魔法少女は会社員

naomikoryo

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第2章:魔法のある日常

第3話:旧友との再会

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翌日の昼休み。
神代ミユキは、会社の給湯室でコーヒーを淹れていた。

社内はエアコンの音がやけに大きく響き、外の騒音すら遠ざかって感じられるほど静かだった。

カップの中で、インスタントの粉がゆっくりと黒に溶ける。

そのとき――扉が開く音。

誰かが入ってきた。視線を上げたミユキと、目が合う。

「……あら」

経理部の山吹ナナだった。

ポニーテールに濃いめのリップ。背筋を伸ばしたまま、スマートに冷蔵庫を開ける姿。
変わらない、けど“何か”が違う。

「……経理部はそっちの給湯室使うんだ?」

ミユキが口を開いた。

ナナは牛乳を取り出しながら言う。

「こっちは人が少ないから落ち着くの。
営業フロアは“熱気”がすごいし。魔物が出そうなくらい」

その言葉に、ミユキの手が一瞬止まる。

「出るわよ、普通に」

「……やっぱり」

ナナはミルクを注ぎながら、微かに笑った。

「あなた、戻ったのね。魔法少女に」

「正式には“再契約”ってとこだけど」

「ふうん」

ナナは紙コップを口元に運び、ミユキの隣の壁に寄りかかった。

給湯室の中に、気まずい沈黙が漂う。

言うべきことは山ほどあるはずなのに、どちらも口を閉ざしたままだった。

「……あのときのこと、覚えてる?」

ミユキが小さな声で尋ねる。

「覚えてるわよ。忘れられるわけないじゃない。
最後の戦いの夜、私たちは“あれ”を封印して、力を捨てて、
――そして、バラバラになった」

「私、あのとき謝れなかった」

「謝らないで。いまさら。
それに、私はあんたに怒ってるわけじゃないの」

「じゃあ、なんでそんな目で見るの」

ナナは目を伏せ、コーヒーを一口飲んだ。
しばらくして、静かに呟く。

「――羨ましいのよ、あんたのことが」

「……え?」

「私は、あのとき“魔法”を捨てた。
もう戦いたくない、って。もう誰も傷つけたくない、って。
でも……こうして日常に戻っても、“何も救えない”自分がいる」

「ナナ……」

「結局、経理で数字を処理して、月末に残業して、
ストレスで眠れなくて、でも会社では“優秀な社員”扱い。
魔法を捨てても、何も変わらなかった。
どころか、何も守れなくなった」

彼女の声が揺れる。
ミユキは、何も言えなかった。

「だけど、あんたはまた剣を取ったんでしょ?
まだ戦ってるんでしょ?
……ずるいわよ、そんなの」

「……私だって、怖いよ」

ミユキはカップを両手で包みながら言った。

「また誰かを守れなかったら、って。
また、あのときみたいに、全部壊れてしまったら、って。
でも、会社で数字をこなしてるだけの自分も、同じくらい怖かった。
何もできない自分で、このまま死ぬのかって、思った」

ナナが顔を上げた。

ミユキの目には、火のような光が宿っていた。
あの頃と変わらない――けれど、もうあどけなさはなかった。

「私はもう“純粋”じゃない。
でも、だからこそ“今の私”で、誰かを守りたいと思ったの」

ナナはその言葉を聞いて、息を吸い込んだ。
何かを言いかけて――やめた。

「……ほんと、バカね。あんた」

「よく言われる」

ふっと、二人の間に笑いが生まれた。

給湯室のコーヒーメーカーがブン、と音を立てて止まる。
それが会話の幕引きのようだった。

ナナは立ち上がり、カップを持ったまま出口に向かう。

「これだけは言っとく。
もう二度と、私を巻き込まないで。
私は、あんたみたいには戻れないから」

ミユキは小さくうなずいた。

ナナは、最後に一度だけ振り返り、言った。

「でも……もしまた“あの夜”みたいなことが起きたら。
あんた一人で死なないで。
――それだけは、許さないから」

そして、静かにドアが閉じた。

給湯室には、ミユキひとりだけが残された。

紙コップの中のコーヒーは、もうすっかり冷めていた。

彼女は、ほんの少しだけ微笑んだ。

「……やっぱり、戦友ってめんどくさいな」

壁にもたれかかりながら、遠くで鳴る電話の音に耳を澄ませた。

外の世界は、何も知らないまま動き続けている。
でも、この会社の中には、確かに“かつて世界を救った者たち”がいた。

そして彼女たちは今、別々の道で、それぞれの戦場を歩いていた。

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