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第2章:魔法のある日常
第6話:月曜の崩壊
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月曜の朝。午前7時52分。
東京メトロ・東西線の下り電車は、ギリギリの遅延を回避しながら人々を飲み込んでいた。
ミユキは、車両の奥から3番目のドア付近に押し込まれていた。
いつもの通勤風景。酸素の薄い空間、潰れたリュック、無言の圧力。
背中に誰かの肘、膝に誰かのカバン、口元にかかる誰かの髪。
(毎週月曜、なんで同じことを繰り返すんだろ)
咄嗟に湧いたその疑問は、同時に、ぞっとするほどの既視感だった。
(これ……“波”が来てる)
心臓が小さく脈打った。
魔力の気配が、空気に染み出していた。
周囲の“人間の感情”が、何かに吸われているような感覚。
目の前のサラリーマンが、片手で吊革を握ったまま、無表情に虚空を見ていた。
隣の学生は、ヘッドホンの奥で音楽を聴いているのに、まるで耳が“何も”拾っていないような顔をしている。
(これは……ヤバい)
「ミユキ。車内が臨界値に達した。裂け目が出るぞ」
ユリの声が脳に響く。
「まさか、車内で異界化が――」
言い終えるより先に、電車が急ブレーキをかけた。
――ギィィィィィ――!
ブレーキの音と共に、車両全体が“波打った”。
本当に、鉄とガラスの塊が“液体のように”歪んだのだ。
次の瞬間、車内の蛍光灯がバチバチと音を立てて消え、非常灯が真っ赤に点いた。
「……!」
何かが、天井を割って出てきた。
灰色の“顔のない群体”。人の形をしていながら、服の形も顔の位置も曖昧な“集合影”。
ミユキは即座に動こうとした――が、身体が挟まれていて動けない。
(こんなところで変身なんてできるわけ――)
そのとき、目の前のサラリーマンが突然顔を上げた。
その目が、真っ黒だった。
「……ああ……ああああ……」
呻きながら、彼は手を突き出し、ドアを拳で殴り始めた。
周囲の人が叫ぶ。
「な、なに!?」
「やめてください!」
「助けて、誰か!」
人々の“抑圧された感情”が、同時に暴発した。
ミユキの中で、魔力が一気に噴き上がる。
(もう無理だ――やる)
彼女は小さく息を吐き、指先でペンダントの魔法核に触れた。
「変身――起動」
光が、静かに身体を包む。
音は消され、視界が数秒だけ白く染まる。
スーツのまま、彼女の身体に防具が浮かぶ。肩と胸元に光のアーマー。右手には、刃の芯だけが剥き出しの光剣。
(誰にも、見られない……!)
彼女は魔力で周囲の“視界認識”を歪ませ、視線の焦点をずらした。
人々の目には、彼女が“見えない”状態になる。
ミユキは天井の“集合影”へ向かって、剣を構えた。
「乗客のストレスが実体化したもの……“クレイド・ヘッド”!」
黒い塊が触手のように伸び、天井から彼女へ襲いかかる。
ミユキは剣を振り、斬撃で触手を払い、同時に後方へ跳ぶ――狭い車内を一瞬で移動する。
(くそ……動きにくい)
剣を振るうたび、魔力の揺らぎで吊革が千切れ、窓ガラスが割れていく。
「このままじゃ、車両ごと異界化するぞ!」
ユリの声が焦る。
「全体浄化する!」
ミユキは魔力を剣に集中させ、コアに火を灯す。
「――フレイム・ヴェイル、展開!」
剣から放たれた炎が、空間全体に膜のように広がり、“重苦しい気”を焼き払っていく。
“クレイド・ヘッド”が悲鳴のような超音波を発しながら崩れていく。
溶けていく影。戻っていく空気。
数秒後、電車が止まった。
赤い非常灯が白に戻り、蛍光灯がパチパチと復旧する。
人々の顔が、“ハッ”と何かに気づいたように我に返った。
「……あれ、今……?」
「なにがあったんだ……?」
「事故? いや、違う……変な夢、見てたような……」
魔法による“記憶補正”が働いている。
ミユキは再び人混みに紛れながら、そっと剣を消し、魔力を収束させる。
身体から防具が解けていき、ただのスーツ姿に戻る。
彼女は誰にも気づかれないまま、混乱する車両の中を通って次の車両へと歩いていった。
(月曜の朝からこれって、どういうことよ……)
「都市の魔力汚染が加速している。通勤ラッシュの感情密度が、もはや限界値に近い」
「それ、あと何回持つ?」
「このままなら、来月には“地下鉄全体”が異界の通路と化すだろう」
「ふざけんな……」
彼女は静かに溜息を吐きながら、再び吊革を握った。
車両は走り出す。
会社まで、あと二駅。
出社までに魔物と戦い、認識を操作し、車内を浄化し、さらに午前中は営業会議――
(魔法少女って、なんだったっけ)
ふと、笑えてきた。
窓に映る自分の顔は、うっすらと焦げたスーツに、血の気のない頬。そして瞳だけが、誰よりも鮮やかだった。
東京メトロ・東西線の下り電車は、ギリギリの遅延を回避しながら人々を飲み込んでいた。
ミユキは、車両の奥から3番目のドア付近に押し込まれていた。
いつもの通勤風景。酸素の薄い空間、潰れたリュック、無言の圧力。
背中に誰かの肘、膝に誰かのカバン、口元にかかる誰かの髪。
(毎週月曜、なんで同じことを繰り返すんだろ)
咄嗟に湧いたその疑問は、同時に、ぞっとするほどの既視感だった。
(これ……“波”が来てる)
心臓が小さく脈打った。
魔力の気配が、空気に染み出していた。
周囲の“人間の感情”が、何かに吸われているような感覚。
目の前のサラリーマンが、片手で吊革を握ったまま、無表情に虚空を見ていた。
隣の学生は、ヘッドホンの奥で音楽を聴いているのに、まるで耳が“何も”拾っていないような顔をしている。
(これは……ヤバい)
「ミユキ。車内が臨界値に達した。裂け目が出るぞ」
ユリの声が脳に響く。
「まさか、車内で異界化が――」
言い終えるより先に、電車が急ブレーキをかけた。
――ギィィィィィ――!
