも揺るがない誠実さがあった。
「お前のこと、ちゃんと考えたいって思ったのは、初めてだったよ。
“今すぐ”って約束はできないけど……
それでも、一緒に未来を想像したいって、思ってる」
胸がきゅっと締めつけられた。
それは、“好き”という言葉よりも、ずっと重かった。
けど――私は首を振った。
「……だったら、もうちょっと早く言ってよ、バカ」
「……ごめん」
「ほんっとに、不器用なんだから」
泣くまいと思ってたのに、言葉が震えていた。
その夜、私は雨の中を歩いた。
傘の中で、涙がぽろぽろと落ちた。
別れたわけじゃない。拒まれたわけでもない。
でも、“今じゃない”と言われる苦しさが、胸を締めつけた。
未来が見えないことが、
好きな人にちゃんと気持ちがあることより、
苦しく感じるなんて――思ってなかった。
でも、言えてよかった。
ちゃんと向き合えた。
自分の気持ちに、嘘つかずに済んだ。
その痛みすらも、“ちゃんと生きた証拠”なんだと思いたかった。
部屋に戻って、濡れた髪を拭きながら、私は小さくつぶやいた。
「……好きって、ほんと、むずかしいな」
けど、むずかしいから、
あたしは、ちゃんと選びたいんだ。
ただ好きなだけじゃなく、
“誰と一緒に未来を作るか”を、ちゃんと――。
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