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第3章:旧戦線再結集
第4話:記録に残らない戦争
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日曜の午後、曇天。
コンクリートの高架下にある、静かな公園のベンチに、ミユキたちは腰を下ろしていた。
会社も魔物もない休日の空間。
それでも、今日語られる話は、誰かに聞かれるには重すぎるものだった。
「……この国の歴史から、あの戦いは消されてる」
ミユキが、呟くように言った。
その隣で、ナナがゆっくりと頷いた。
「ニュースにもならなかった。“大規模な異常気象”とか、“テロ予備軍の暴走”とか、全部、適当な言葉にすり替えられてた」
「そう。私たちが命を懸けて守ったものは、記録にも残らなかった」
「なぜ、そんなことになったのか。
今日は、それを話す」
ベンチの背もたれにちょこんと座っていたユリが、ゆっくりと口を開いた。
その声は、普段よりもずっと低く、重く響いていた。
「――魔法少女制度は、“一時的な非常対応”として世界各国で認可された」
「知ってる。異界の門が開きかけた2009年、
人間の精神エネルギーを武装化することで、現実の崩壊を防ぐっていう……“無茶な作戦”」
ミユキが言うと、ユリは頷いた。
「そう。だが、世界各国の対応は一様ではなかった。
中には、魔法少女たちを“公的兵器”として制度化しようとした国もあれば、
最初から“実験材料”としてしか見ていなかった組織もある」
「日本は……どっちだったの?」
ナナの問いに、ユリは目を伏せた。
「日本は、“前線運用”を最も早く行い、最も多くの少女を送り出し、
そして最も早く、“制度を廃止した”国だ」
「つまり……“使い捨てた”ってこと?」
「正確には、“記録ごと無かったことにした”」
その言葉に、空気が重くなる。
「なぜ?」
ミユキが問う。
「なぜ、そこまでして“私たちの存在”を消したの?」
ユリは、空を見上げた。
雲の切れ間から、うっすらと光が差していた。
「“魔法”という概念が、社会制度と共存できないと判断されたからだ」
「え……?」
「感情で動く力。選ばれた一握りの存在。
それを社会に組み込めば、“選ばれていない人間”の不満が膨れ上がる。
つまり、“秩序を乱す要因”になりかねなかった」
ナナが、やや乾いた声で言った。
「だから、いっそ全部なかったことにしたってわけ?」
「そうだ。君たちは、“存在しなかったヒーロー”となった」
「ふざけてるわね」
ミユキの声が低くなる。
「じゃあ、あのとき私たちが流した血も、仲間を失った痛みも、
“なかったこと”にされたの?」
「残念だが、そういうことになる。
政府も企業も、記録を封印し、契約獣たちは異界へ戻された。
それでも、いくつかの契約は解除されずに残った。
それが、今の再契約者たちだ」
「でも、私たちが再び目覚めたってことは……?」
「世界がまた、異界と接触しつつあるということだ。
本来ならあり得ないことだが、
都市の“感情エネルギー”が限界を超えている。
魔法少女のような“感情の共鳴体”が、再び必要になってしまった」
ミユキは、自分の胸の奥でうごめく魔法核の存在を思った。
それは、再契約以来、まるで“心臓の一部”のように感じられるようになっていた。
「皮肉な話ね。
私たちをなかったことにした社会が、また私たちを求めてるなんて」
「だが今度は、“選ばされた”わけではない。
君たちは、自らの意思で剣を取った。
だからこそ、今回は“本当に自由な戦い”なんだ」
ナナが言う。
「でも、記録が残ってないってことは……
今から戦っても、“誰にも知られずに終わる”可能性もあるってことよね」
「そうだ。だが、それでも“守る”ことを選ぶ者にしか、魔法は使えない」
静寂が落ちる。
鳥の声がどこか遠くから聞こえた。
「ねえ、ユリ。
私たちが戦っていた“あの頃の魔物”は、何だったの?」
ミユキが尋ねると、ユリは一拍置いてから答えた。
「“人類の集合無意識”だ。
社会全体が抱える歪み、悲鳴、欲望、憎しみ、諦め――
そうしたものが臨界を超えたとき、
物理空間に“裂け目”が生じ、魔物という形を取って現れる」
「じゃあ今も、“社会の叫び”が具現化してるってこと?」
「その通りだ。今、君たちが戦っている魔物も、
“構造そのもの”に潜む魔力の産物だ」
ナナが苦笑する。
「つまり……“会社”や“制度”そのものが、敵ってこと?」
「誤解してはいけない。敵は、構造ではない。
その中で“見て見ぬふりをする人々の感情”こそが、魔を育てる」
ミユキは、拳を握った。
「だったら……やっぱり、私たちが剣を持つ意味はある」
「たとえ記録に残らなくても。
誰にも認められなくても。
“今を、壊さないために”剣を取る」
ナナも頷いた。
「私たちはもう、あの頃の少女じゃない。
でも、“今を守れる大人”にはなれる」
アイナも加わる。
「じゃあ、もう一度立とう。
今度は、記録じゃなくて、“選択”として」
ミユキは、彼女たちと目を合わせた。
誰もが、確かに前を向いていた。
