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第3章:旧戦線再結集
第3話:再燃する確執
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金曜の夜。
都内のレンタルスペース。薄い会議用の机と椅子が並ぶだけの小部屋で、ミユキは深く息を吐いた。
「これ、ほんとに再会の場?」
目の前のナナが、腕を組んで壁に寄りかかっている。
その向かいに座るアイナは、持参したノートPCを開いたまま視線を合わせようとしない。
「まさか、またこんな形で三人集まるとはね……」
ミユキは頭を掻いた。
状況としては最悪ではない。が、良くもない。
「私、別に集団行動したくて再契約したわけじゃないんだけど」
ナナが淡々と告げる。
「知ってる。私だってそうだよ」
アイナがすぐに返した。声音は冷たいが、張りつめたものはなかった。
「けどさ、リリカのことは別でしょ。あの子を探すって話なら、あたしも協力するよ」
「そう、“それだけ”のためならね」
「……どういう意味?」
アイナが顔を上げる。その瞳は、冷ややかというより、かすかに怒っていた。
「ミユキが再契約して、ナナも“戻ってきた”のに、
あたしが動いたら『また合わせて来た』って思われるんじゃないかって。
そう思ってた。
でも違う。私は、私の意思でリリカを探したい」
「誰もあんたの意思を疑ってないわよ」
「ほんとに? 昔だってそうだった。
あんたはいつも、前に立って、指示出して、リーダー面してた」
「……言いたいことがあるなら、言えば?」
ナナが一歩、前に出る。声には鋭さがあった。
「あなたが盾だったのは、確かに事実。
でも私たちは、あなたの“犠牲”に甘えたつもりはない。
戦ってたのは皆同じ。
それを今さら“私ばっかり”って言われたら――
正直、うんざりする」
アイナの目に火が灯る。
「私は、守るのが好きだったわけじゃない。
“ああするしかなかった”だけ。
誰も私に、戦わせようとはしてくれなかったくせに」
「ちょっと待って、アイナ」
ミユキが間に入った。
「今それ言い出したら、全員が全員、“誰にも言えなかった”ことをぶつけ合うだけになる。
それじゃ10年前と同じだよ。
私たち、あのときと何も変わってないの?」
しばしの沈黙。
ナナはふっと息を吐いた。
「……ごめん。言いすぎた」
「私も」
アイナが言う。
「ただ、どうしても……一人になりたくなかった。
あの夜から、ずっと、私は何かを“待ってた”んだと思う。
誰かがまた“剣を取って”くれるのを。
でも、それを口にするのが怖かった。
『まだ魔法にすがってるの?』って、言われる気がして」
「言わないよ。
私だって今、すがってる。
日常にも、過去にも、仲間にも」
ミユキは、スーツの胸元に仕込んだ魔法核に手をやる。
「この力を使ってる理由なんて、人によって違うし、変わっていい。
ただ、今こうして“同じ空間”にいることが、何よりの答えじゃない?」
ナナとアイナが、ほぼ同時に目を伏せた。
冷めた空気の中に、かすかな温度が戻ってくる。
「……リリカは、“完全断魔”を選んだ。
それって、記憶や人間関係を失っていく可能性がある。
でも私は、まだ彼女が“私たちのこと”を忘れきってないと思ってる」
「私も。そう思う」
「なら、もう一回、私たちのほうから思い出させる番だよね」
アイナが笑った。その笑顔は、あの頃の彼女に重なった気がした。
「“感情を持って戦う”って、きっともう、すごく贅沢なことなんだね」
「でも、私はその贅沢を選ぶ。
会社でも、街でも、異界でも――自分で選びたい」
ミユキは言う。
「もう誰かに命じられて動く時代じゃない。
私たちが、どう生きて、どう戦うかを決める時代なんだよ」
ナナがゆっくりと頷いた。
「じゃあ、次に動くのは――リリカの“残響”を辿る。
アイナの感じた“渋谷の魔力反応”、調べに行きましょう」
「了解」
三人の視線が交差する。
ぶつかり合った過去を、乗り越えるわけじゃない。
ただ、抱えたまま、隣に並ぶ。それが、彼女たちの“今の正解”。
少女たちは、もう大人になった。
