魔法少女は会社員

naomikoryo

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第2章:魔法のある日常

第5話:失われた同期

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「――間宮リリカが、行方不明になっている」

ユリの言葉を聞いたとき、ミユキは手にしていたフォークを落とした。

会社帰り、近所のカフェで遅めの夕食をとっていた。ナポリタンを一口食べた直後だったので、麺がソースを撒き散らしたまま皿の上に落ちた。

「……それ、どういう意味?」

「文字通りの意味だ。
戸籍上は今も生きている。けれど、勤め先には在籍記録なし、連絡先も不通。親類縁者との交流もなし。
完全に、“社会から消えている”状態だ」

ミユキは紙ナプキンで指先を拭きながら、心のざわめきを抑えた。

「最後に会ったの、いつだったっけ……」

「お前が再契約する前だ。3年前、偶然駅で見かけたと聞いている」

「うん。あのとき、私には声をかける勇気がなかった。
向こうもこっちを見たけど、何も言わなかった。
……もう、あの頃のことを全部忘れたみたいだった」

「その可能性はある。“魔法を完全に捨てた者”は、記憶の消去が進行する」

「まさか、本当に“魔法のこと”だけじゃなくて……」

「人との繋がりそのものも消えることがある」

その一言が、胃の奥を冷たく締め付けた。

リリカは、誰よりも明るくて、誰よりも優しかった。
魔法少女としての資質も高く、サポート能力に長けていた。
だが、戦いが終わった後、彼女は一度も集まりに顔を出さなかった。

「リリカは……“捨てた”のかな。全部。あの頃のことも、私たちのことも」

「可能性はある。彼女は、“完全断魔”を選んだと見られる。
自らの魔法核を封じ、異界との繋がりを絶ち、人間として生きることを望んだ」

「でもそれが、記憶の消失や、人間関係の断絶に繋がるなんて……」

「魔法を得た代償は、退くときにも残るんだ。
人間が“異界の力”に触れたという事実は、完全には消えない。
だからこそ、お前たちは“特別”なんだ」

ミユキは深く息を吸ってから、カフェラテを口に運んだ。
温度の下がったミルクの味が、どこか苦かった。

翌日。昼休み、屋上。

曇り空の下、ミユキはナナに電話をかけた。

「何? また“魔物出たから助けて”って話なら切るわよ」

「違う。リリカのこと。行方が分からなくなってる」

数秒の沈黙。

「……どこまで知ってるの?」

「連絡先不明。就業記録も削除。痕跡が、ほとんどない」

「そう……やっぱり、そうなのね」

「知ってたの?」

「……去年、手紙が届いたの。リリカから。
あんたには言わないでって書いてあったけど、もういいわね。
『私は“完全に普通になる”ことにした』って。
“私の中の光も闇も、全部捨てて生きる”って書いてあった」

「どう思った?」

「馬鹿なことするな、って思った。
でも、あの子は昔から、自分の中の“痛み”を外に出せない子だったでしょ。
笑ってごまかして、誰かの盾になって、でも自分が砕けても言わない子だった」

ミユキは目を閉じた。

あの笑顔を思い出す。
いつも中心にいて、誰かの話を聞いていて、最後には「うん、大丈夫だよ」って言ってくれていたリリカ。

「会いたいな。リリカに」

「……私も」

ナナの声が、わずかに震えていた。

「だから、探すわ。魔法は使わないけど、足は使える。
あの子の痕跡がまだこの街にあるなら、私が見つけてみせる」

「私も動く。契約者として、これは無視できない」

「情報は共有するわ。……でも、あんたが無茶しそうなら、すぐ止める」

「期待してる」

「生意気」

通話が切れた。

ミユキはスマホを見つめたまま、空を仰いだ。

雲の切れ間から、少しだけ光が漏れていた。

夜。帰宅途中の電車内。

ユリの声が再び響いた。

「リリカの件、気をつけろ。
“記憶が消える”のは、必ずしも本人の意思とは限らない。
外的要因、あるいは異界側の介入の可能性もある」

「つまり、誰かがリリカを“消した”可能性があるってこと?」

「それを示す痕跡は微弱だが、ゼロではない。
特に、今の“都市の魔力汚染”の状況を見る限り、
再契約者たちに対する“何らかの攻撃”が始まっている恐れがある」

ミユキは吊革を握る手に、ぐっと力を込めた。

(リリカを見つける。それが、今の私の戦いの一つ)

電車が駅に着いた。人々がぞろぞろと降りていく。

その中に――一瞬、見えた。

リリカの横顔。

(……!)

しかし、振り返ったときにはもう、彼女の姿はなかった。

幻だったのか。それとも――

「リリカ……」

その名前を呟くと、冷たい風がホームを吹き抜けた。

次の戦いは、きっと“過去”にある。
ミユキはそう確信しながら、階段をゆっくりと上がっていった。
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