戦争は、もう始まっている。
でも今度は――私たち自身の意思で。
コンクリートの高架下にある、静かな公園のベンチに、ミユキたちは腰を下ろしていた。
会社も魔物もない休日の空間。
それでも、今日語られる話は、誰かに聞かれるには重すぎるものだった。
「……この国の歴史から、あの戦いは消されてる」
ミユキが、呟くように言った。
その隣で、ナナがゆっくりと頷いた。
「ニュースにもならなかった。“大規模な異常気象”とか、“テロ予備軍の暴走”とか、全部、適当な言葉にすり替えられてた」
「そう。私たちが命を懸けて守ったものは、記録にも残らなかった」
「なぜ、そんなことになったのか。
今日は、それを話す」
ベンチの背もたれにちょこんと座っていたユリが、ゆっくりと口を開いた。
その声は、普段よりもずっと低く、重く響いていた。
「――魔法少女制度は、“一時的な非常対応”として世界各国で認可された」
「知ってる。異界の門が開きかけた2009年、
人間の精神エネルギーを武装化することで、現実の崩壊を防ぐっていう……“無茶な作戦”」
ミユキが言うと、ユリは頷いた。
「そう。だが、世界各国の対応は一様ではなかった。
中には、魔法少女たちを“公的兵器”として制度化しようとした国もあれば、
最初から“実験材料”としてしか見ていなかった組織もある」
「日本は……どっちだったの?」
ナナの問いに、ユリは目を伏せた。
「日本は、“前線運用”を最も早く行い、最も多くの少女を送り出し、
そして最も早く、“制度を廃止した”国だ」
「つまり……“使い捨てた”ってこと?」
「正確には、“記録ごと無かったことにした”」
その言葉に、空気が重くなる。
「なぜ?」
ミユキが問う。
「なぜ、そこまでして“私たちの存在”を消したの?」
ユリは、空を見上げた。
雲の切れ間から、うっすらと光が差していた。
「“魔法”という概念が、社会制度と共存できないと判断されたからだ」
「え……?」
「感情で動く力。選ばれた一握りの存在。
それを社会に組み込めば、“選ばれていない人間”の不満が膨れ上がる。
つまり、“秩序を乱す要因”になりかねなかった」
ナナが、やや乾いた声で言った。
「だから、いっそ全部なかったことにしたってわけ?」
「そうだ。君たちは、“存在しなかったヒーロー”となった」
「ふざけてるわね」
ミユキの声が低くなる。
「じゃあ、あのとき私たちが流した血も、仲間を失った痛みも、
“なかったこと”にされたの?」
「残念だが、そういうことになる。
政府も企業も、記録を封印し、契約獣たちは異界へ戻された。
それでも、いくつかの契約は解除されずに残った。
それが、今の再契約者たちだ」
「でも、私たちが再び目覚めたってことは……?」
「世界がまた、異界と接触しつつあるということだ。
本来ならあり得ないことだが、
都市の“感情エネルギー”が限界を超えている。
魔法少女のような“感情の共鳴体”が、再び必要になってしまった」
ミユキは、自分の胸の奥でうごめく魔法核の存在を思った。
それは、再契約以来、まるで“心臓の一部”のように感じられるようになっていた。
「皮肉な話ね。
私たちをなかったことにした社会が、また私たちを求めてるなんて」
「だが今度は、“選ばされた”わけではない。
君たちは、自らの意思で剣を取った。
だからこそ、今回は“本当に自由な戦い”なんだ」
ナナが言う。
「でも、記録が残ってないってことは……
今から戦っても、“誰にも知られずに終わる”可能性もあるってことよね」
「そうだ。だが、それでも“守る”ことを選ぶ者にしか、魔法は使えない」
静寂が落ちる。
鳥の声がどこか遠くから聞こえた。
「ねえ、ユリ。
私たちが戦っていた“あの頃の魔物”は、何だったの?」
ミユキが尋ねると、ユリは一拍置いてから答えた。
「“人類の集合無意識”だ。
社会全体が抱える歪み、悲鳴、欲望、憎しみ、諦め――
そうしたものが臨界を超えたとき、
物理空間に“裂け目”が生じ、魔物という形を取って現れる」
「じゃあ今も、“社会の叫び”が具現化してるってこと?」
「その通りだ。今、君たちが戦っている魔物も、
“構造そのもの”に潜む魔力の産物だ」
ナナが苦笑する。
「つまり……“会社”や“制度”そのものが、敵ってこと?」
「誤解してはいけない。敵は、構造ではない。
その中で“見て見ぬふりをする人々の感情”こそが、魔を育てる」
ミユキは、拳を握った。
「だったら……やっぱり、私たちが剣を持つ意味はある」
「たとえ記録に残らなくても。
誰にも認められなくても。
“今を、壊さないために”剣を取る」
ナナも頷いた。
「私たちはもう、あの頃の少女じゃない。
でも、“今を守れる大人”にはなれる」
アイナも加わる。
「じゃあ、もう一度立とう。
今度は、記録じゃなくて、“選択”として」
ミユキは、彼女たちと目を合わせた。
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戦争は、もう始まっている。
でも今度は――私たち自身の意思で。
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