だがその胸には、今も剣が宿る。
静かに、確かに。かつてと違う、意志の剣が。
都内のレンタルスペース。薄い会議用の机と椅子が並ぶだけの小部屋で、ミユキは深く息を吐いた。
「これ、ほんとに再会の場?」
目の前のナナが、腕を組んで壁に寄りかかっている。
その向かいに座るアイナは、持参したノートPCを開いたまま視線を合わせようとしない。
「まさか、またこんな形で三人集まるとはね……」
ミユキは頭を掻いた。
状況としては最悪ではない。が、良くもない。
「私、別に集団行動したくて再契約したわけじゃないんだけど」
ナナが淡々と告げる。
「知ってる。私だってそうだよ」
アイナがすぐに返した。声音は冷たいが、張りつめたものはなかった。
「けどさ、リリカのことは別でしょ。あの子を探すって話なら、あたしも協力するよ」
「そう、“それだけ”のためならね」
「……どういう意味?」
アイナが顔を上げる。その瞳は、冷ややかというより、かすかに怒っていた。
「ミユキが再契約して、ナナも“戻ってきた”のに、
あたしが動いたら『また合わせて来た』って思われるんじゃないかって。
そう思ってた。
でも違う。私は、私の意思でリリカを探したい」
「誰もあんたの意思を疑ってないわよ」
「ほんとに? 昔だってそうだった。
あんたはいつも、前に立って、指示出して、リーダー面してた」
「……言いたいことがあるなら、言えば?」
ナナが一歩、前に出る。声には鋭さがあった。
「あなたが盾だったのは、確かに事実。
でも私たちは、あなたの“犠牲”に甘えたつもりはない。
戦ってたのは皆同じ。
それを今さら“私ばっかり”って言われたら――
正直、うんざりする」
アイナの目に火が灯る。
「私は、守るのが好きだったわけじゃない。
“ああするしかなかった”だけ。
誰も私に、戦わせようとはしてくれなかったくせに」
「ちょっと待って、アイナ」
ミユキが間に入った。
「今それ言い出したら、全員が全員、“誰にも言えなかった”ことをぶつけ合うだけになる。
それじゃ10年前と同じだよ。
私たち、あのときと何も変わってないの?」
しばしの沈黙。
ナナはふっと息を吐いた。
「……ごめん。言いすぎた」
「私も」
アイナが言う。
「ただ、どうしても……一人になりたくなかった。
あの夜から、ずっと、私は何かを“待ってた”んだと思う。
誰かがまた“剣を取って”くれるのを。
でも、それを口にするのが怖かった。
『まだ魔法にすがってるの?』って、言われる気がして」
「言わないよ。
私だって今、すがってる。
日常にも、過去にも、仲間にも」
ミユキは、スーツの胸元に仕込んだ魔法核に手をやる。
「この力を使ってる理由なんて、人によって違うし、変わっていい。
ただ、今こうして“同じ空間”にいることが、何よりの答えじゃない?」
ナナとアイナが、ほぼ同時に目を伏せた。
冷めた空気の中に、かすかな温度が戻ってくる。
「……リリカは、“完全断魔”を選んだ。
それって、記憶や人間関係を失っていく可能性がある。
でも私は、まだ彼女が“私たちのこと”を忘れきってないと思ってる」
「私も。そう思う」
「なら、もう一回、私たちのほうから思い出させる番だよね」
アイナが笑った。その笑顔は、あの頃の彼女に重なった気がした。
「“感情を持って戦う”って、きっともう、すごく贅沢なことなんだね」
「でも、私はその贅沢を選ぶ。
会社でも、街でも、異界でも――自分で選びたい」
ミユキは言う。
「もう誰かに命じられて動く時代じゃない。
私たちが、どう生きて、どう戦うかを決める時代なんだよ」
ナナがゆっくりと頷いた。
「じゃあ、次に動くのは――リリカの“残響”を辿る。
アイナの感じた“渋谷の魔力反応”、調べに行きましょう」
「了解」
三人の視線が交差する。
ぶつかり合った過去を、乗り越えるわけじゃない。
ただ、抱えたまま、隣に並ぶ。それが、彼女たちの“今の正解”。
少女たちは、もう大人になった。
だがその胸には、今も剣が宿る。
静かに、確かに。かつてと違う、意志の剣が。
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