ブレーキの音と共に、車両全体が“波打った”。
本当に、鉄とガラスの塊が“液体のように”歪んだのだ。
次の瞬間、車内の蛍光灯がバチバチと音を立てて消え、非常灯が真っ赤に点いた。
「……!」
何かが、天井を割って出てきた。
灰色の“顔のない群体”。人の形をしていながら、服の形も顔の位置も曖昧な“集合影”。
ミユキは即座に動こうとした――が、身体が挟まれていて動けない。
(こんなところで変身なんてできるわけ――)
そのとき、目の前のサラリーマンが突然顔を上げた。
その目が、真っ黒だった。
「……ああ……ああああ……」
呻きながら、彼は手を突き出し、ドアを拳で殴り始めた。
周囲の人が叫ぶ。
「な、なに!?」
「やめてください!」
「助けて、誰か!」
人々の“抑圧された感情”が、同時に暴発した。
ミユキの中で、魔力が一気に噴き上がる。
(もう無理だ――やる)
彼女は小さく息を吐き、指先でペンダントの魔法核に触れた。
「変身――起動」
光が、静かに身体を包む。
音は消され、視界が数秒だけ白く染まる。
スーツのまま、彼女の身体に防具が浮かぶ。肩と胸元に光のアーマー。右手には、刃の芯だけが剥き出しの光剣。
(誰にも、見られない……!)
彼女は魔力で周囲の“視界認識”を歪ませ、視線の焦点をずらした。
人々の目には、彼女が“見えない”状態になる。
ミユキは天井の“集合影”へ向かって、剣を構えた。
「乗客のストレスが実体化したもの……“クレイド・ヘッド”!」
黒い塊が触手のように伸び、天井から彼女へ襲いかかる。
ミユキは剣を振り、斬撃で触手を払い、同時に後方へ跳ぶ――狭い車内を一瞬で移動する。
(くそ……動きにくい)
剣を振るうたび、魔力の揺らぎで吊革が千切れ、窓ガラスが割れていく。
「このままじゃ、車両ごと異界化するぞ!」
ユリの声が焦る。
「全体浄化する!」
ミユキは魔力を剣に集中させ、コアに火を灯す。
「――フレイム・ヴェイル、展開!」
剣から放たれた炎が、空間全体に膜のように広がり、“重苦しい気”を焼き払っていく。
“クレイド・ヘッド”が悲鳴のような超音波を発しながら崩れていく。
溶けていく影。戻っていく空気。
数秒後、電車が止まった。
赤い非常灯が白に戻り、蛍光灯がパチパチと復旧する。
人々の顔が、“ハッ”と何かに気づいたように我に返った。
「……あれ、今……?」
「なにがあったんだ……?」
「事故? いや、違う……変な夢、見てたような……」
魔法による“記憶補正”が働いている。
ミユキは再び人混みに紛れながら、そっと剣を消し、魔力を収束させる。
身体から防具が解けていき、ただのスーツ姿に戻る。
彼女は誰にも気づかれないまま、混乱する車両の中を通って次の車両へと歩いていった。
(月曜の朝からこれって、どういうことよ……)
「都市の魔力汚染が加速している。通勤ラッシュの感情密度が、もはや限界値に近い」
「それ、あと何回持つ?」
「このままなら、来月には“地下鉄全体”が異界の通路と化すだろう」
「ふざけんな……」
彼女は静かに溜息を吐きながら、再び吊革を握った。
車両は走り出す。
会社まで、あと二駅。
出社までに魔物と戦い、認識を操作し、車内を浄化し、さらに午前中は営業会議――
(魔法少女って、なんだったっけ)
ふと、笑えてきた。
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